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前途多難な気がする

 風の月9日目。フィーア先生に貰った予約券を持ち、魔界の避暑地カーレルにやってきた。

 カーレルは年間を通して秋に近い涼しげな気候であり、転送ゲートからも近く観光地として非常に人気の高い場所らしい。


 辿り着いた場所は避暑地というイメージ通り、大きな湖に面した高原で、非常に美しい景色の中にポツポツと立つ木造りのコテージが映え、対岸には色々な店の並ぶ観光街も見える……成程、このコテージで宿泊して、必要なものがあれば対岸の街で買い物が出来るという訳だ。


 これは思った以上に良い所だ……昨日の今日という急な出発だったから一人で来たけど、誰かと一緒に来た方が楽しかったかもしれない。

 まぁ、それは次の機会の楽しみにするとして、今は宿泊予定のコテージに行く事にしよう。幸い荷物はマジックボックスの中だから手ぶらで大丈夫だし、やはり魔法って便利なものだ。


 のんびりと景色を楽しみながら、転送ゲートで予約券を提示して受け取った鍵を見ながら、宿泊するコテージに辿り着くと、微かな木の香りが鼻孔をくすぐる。

 中はかなり豪勢で、魔法具を用いた風呂までついていて、正にリゾート。なんだか凄く贅沢な気がする。


 複数人の宿泊にも対応しているのか、寝室も複数あるみたいで、その内の一つを選んだ後、荷物の整理を始めようとしたタイミングである事に気が付いた。


「……しまった。バスタオルが無い」


 そう、着替えや他の生活用品は普段自分が使っている物を持ってきたのだが……バスタオルは普段リリアさんの屋敷の物を使用していた為、うっかり忘れてしまったみたいだ。

 一応フェイスタオルはあるから、それを使うという手もあるが……折角なんだし、散策がてら観光街に買いに行くのも良いかもしれない。

 あまり大きく無かったとは言え、観光地の街だしタオルぐらい置いてるとは思う。


 そう考えた俺は、広げかけていた荷物をマジックボックスにしまい、コテージにしっかりと鍵をかけてから出かける事にした。














 快人がコテージから去り、30分程経った後、そのコテージに一つの影が近付いてくる。


「……久々に来ましたが、やはり良い景色ですね」


 のんびりと呟きながら微笑みを浮かべ、煌く金髪を揺らしながらコテージに辿り着いたリリアは、手に持った鍵でコテージの中に入り軽く室内を見渡す。


「これはまた随分良い所を借りたんですね……さて、ルナが来るまでまだ時間はあるでしょうし、どうしましょうか?」


 そう言って呟きながら、リリアは軽く自分の体を見つめる。

 彼女は転移魔法を使用してゲートまで移動した快人とは違い、馬車でゲートまで移動してきた事もあってか、気になる程ではないが少し汗をかいているように感じられた。


「……軽く入浴しますか……」


 実はリリアはかなり風呂好きであり、元々羽を伸ばす予定で来た事もあり、早い時間ながら入浴をする事に決め浴室の方へ移動していった。

 この後に待ちうける悲劇を知る由もなく……











 観光街は思ったより近く、40分程度で買い物は済み、俺は改めて荷物の整理をする為にコテージに戻ってきた。

 そして鍵を開けてコテージの中に入ると……


「……あれ? なんだ、この荷物?」


 コテージのリビングには小型の旅行かばんが置いてあったが……当然ながら俺はそんなものを持ってきた覚えはない。

 ひょっとしてコテージを間違えた人が居るとか? いや、それじゃあ鍵が開かないか……泥棒? いや、泥棒がかばん置いて盗みはしないだろう。


 その奇妙な状況に俺が首を傾げていると、微かに木の軋む音と共に小さな足音が聞こえてきて……何故か聞き覚えのある声、この場に居る筈の無い人の声が聞こえてくる。


「……ルナ、早いですね。すみません、先にお風呂を――え?」

「……え?」


 そして現れたのは、水に濡れた髪をタオルで拭きながら、薄手のバスローブに身を包んだリリアさんだった。

 バスローブの隙間から覗く微かに濡れた白い肌は生唾ものの美しさだったが、そんな事を考えるよりもこの状況の方が衝撃で、俺とリリアさんは見つめあったままで硬直する。


 リリアさんは俺の姿を見て大きく目を見開き、ダラダラと大量の汗を流し始める。


「……カイト……さん?」

「えと、なんで、リリアさんが……」

「……き」

「き?」

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

「ッ!?」


 そして直後に絹を裂くような悲鳴と共に、リリアさんは物凄いスピードで奥の部屋に消え、ポツンと取り残された俺は茫然とリリアさんの去っていった方向を見つめる……えっと、これ、一体どうなってるの?









 リリアさんはしばらく経って服を着て帰ってきて……現在俺とリビングにあるテーブルで向かい合わせに座り、真っ赤な顔で俯いていた。


「……」

「……」


 気まずい、とんでもなく気まずい……なんでこんな状況になったんだろう?

 俺はフィーア先生から避暑地の予約券を貰って、休養を取る為にここにやってきた訳なんだけど……買い物から帰ると、何故かコテージには風呂上がりのリリアさんが居て……


「……か、カイトさん……」

「え? あ、はい!」

「な、なんでここに……る、ルナが……来る筈じゃ……」

「え、えと、ルナマリアさんがどうかは分かりませんが……俺は知り合いから、使わないからと予約券を貰って……」


 リリアさんはルナマリアさんが来ると思っていた。俺は一人だと思っていた……この二つから導き出される答えは……


「ル~ナ~!!」

「お、落ち着いて下さいリリアさん!?」


 地の底から響くような声をあげるリリアさん……うん、分かってた事だけど……あの駄メイドの仕業か!!

 って事は、フィーア先生もグルって事なのかな? そ、そんな事に加担するような人じゃないと思ってたのに……


 怒り心頭の様子でルナマリアさんにハミングバードを飛ばすリリアさんを見ながら、俺もフィーア先生に軽く苦情のハミングバードを飛ばす。


「……あの、これ、どうしましょう?」

「……カイトさん……み、見ました?」

「え? な、なにをですか?」

「で、ですから……わ、わわ、私の……はだ、裸……」

「ッ!? み、見て無いです! てか見えなかったです!! ちゃんとバスローブ着てましたし、驚きの方が強くて……」


 これは嘘偽りなく本当の事だ。確かに風呂上がりのリリアさんを見はしたが、バスローブを着ていたので、その倫理的にヤバそうな場所は見えて無いし……驚きが強すぎてじっくり見る暇もなかった。

 うん、もうちょっとちゃんと見ておけばよかったとか、そんな事は思って無い……断じて思って無い!


「……そ、そうですか……良かった」

「あ、はい。えっと……それで、その、どうしましょう?」

「……ど、どど、どうとは?」

「で、ですから……これから、どうするか……帰ります? 泊まります?」


 ルナマリアさん達への怒りは一先ず置いておいて、本来なら二泊三日の予定であるこの宿泊をどうするかという話題を口にする。

 リリアさんは俺の言葉を聞いて、何度か視線を動かし、何度も悩む様に表情を変えて……そして、真っ赤な顔のままで呟く。


「……こ、このまま……い、一緒に泊まりましょう」

「え? い、いいんですか?」

「は、はい! ささ、幸い部屋は複数ありますし……そそ、そもそも、わ、わわ、私と、かか、カイトさんは。こ……こいび……恋人同士な訳ですし……も、問題はない筈です」

「……そ、そうですね。分かりました」

「……」

「……」


 どうしよう? 真っ赤になって慌てるリリアさんが可愛すぎて、同時に空気が甘酸っぱすぎて……会話が上手く続かない!?

 お、おかしいな……休養に来た筈なのに、なんでこんな緊張のただ中に……


 無言で見つめ合う俺とリリアさん、その静寂を破ったのはほぼ同時に飛んで来たハミングバード……ルナマリアさんとフィーア先生からの返事だった。

 ハミングバードは俺達の前で止まり、俺とリリアさんは顔を見合わせて頷いてからそれぞれハミングバードに触れる。


 そして俺の前に浮かびあがったフィーア先生からのメッセージは……とてつもない量の謝罪で埋め尽くされていた。

 本来は短い文を送る筈のハミングバードだが、フィーア先生の魔力が凄いのか技術が凄いのか、かなりの文章量で……ルナマリアさんに頼まれて俺に予約券を渡したけど、そんな事になるとは思っていなかった。本当にごめんなさいと、何度も何度も書いてあり、見ているこっちの方が申し訳なくなる気分だった。


 と、ともかくフィーア先生に悪気が無くて安心した俺は、ホッと胸を撫で下ろしながら、フィーア先生に返事を送った後で、リリアさんの方に視線を移す。

 リリアさんは空中に浮かびあがった文字を見ながら、怒りを堪えるようにプルプルと肩を揺らしている。


 一体どんな返事が? とそう思いながら覗き込むと「しっかり抱かれて帰って来てください」と、なんともルナマリアさんらしいふざけた文章が浮かんでいた。


「ルナァァァァァ!!」


 リリアさんの怒りは尤もである……てか俺も凄い腹立った。だけど、あの、リリアさん……机粉々になってますから……


「り、リリアさん!? 落ち着いて下さい!」

「うぅぅ、だって、だってぇぇぇ!」

「気持ちは凄く分かります。分かりますから、今はとりあえず落ち着いて……」


 とりあえずリリアさんの怒りを鎮めなければ、最悪このコテージが宿泊を待たずして粉々になってしまう。

 ルナマリアさん的には恋のキューピットにでもなったつもりなんだろうが……絶対半分以上楽しんでいるであろうあの人を、俺も許す気はない。


「……アリス!!」

「へ? あ、はい!?」

「……ちょっと……頼む」

「……え~と、あっ、はい。お仕置きしてきます」


 短い言葉で告げると、アリスはすぐに俺の意図を理解したのか姿を消す。

 とりあえずルナマリアさんへの逆襲はこれで良いとして、怒りのオーラが物理的な力を持ちそうなリリアさんをなんとかしなければ……


 拝啓、母さん、父さん――避暑地に来た訳なんだけど、何故かそこにはリリアさんが居て、一緒に泊まる事になってしまった。それ自体は嬉しいんだけど……なんていうか、色々な意味で――前途多難な気がする。





ルナマリア「ふふふ、今頃お嬢様とミヤマ様は――はっ!?」

アリス「とりあえず、遺言を聞きましょうか……」

ルナマリア「……わ、私が滅んでも、すぐに第二第三の私が――ぎゃあぁぁぁぁ!?」

アリス「私個人としてはgoodjobですが……悲しいけど、私……カイトさんの味方なんすよね」





シリアス先輩「甘い……だが、今日だけは許してあげる……なぜなら、クリスマスについに私が!!(注・まだ決定ではありません」



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― 新着の感想 ―
[一言] 悲劇?喜劇の間違いだろ(๑ ิټ ิ)
[一言] よくよく考えると、アリスをカイトが使うシーンってここだけじゃない?
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