約束のお茶会⑨
ドレス姿の令嬢たちが綺麗に直立して並ぶというのもある意味では奇妙な光景ではあるが、そんな状態になるのも仕方ないと言えた。
快人だけが来るのであれば、話はそう複雑なものでは無かった。エリスから事前に快人の人となりは手紙で伝えられており、どういった態度で接するべきなのかもアドバイスされていた。
快人だけが来る状態であれば、快人に皆を待たせてしまったという風に感じさせないために、まだ集まって間もない風を装いつつ、思い思いに雑談した状態で対応することが出来ただろう。
だがそこにクロムエイナが来るとなれば、話はまったく変わってきてしまう。そもそもではあるが、快人は確かに周囲への影響力も凄まじく、圧倒的な交友関係と発言力を有する世界の特異点ではある。だがしかし、単純な地位のみを表現するのなら、異世界人かつ移住者であり、立場だけで言えば一般市民に近いと言える。
それに対してクロムエイナは、魔界の頂点である六王の一角であり、実質的な魔界の代表的なポジションである存在だ。界王リリウッドと並んで温厚であるとは知られているものの、実際にクロムエイナと話した経験がある者はこの場にはおらず、どのように接するべきなのかが分からない上に、クロムエイナの参加が判明してからこうしてやってくるまでほとんど時間が経過していないため準備もできていない。
とりあえず失礼が無いようにと考えれば、こうして整列して待つのも致し方ないだろう。
「皆さん、事前にメイドから連絡は来ていると思いますが、今回参加予定だったミヤマカイト様の同行者として、クロムエイナ様も茶会に参加してくださいます。自己紹介などを行いたいところでしょうが、立ったまま順番に自己紹介をしていくのも時間がかかってしまいますので、まずは席につきましょう。どうぞ、こちらに……」
しかし、さすがはエリスというべきかここに来るまでにある程度の落ち着きを取り戻した彼女は、主催者としてしっかりと場を仕切る。
直立して並ぶ令嬢が順々に自己紹介しては、快人やクロムエイナも微妙な空気になるであろうことを見越して、先に席につくことを促す。
そうしてエリスが主催者として明確に指揮を執ってくれれば、令嬢たちもホッとした様子で大テーブルに用意された席に移動していく。
「カイト様、クロム様、こちらのお席にどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう、じゃあ、失礼するね」
さりげなく席を促しつつ、快人とクロムエイナを並んで座らせて、エリス自身は快人の隣に座る。
(席順は少し悩みましたが、カイト様の隣に座る形でいいはずです。カイト様とクロム様を隣同士にするのは当然として、クロム様の隣に座るかカイト様の隣に座るかの二択ですが……他の令嬢たちの心境を考えれば、カイト様、クロム様、私という並びでクロム様を挟むようにするべきかもしれませんが、ここは茶会初参加で不安を感じているであろうカイト様のフォローを優先として、カイト様の隣が最善……だと思います)
ちなみにこの判断は正解であり、貴族たちが快人に無礼を働かないかどうかと覗き見をしていたマキナが、クロムエイナより快人を優先するその判断を見て「基本が分かってる」と頷きつつ、エリスの評価を上げていたのだが本人には知る由もなかった。
「改めまして、今回は私主催の茶会に参加してくださってありがとうございます。今回参加してくださった貴族令嬢の方々は、皆カイト様とクロム様に関してはご存じだと思いますが、カイト様とクロム様は初めて見る顔が多いのではないかと推測します。なので、カイト様とクロム様さえよろしければ、これより一人ずつ簡単な自己紹介をさせていただこうと思うのですが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、俺としても最初に自己紹介してもらえるとありがたいです」
「ボクも、何人か見た覚えのある子もいるけど、直接話したことがある子はいないし名前とか教えてもらえると嬉しいな」
茶会開始前に集まった令嬢たちの簡単な自己紹介をしたいというエリスの提案に、快人とクロムエイナも笑顔で頷く。
快人だけであれば、ひとりずつ自己紹介と挨拶をという流れにしたかもしれないが、クロムエイナも参加しているためそれをするとかなり時間がかかってしまうので、令嬢それぞれに自己紹介をさせる形で簡潔な挨拶とする判断であり、令嬢たちにとってもクロムエイナに対してどう接すればいいのか迷っている場面でこの提案はありがたく、特に異論も出ずに最初は令嬢たちの自己紹介という流れになった。
マキナ「うんうん。愛しい我が子を最優先にする判断、もちろん基本中の基本って言えるものではあるけど、六王であるクロムエイナの肩書に惑わされずに愛しい我が子最優先の判断ができるのは、悪くないね。ちゃんと基本が分かってる貴族みたいで私も安心したよ」
シリアス先輩「またエリスが知らないところで、胃痛になりそうな高評価を得てる……いや、本当に優秀なのは間違いないんだけど……なんか不憫」