約束のお茶会⑭
ある程度時間が経過してくると、互いに慣れてきたこともあって最初よりも会話が弾むようになってきた。以前リリアさんの家を訪ねた時もそうだったが、クロは基本的に社交的で優しいこともあって、最初こそ六王という肩書に委縮していたように見えた方々もクロの人となりが分かるにつれて口数が増えてきたように思える。
「そういえば、クロムエイナ様」
「ああ、ボクのことはクロムって呼んでくれていいよ。それで、どうしたの、コーネリアちゃん?」
「では、クロム様と……茶会の場で話すことでは無いかもしれませんが、せっかくこうしてお会いできたのでお礼を……クロム様、ひいてはセーディッチ魔法具商会が、魔法具技術者の教育教材などを公開してくれたおかげで、シャロン商会もケンシュウジッシュウセイ制度を導入できそうです」
「おぉ、それはいいね。そうなって欲しいと思ってたから、実際に取り入れてくれるのは嬉しいよ」
コーネリアさんが口にしたのは、俺の両親も利用した研修実習生制度に関してだった。アレはてっきりセーディッチ魔法具商会としての取り組みだと思ったのだが、どうやらクロは教育のカリキュラムなどを他の商会にも共有していたみたいだ。
「母さんと父さんが利用した制度、アレ公開してたんだ?」
「うん。元々人族の魔法具技術者を増やすってのが目的だったしね。最初はウチの商会で試験的に導入してみて、問題なさそうだったから他の商会にも共有したんだよ。セーディッチ魔法具商会だけでやって技術者を抱え込むんじゃなくて、いろんな商会に導入してもらって人族の魔法具技術者を増やしてもらうことで、競争とかも生まれて切磋琢磨して人界全体の魔法具関連技術が発展していってほしいからね」
「本当に素晴らしい試みだと思います。実際に魔法具作成の分野では、人界は魔界に大きく劣っているのが実情で、高度な技術を持った人族の魔法具技術者自体がかなり希少でしたから、教育方法や教材といったものを作成してもらえてありがたい限りです。シャロン商会は、セーディッチ魔法具商会ほどの資金力はありませんので、少数ではありますが、近くケンシュウジッシュウセイを募集する予定です」
「うんうん。そいう子たちが育って、魔法具技術者が増えていくのが楽しみだね」
クロは結構魔法具技術自体の発展を望んでいるところがあり、特許なども一部は無料で開放していたりしているし、記録魔法具や映像魔法具もいろんな商会が作っているということは、技術提供とかもしているのだろう。
その辺りはやはり、魔法具の生みの親としての貫禄を感じる部分である。
「そういえば、本人たちはソコソコ上手くやってるって言ってたけど、母さんと父さんはどう?」
「アカリちゃんもカズヤくんも凄いよ。特に記録魔法具とか映像魔法具って、カイトくんたちの世界の技術を元にしてるから、魔法術式で再現しないとだめってのはあるけど、あのふたりは目指すべき完成形を知ってるから大活躍だね。もう少し経験を積んだら、チームを任せてもいいんじゃないかって話も出てるよ」
母さんと父さんに聞いても謙遜してるのか、「超ホワイトな環境でのびのびやってる」といった感じの返答だったが、クロの口振りだと結構活躍してるっぽい。なんかそういう話が聞けるのは嬉しい限りである。
「コーネリア様のシャロン商会は、人界に本社を置く魔法具商会の中では、転移魔法具の取り扱いもある大商会ですし、そこに魔法具技術者が増えるのは私も楽しみですね」
「ふむふむ、やっぱり魔法具の中で高価で扱いが難しいのは転移魔法具なんですね」
「そうですね。術式自体の難しさや、魔水晶も高品質のものが要求されるなど、やはり転移魔法具は最上位クラスの魔法具ですね。貴族でも男爵や子爵になると、所有していない貴族家も多いですね」
俺の質問にエリスさんが分かりやすく答えてくれる。確かに転移魔法具って日本円にして数億円から数十億円ってレベルの超高級魔法具だし、いくら貴族と言えども簡単に手が出るものではないのだろう。
「当家も転移魔法具は所有してないですね。なので、首都に出てくるのも一苦労ではあります」
「有ると無いとじゃかなり違いますよね。ちなみに、マリーさんは今日はどうやってここまで?」
「お恥ずかしながらリッチ男爵家の領地に転移ゲートがあるような大きな街は無く、転移魔法が使える者を雇うような金銭的余裕もありませんので、馬車で転移ゲートのある街まで移動して、転移ゲートで首都に着た後はお金を支払って馬車を借りて移動という形になりますね。今回は、首都の転移ゲートまでエリス侯爵令嬢様が迎えをよこしてくださったので、その馬車できました」
言われてみればなるほどという感じだった。確かに転移ゲートは大きめの都市じゃないと無いし、転移魔法具を所持してない場合は必然的に転移ゲートのある場所まで移動して、一度首都の転移ゲートに移動して、そこからまた移動という工程が必要になる。
転移屋とかも収入面とかを考えると当然客の見込める大きな都市でしかやってないだろうし、地方に住んでいて転移魔法具を持っていない場合は、移動も中々に大変なのだろう。
シリアス先輩「丁寧に胃痛フラグ積み重ねてるなマリー……そういう情報渡しちゃうと、胃痛の悪魔が善意でぶん殴ってくるぞ……」
~胃痛戦士列伝③~
【ライズ・リア・シンフォニア】
胃痛力:★(防波堤込み)
吸引力:★(防波堤込み)
耐久力:★★★★★
不憫さ:★★★
胃薬量:★
出番の少なさ:★★★★★
シンフォニア王国の現国王であり、本来であれば快人が住んでいるのがシンフォニア王国である関係上、多くの胃痛に悩まされるはずの土台はガッチリ揃っているのだが……シンフォニア王国で発生する胃痛案件は、基本的に大半リリアの胃に叩き込まれているため、リリアが防波堤となってライズが直接的な胃痛者になる機会は少ない。
最強の胃痛戦士の吸引力の凄まじさ故とは言えるが、その胃痛力は胃痛戦士の中でも最弱クラスと言っていいだろう。最愛の妹の胃を犠牲にして食う飯は美味いか?
【クリス・ディア・アルクレシア】
胃痛力:★★★★★
吸引力:★★★★
耐久力:★★★
不憫さ:★★★★★
胃薬量:★★★★
今後の危険性:★★★★★★★
アルクレシア帝国の現皇帝であり、三国王の中では一番快人によるボデ胃ブローを喰らっていると言っていい立場かもしれない。アルクレシア帝国の建国記念祭において短期間に喰らったボデ胃ブローはかなりの数であり、なかなかの胃痛力を誇る。なお、当然の如くリリアも巻き込まれてた。
登場当初はどっちかというと腹黒寄りな空気を出していたが、恋愛ポンコツな面も出てきて丸くなった結果、胃を殴られるようになったと言っていいかもしれない。
ついでに、ここのところ胃痛の悪魔がアルクレシア帝国貴族方面に魔の手を伸ばしているので、今後の胃痛展開が危惧される。
【ラグナ・ディア・ハイドラ】
胃痛力:★★★
吸引力:★★★★★★
耐久力:★★★★★★
不憫さ:★★★
胃薬量:★
国王を辞めれる可能性:★
ハイドラ王国の現国王であり、最近勇者パーティの問題児(迷子)と超問題児(義賊)が活発に行動しているので、苦労している場面も多い。
シロが建国記念祭に襲来という、とてつもない威力の胃痛案件に遭遇してはいるのだが……平行世界での出来事であり、ラグナは記憶を引き継いでないため一番大きな胃痛案件は、ある意味では回避しているともいえる状態。尚、リリアは記憶を引き継いで平行世界からのボデ胃ブローを喰らっている。
割と常識人気質なところもあるので、K案件に翻弄される条件は整っているが……なんだかんだ上手くかわす老獪さも持ち合わせているので、細かな胃痛こそあれ大きな胃痛は回避しそうという意味では、吸引力はあるが胃痛力は低めといえる。