約束のお茶会⑮
ある程度打ち解けて会話が弾むようになってきたタイミングで、エリスさんがチラリと俺の方を見た後で、軽くテーブルに置かれていた角砂糖の瓶に手を触れた。
おそらくではあるが、事前に話していたお土産に角砂糖を渡す時間を作ってくれる件に関して、いまのタイミングはどうだろうかと伺いを立ててくれているのだろう。
他の人には気付かれず、事前に話をしていた俺には気付ける仕草でかつこうしてタイミングが問題ないかどうかをさりげなく尋ねてくれるあたり、さすがはエリスさんだと感じた。
意図を察して俺が軽く頷くと、エリスさんも軽く頷いて口を開く。
「皆さん、少し時間をください。今回の茶会の席に伴い、ありがたくもカイト様が手土産を用意してくださったようですので、いまから配っていただこうと思っています。持ち帰りに関して、マジックボックスを個人所有していない方や容量が不安な方がいましたら、当家が使い捨てのマジックボックスを用意させていただきますのでお声がけください」
「あ、では、私はそちらをいただいてもよろしいでしょうか? マジックボックスは所有していますが、容量がギリギリで……」
そうか、確かにマジックボックスが無いと持ち帰りは不便である。貴族の人なら全員マジックボックスは持ってるという先入観があったが、持ってない可能性や持ってたとしても容量があまり大きくなくてギリギリという可能性もあったのか……実際にマリーさんが、エリスさんに使い捨てマジックボックスを貰う話をしていた。
「物としては、うちの紅茶ブランドであるニフティの新商品で、可愛らしい魔物や動物の形をした角砂糖です。格式ある席とかでは使えないと思いますが、個人で楽しむ分にはいいと思うので……」
「それは素晴らしいですね。私もニフティの商品は愛用させていただいておりますので、失礼ながら新商品を一足先にとなると胸が躍りますね」
「あっ、コーネリアさんは普段買ってくださってるんですね。ありがとうございます」
どうやらコーネリアさんは普段ニフティで買い物をしてくれているみたいで、こういう場でそういう話を聞くとなんだか嬉しくなる。
「ニフティは社交界でも注目の的ですからね。私以外にも利用している者も多いと思います」
「ええ、私たちも何度か購入させていただきました」
「と言っても人気が凄まじく、店舗も予約待ちなので数点しか購入はできていませんが」
「あ、わ、私はその実際に買い物などは……お世話になっている貴族家で、紅茶は一度いただきました」
コーネリアさん以外もニフティで買い物をしてくれているみたいだが、現在でも店舗の方は予約待ち状態なので、複数回足を運んだという人は少ない感じだった。
コーネリアさんとかは伯爵なのでいろいろコネもありそうだし、大きな商会も持っているようなので、もしかすると委託販売していた頃から購入していてくれたのかもしれない。
逆にマリーさんのように、店舗のある首都から遠い場所に住んでいる方は、欲しくても手に入らなかったり、店舗に足を運ぶのが難しかったりするみたいだ。
あっ、じゃあ、知り合いに渡してる注文用の端末を渡そうか……皆さんとは自己紹介もしてしっかり会話もしたので、知人友人という認識だし……ああでも、2個ぐらいならマジックボックスに入ってるが8人分の注文端末は無いな。
う~ん……これ、ゴッド運送って有効かな? ちょっと試してみるか……そう考えた俺は、「ちょっとすみません」と一言断りを入れてから虚空に向けて声をかける。
「……カナーリスさん、人数分の端末とか届けて貰えたりします?」
「はい、こちら即配に定評のあるゴッド運送です。たはぁ~受け渡しの時間に配慮して、いま周囲の時間も一時止めております。そしてこちら、ご注文の注文端末です。贈り物用に包装してありますよ」
さすがのゴッド運送、本当に一瞬で届いたし包装もしてあるという気遣い……相変わらず有能すぎる方である。
「いつも、いろいろとありがとうございます。また今度お礼をさせてくださいね」
「たはぁ~自分としては快人様の激マブスマイルを一目見るだけで、報酬としてはもらい好きな気分ですが、個もらえるものはヒャッハーと貰っとく主義なので楽しみにしておきます……とはいっても、自分大変に安上がりな女を自称しておりますので、快人様が一緒にお茶してくれたりするだけで泣いて喜びますよ」
相変わらずの無表情であるが、声のテンションは普段より高めなので喜んでくれてるっぽい感じである。ともかく再度お礼を言って端末を受け取ると、カナーリスさんは一礼して姿を消して、同時に時間停止が解除されたので、改めて皆に声をかける。
「ニフティで買い物をしてくれてる方も多いみたいなので、お土産と一緒に知り合いに渡している注文専用の端末もお渡ししますね。これを使えば店舗に行かなくても注文できます」
「は、はは、はい。ありがとうございます、光栄です……う、噂に聞くカイト様の友人のみに渡される端末をいただけるとは思っていなくて、少々驚いています」
コーネリアさんもそうだが、他の令嬢の方々も動揺しているってことは……この端末って、もしかして貴族の中では結構有名だったりするんだろうか? 予約待ちせずに買える端末だし、ニフティが貴族の間で人気があるなら噂になっているのも必然かもしれない。
胃痛の悪魔「そろそろ狩るか……♠」
~胃痛戦士列伝④~
【水原香織】
胃痛力:★★★★★★★★
吸引力:★★★★★★★
耐久力:★★★★★★
不憫さ:★★★★★★★★
胃薬量:★★★★★★
恋愛フラグ:★★★★★★★
二部から颯爽と登場した高い胃痛力を持つ異世界人の胃痛戦士。それまでの胃痛戦士と違って一般市民という立場であり、リリアですら胃痛対象になるという幅広い胃痛範囲を持つため、胃痛力はかなりのもの。
反面本人の立場が高くないため、快人が関わらない限り高い立場の者が集まるような場に参加することは無く、実際に関わった権力者の数はそれほど多くは無い。逆に言えば香織が受ける胃痛案件は、90%くらい間接的ではなく直接的に快人が関わってる。
胃痛被害自体はガッツリ受けているのだが、珍しくリリアに波及しないタイプの胃痛案件が多く、リリアの胃に優しい胃痛戦士と言えるかもしれない。
そして本人が貴族等ではないため、リリアたちほど権力者と知り合うことに恩恵は無く、その代わりなのか胃痛案件があるたびに恋愛要素もある程度絡んできており、胃痛フラグと恋愛フラグが同時進行している様子もある。
【三雲茜】
胃痛力:★★★★★★
吸引力:★★★
耐久力:★★★★★★★★★★
不憫さ:★★★
胃薬量:★★★
ツッコミの鋭さ:★★★★★★★★
結構貴重な、快人の交友関係とかの異常さに正面切ってツッコミを入れるキャラ。香織ほどではないにせよ、快人の影響で胃痛案件には巻き込まれている。
ただ、胃は痛いがそれはそれとしてコネを作れるのは儲けものと、強かさと切り替えの早さも持ち合わせているので、胃を痛めている描写は少な目……胃痛案件の際には、快人に猛然とツッコミを入れてることが多いので、本当に貴重な人材と言える。
ただし権力者ではなく、メイド関連で胃や頭を痛めている場面が多く、側近のフラウがメイドということもあってメイド案件が多い気はする。そしてメイド系の案件には、リリアも巻き込まれているので香織よりはリリアの胃に優しくない胃痛戦士。