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風呂に呪われてるんじゃないだろうか?

 料理が出来ないというより、料理の経験自体が全く無いリリアさんの代わりに台所に立つ。

 まずは手早くイノシシの肉を切っていくが、これはかなり良い肉みたいで筋に引っかかったりはせずかなり良い感じに切る事が出来た。

 切り終えた肉に軽く塩を振って少し置く事で下味を調え、その間に野菜の調理に入っていく。


 肉と一緒に炒めるつもりなので小さく切り過ぎては味がぼやけてしまうので、やや大きめに野菜を切り、火の通りにくいものから順にフライパンに放り込んでいく。

 様々な種類の野菜を混ぜ合わせるように炒めつつ、頃合いを見て肉を投入すると、油の弾ける音と共に香ばしい匂いが漂ってくる。


 肉の色が変わってきたらいよいよ仕上げ……商店街で買った『焼肉のたれ』を取り出して、少しずつ入れながら味を整える。

 ……これで貧乏大学生の得意料理、肉野菜炒めの完成である……いや、決して手抜きをした訳ではない。

 ハッキリ言ってある材料を使って即興料理とか、俺には難易度が高すぎる……炒めればいいのだ。炒めてたれかければ大体美味い。


 その後で、炒め物だけではあまりにも寂しいのでスープも用意する事にして……マジックボックスから『ジークさんが作ってくれたスープ』を取り出し、何食わぬ顔で皿に移す。

 いや、決して手抜きでは無い……これは状況を判断した上での最善策だ。例え天地が引っくり返っても、俺が使い慣れていない材料を使って作るスープが、ジークさん作の美味しいスープに敵う訳が無い。むしろ比べる事すらおこがましい……なので、これはリリアさんに美味しい物を食べてもらいたいという気持ちからの判断であり、決して俺がスープ作るのが苦手とかそういう訳ではない。


 そしてここで、日本人の俺としてはお米食べたい所ではあるが、リリアさんは……というかこの世界の人達はあまりご飯は好きではないので、ここは潔くパンにしておく。

 勿論パンは、美味しい『パン屋産』である。いや、パン焼くとか流石に無理だから……時間物凄くかかるし、この前一人で頑張った結果、ブラックアップルパイと言う魔の物質を作りだした俺としては、ここは素直にプロの仕事に頼っておく事にする。


 うん、偉そうに料理するとか言っておきながら、作ったのは野菜炒めだけの気もするが……それはまぁ、些細な問題だろう。

 も、勿論俺にも得意料理はあるが、手元には必要な材料が揃っていない……ちなみに得意なのは、サンドイッチとか、卵焼きだ。言ってて恥ずかしくなってきた……


「リリアさん、出来ましたよ」

「もうですか!? 凄いです……カイトさんは、料理がお上手なんですね」

「……」


 なんか物凄く素直な賞賛の目を向けられてるんだけど!? どうしようもなくいたたまれない気持ちになるんだけど!? ごめんなさい、肉と野菜炒めただけです!


 料理は今後要練習という事ではあるが、ともあれ、これで夕食の準備はできたので、リリアさんと一緒にテーブルについて食事を始める。

 リリアさんはまず初めにスープを一口飲んで、可愛らしい笑顔を浮かべる。


「とても美味しいです。うちのシェフにも負けないぐらいですよ」

「そ、それは良かったです」


 ごめんなさい、それ俺作ってないです……それ作ったの、料理が凄く上手い方です。

 そして次にリリアさんは、俺が作った野菜炒めに手を伸ばし、それを見た俺の緊張は最高潮に達する。

 やばい、やばいよ……だって、ジークさんのスープに比べて俺の野菜炒めは、どう考えても味が数段劣る。

 貴族として良い物を食べ慣れているリリアさんの舌には合わないかもしれないし……別にばれて困るという訳でもないが、偉そうに料理役を買って出ておきながら、ジークさん頼みとバレるのは恥ずかしい。


 そんな俺の不安はつゆ知らず、リリアさんは野菜炒めを口に運んで……首を傾げた。

 や、やっぱり、美味しく無かったんだろうか……


「あ、あの、リリアさん?」

「……変わった味付けですね。初めて食べました」

「……え?」

「少し辛めで濃いですが、とても美味しいですね」

「……そ、そうですか……」


 リリアさん焼肉食べた事無かったあぁぁぁ!? 確かにこの世界には焼き肉屋もあり、焼肉のたれも普及しているが……よくよく考えれば、リリアさんって元王女で現公爵……筋金入りのお嬢様な訳だし、この手の……なんて言うか、たれが全てを上書きするような味は初めてなのかもしれない。


 す、少なくとも悪い評価という訳ではないみたいで、リリアさんはどこか楽しげに食事を進めていた。

 ……なんていうか、うん……助かった。











 食事を終え食器を片づけると、それなりにいい時間になっており入浴時といった感じだ。


「リリアさん、先にお風呂に入りますか?」

「え? あ、ああ、は、はい。そそ、そうですね!?」

「……リリアさん?」


 俺としてはごく普通に声をかけたつもりだったが、何故かリリアさんは物凄く慌てた様子に変わり、顔をどんどん赤くしていく。


「……す、少しだけ、待ってください。ま、まだ、その、心の準備が……」

「……え、えと……はい?」


 なぜ風呂に入るのに心の準備をする必要があるんだろうか? 

 まるっきり意味が分からず、俺が首を傾げていると……リリアさんは本当に今にも湯気が出そうな程赤い顔で口を開く。


「……か、カイトさんが……さ、先に、入ってくれませんか?」

「え? はぁ……それは構いませんけど……」

「で、出来るだけ……お、おお、お待たせしないようにしますので……」

「……うん?」


 なんだろう? 本当にリリアさんが何を言ってるのか分からない。

 疑問は残るが、先に風呂に入ってくれと頼まれた訳だし……別にそれ自体は構わないので、了承して手早く支度をする。


 その間もリリアさんは終始真っ赤な顔で俯き、なにかブツブツと呟いているみたいだったが……声をかけても慌てふためくばかりで、全く会話が成立しない。

 なのでとりあえずリリアさんが落ち着いてから話を聞く事にして、俺は風呂場に向かった。











 コテージの風呂場は、リリアさんの屋敷の風呂程広くはないものの、一人で入るには十分すぎる広さであり、木造りの浴槽がまた良い雰囲気を出していて、日本人の俺には凄く魅力的だ。

 木の種類は違うだろうけど檜風呂みたいな感じで、どこかリグフォレシアで入った風呂を思い出す……なんていうのか、和風って感じでなんとも趣があって素晴らしい。


 体を綺麗に洗ってから浴槽に浸かり、のんびりと手足を伸ばしてリラックスする。

 あぁ、最高に気持ちが良い……最近っていうか、なんか俺って風呂場でトラブルに遭遇しやすいみたいで、出先で入浴すると慌ただしいものだった。


 アイシスさんとの混浴に始まり、クロも交えての混浴……リグフォレシアでは、あの手この手でジークさんと混浴させようとしてくるレイさん、フィアさんとの駆け引き……そして神界では四人の女神との混浴。

 いや、思い出してみても、我ながらよく耐えきれたものだと思う。


 しかしその点今回は、一緒に居るのはリリアさん……控えめなリリアさんなら、いくら恋人とは言え混浴しようなんて考えない筈だし、安心……


「……あ、あの、カイトさん……」

「え? リリアさん? どうしたんですか?」


 そんな事を考えていると、何故か扉の向こうからリリアさんの声が聞こえてきた。

 なにか急ぎの用事だろうかと思って聞き返すと、しばしの沈黙の後で、リリアさんは震えるような声を返してきた。


「……お、お待たせして、も、申し訳ありません……その、やっと、覚悟が……」

「……覚悟? あの、リリアさん……一体何を……」

「し、失礼します!」

「なぁっ!?」


 妙な雲行きになってきた会話に嫌な予感を感じていると、扉が開かれタオルを一枚だけ巻いたリリアさんが姿を現した。

 え? なにこれ? 一体……なにが、どうなってるの?


 拝啓、母さん、父さん――リリアさんとの避暑地での一泊目、誤魔化し多めの料理で夕食を食べ終え、入浴する事になったんだけど……何故か浴槽にリリアさんがやってきた。本当に訳が分からないけど、やっぱり俺って――風呂に呪われてるんじゃないだろうか?





~とある一幕~


Lさん「良いですか、お嬢様。ミヤマ様と恋人になった訳ですし、必ずやらればならない事があります」


世間知らず「やらなくてはいけない事……ですか?」


悪戯好き「ええ、今まで恋愛経験のないお嬢様はご存じないでしょうが……これは、古より恋人たちの間に置いて必ず行われてきた行為です」


恋愛経験ゼロ「そ、それは一体……」


馬鹿「……混浴です」


無知「……こん……よく……え? えぇぇぇ!?」


すっぽん「驚くお気持ちは分かります。ですが、これを行わなければ、真に恋人同士とは言えないんです!」


月「そ、そんな……そう、だったんですか……」


耳年増「ええ、世の恋人達は、皆それを乗り越えて仲を深めたのです……私のははもそうだったと聞きます」


純粋「……そう……なんですか……で、では……わ、私も……」


悪魔「焦る必要はありません……しかし、機会を逃してはいけません! いずれ乗り越えなければならない試練です……その時が来たら、勇気を出して!」


天使「……わ、分かりました……が、頑張ってみます」



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