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リリアさんはやっぱり可愛いと思う

 着いて早々の衝撃的な展開はあったものの、リリアさんとお互いにこの機会を楽しむという結論に落ち着き、それぞれ選んだ部屋に荷物を置いて、一緒に観光に出かける事にした


 部屋に入り荷物の整理を始めると、丁度そのタイミングでアリスが姿を現した。


「戻りました~」

「うん、ありがとう……で、どうだった?」


 アリスにはルナマリアさんのお仕置きを頼んだ訳だが、正直大抵の事でルナマリアさんが反省してくれるとは思わない。

 だから俺も半分諦めて尋ねたのだが……アリスはニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「……『生まれてきて申し訳ありませんでした』って言ってましたよ」

「……なにしたお前……」


 生まれてきた事を後悔する程!? 頼んだのは俺だけど、アリスは一体どんなお仕置きを……


「え~と、まず物理でボコボコにしました……あっ、ちゃんと回復させたので大丈夫ですよ」

「う、うん」


 六王にボコボコにされるって時点で既に大事な気もするけど、まぁ回復してるならいいか……ルナマリアさんだし。


「その後精神面を責めました」

「……精神面?」

「はい。とりあえず手始めに、彼女が8歳のころに書いた『ママ、大好き』とタイトルの付いた絵を複製して、屋敷の使用人全員に配りました」

「……悪魔かお前……」


 な、何て恐ろしい精神攻撃を……自分がやられた訳でもないのに背筋に冷たい汗が流れてる気がする。


「そして次に、彼女が14歳ぐらいの時に、必殺魔法なる案を考えて書いていたノートを公開……」

「……」


 やめて差し上げて下さい……それ、本当に死んじゃうやつです。


「そしてトドメに、彼女が日々書いている日記を『母親に』進呈してきました」

「……ルナマリアさん、なんか、ごめんなさい……こんな悪魔解き放って……」


 なんだろう、さっきまで怒りしか感じていなかった筈なのに……今は、ただただルナマリアさんが可哀想で仕方が無い。

 ていうか、本当になんて恐ろしい仕打ちを……というか、そんな個人の恥部まで軽々と用意できるとか……やっぱりこいつが一番恐ろしい奴かもしれない。

 とりあえず、なんか……ルナマリアさんに美味しいお土産買って帰ろう。












 ルナマリアさんの冥福を祈りつつも荷物整理を終わらせ、リリアさんと共に先程行った観光街へ繰り出す事にした。

 リリアさんは以前一度ここに来た事があるらしく、どこか懐かしむような目で居並ぶ出店を眺めていた。


「……活気があっていいですね」

「ええ、本当に……この辺りは観光地として有名ですからね」

「へぇ……なんか変わった物も置いてますね。なんですか? あの鉄球みたいなのは……」


 流石に魔界という見慣れない地域である事もあって、見たことの無い食べ物も多く、特にその中でも気になったのは50cmくらいの黒色の鉄球にトゲがいくつも付いているもので、並んでいる他の商品から考えるに食べ物なんだろうけど……ウニ?


「アレはニードルシェルといって、貝の一種ですよ。かなりの高級食材です」

「……大きいですね」

「いえ、アレは小さめですね……大型の物はあの数倍はあります」

「……へ、へぇ……」


 数倍って事は1mを余裕で超えるサイズ……なにそれ怖い。


「あぁっ! カイトさん、見てください! テンペストドラゴンですよ!」

「へ? え~と、あの深緑色の竜ですか?」

「はい。竜種の中でもかなりの大型種で、非常に希少な上位種です……まさか、こんな所で見られるとは……」


 一気にテンションが上がり楽しそうに話すリリアさんの視線の先、ここからかなり離れた位置にある山頂付近を大型の竜が飛んでおり、アレがリリアさんのいうテンペストドラゴンらしい。

 なんか既に名前からして物騒なんだけど、これ大丈夫だよね? 襲ってきたりとかそういう事無いよね?


「……リリアさん、アレ、襲ってきたりしません?」

「いえ、テンペストドラゴンは穏やかな種ですから、こちらから危害を加えたりしない限りは……おや?」

「……リリアさん、気のせいかあのドラゴンこっちに向かって飛んできてないですか?」

「……え、ええ、なんだか私もそんな気がします」


 テンペストドラゴンは、いわゆる翼竜……ワイバーンに似た姿をした竜で、手と一体化した翼を大きく動かしながら観光街の方に飛んで来ていた。

 しかし別に観光街に襲いかかってくるという感じでは無く、大きく空中を二度ほど旋回した後、どこかに飛び去って行ってしまった。


「……な、なんだったんでしょうか?」

「誰かのペットって事はないですよね?」


 この世界では魔物をペットとして飼う事は一般的であり、シンフォニア王国でも荷馬車を引いているドラゴンとかを見た覚えがある。

 だからあのテンペストドラゴンも誰かのペットかと思って尋ねたが、リリアさんは首を横に振る。


「いえ、それはあり得ません。テンペストドラゴンは好戦的ではありませんが、プライドが高く人には懐きません」

「……そうなんですか、じゃあ、なんだったんでしょう今の……」

「さあ?」


 よく分からないテンペストドラゴンの行動に首を傾げていたが、その真意はコテージに戻ってから知る事になった。











「……あの、リリアさん」

「な、なんでしょう?」

「俺達のコテージの前に居るのって……さっきのテンペストドラゴンじゃないですか?」

「そ、そのようですね」


 日が傾き始め、コテージに戻ってきた俺達の目に飛び込んできたのは……何故か先程見たテンペストドラゴンが、俺達のコテージの前で待っているという奇妙な光景だった。

 そしてテンペストドラゴンは俺達に気付くと、口に加えていた巨大な……イノシシに似た獣を地面に置き、何故か身構える俺達に深く首を下げてから飛び去った。


 まるで意味が分からないその行動に茫然としていると、どこからともなくアリスの声が聞こえてくる。


「たぶんカイトさんに挨拶しに来たんですよ」

「……俺に?」

「ええ、魔界の竜種にはマグナウェルさんより、カイトさんを見かけたら礼を持って接するようにって厳命が出てますから……先程の上空での二度の旋回は歓迎の証、そして今回は献上品をもって挨拶に来たんだと思います」

「……なにそれ怖い」


 どうやら一連の奇妙な行動は、竜種の王であるマグナウェルさんからの厳命によるものだったらしく、原因が分かってホッとする反面……魔界で竜に会うたびこんな行動をとられるのかと、軽く戦慄もする。


「……あの、カイトさん……」

「なんですか?」

「……その、えっと……私もぜひ竜王様に……あ、いえ、なんでもないです」


 なにか小声で言いかけていたリリアさんは、慌てた様子で首を横に振り、微かに頬を赤くしてコテージに入っていった。

 その後姿を見送りながら、コテージの前に置かれた巨大なイノシシを見る。


「……これ? どうしよう?」

「私が解体しましょうか?」

「……うん。してくれるなら二人分だけ残して肉は持って行って良いよ」

「終わりました!」

「早っ!?」


 巨大すぎるイノシシを俺とリリアさんで食べきるのは無理だと判断して、解体を申し出てくれたアリスに二人分だけ残して、後はアリスが食べれば良いと告げると……ものの数秒でイノシシは肉に変わった。


「いや~マグナウェルさんさまさまですね。これで四日ぶりの食事に……」

「……お前、戻ったら説教な」

「……え?」


 とりあえず例によって例の如くふざけているアリスに冷たく告げ、切り分けられた肉を受け取ってからコテージに入る。


 するとリリアさんが観光街で買ってきたいくつかの食材を台所に運び、置いてある道具等のチェックをしてえいた。

 あれ? これはもしかして、リリアさんが作ってくれるパターンだったりするのかな?


「リリアさん?」

「あっ、カイトさん。丁度夕食時ですし、支度をしようとしていたところです」

「……えっと、リリアさんが作ってくれるんですか?」

「ええ、そのつもりです……そのつもり……です」


 うん? なんだろう、いまいち歯切れが悪いけど……いや、気のせいか……


「さっきのイノシシをアリスに解体してもらいました」

「では、折角ですしそれを使いましょう」

「はい、俺も手伝いますよ」

「ありがとうございます」


 そうしてリリアさんと一緒に夕食の支度をする事になり、二人で台所に立つ。

 俺が野菜類を水で洗っていると、リリアさんはさっそく肉の調理に取り掛かるみたいで、肉をまな板の上において包丁を振りかぶる……え? 振りかぶる?


「たあっ! って、あ、あれ?」

「り、リリアさん!? 一体何を……」


 リリアさんが振り上げた包丁は輝くような軌跡を残して肉に振り下ろされ、その肉を真っ二つに切り裂く……まな板ごと。

 いやいや、おかしい! なんで包丁でまな板真っ二つにしてるの!?


「……え? い、いえ、しっかり切らないとと……」

「……まな板も切ってますが?」

「うぐっ……」

「あの、もしかして、リリアさん……料理した事無い……とか?」

「……はぃ」


 俺の指摘を聞いたリリアさんは、シュンとした様子で肩を落としてしまう。

 そう言えば、普段のフレンドリーな感じから忘れがちになっていたけど、リリアさんって元王女で現貴族……筋金入りのお嬢様である。料理をした事が無いのも当然かもしれない。


「だ、大丈夫です! ある程度は知っています……切ったり、焼いたり、煮たりするんですよね!」

「それは……ほぼ知らないのと同意だと思います」

「……あぅ」

「……あの、俺が作りますよ?」

「……申し訳ありません」


 ガックリと肩を落とすリリアさんには申し訳ないが、このままリリアさんに任せると、食べる食べられない以前に台所が破壊される。


「いえ、謝らなくても……というより、最初っから俺に任せてくれてよかったんですよ? 俺もそこまで得意ではありませんが……」

「……だ、だって……わ、私も……女ですし……す、少しくらい……見栄を張りたかったんです……」

「……」


 どうやらリリアさんは俺に女性らしさを見せたかったみたいで、その為に経験の無い料理に挑戦してみようと考えたらしい。

 なんでこの人はこんなに可愛いんだろう? 恥ずかしそうに俯き、人差し指を突き合わせている姿なんて、年上とはとても思えないほど保護欲がかきたてられる。


 拝啓、母さん、父さん――一難去ってまた一難という程ではないけれど、やはり色々な事が発生するのはもはや宿命なのかもしれない。まぁ、それはそれとして――リリアさんはやっぱり可愛いと思う。





お嬢様 料理 出来ない OK?

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― 新着の感想 ―
[良い点] この辺りのお嬢様をコミックで見たら、 尊さで死ぬんじゃなかろうか…
[一言] 何故かアリス関連で何かを思い出した…( ꒪꒫꒪)
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