約束のお茶会⑧
雑談をしながら移動している最中に、ふと俺はあることを思い出してエリスさんに声をかけた。
「そういえばエリスさん、えっと……ちょっとした手土産みたいなものを持ってきたんですが、これはいま渡してしまってもいいですかね?」
「え? 手土産ですか?」
「ええ、せっかく招待してもらったのでなにか無いかとカナーリスさんに相談したところ、ニフティで取り扱う予定の新商品を用意してくれたので、それを持ってきました」
「ひぇっ……そ、それはご丁寧にありがとうございます。そ、それはまた、かなり高価なラインの品だったりするのでしょうか?」
「ああいえ、むしろ安目に買いやすいコンセプトで作ったものらしいです。高価すぎるものを持って行くと、もてなす側の顔を潰してしまうだろうって、カナーリスさんが低価格帯ですけど見た目が華やかなものをってことで……これです」
ニフティは高級志向の紅茶専門店ではあるが、もう少し手軽に買える品もあったほうがいいと、低価格帯のラインナップを増やす予定みたいで、今回持ってきたのもそのうちのひとつだ。
ちなみにコレにはネピュラやイルネスさんは関わっておらず、カナーリスさんが企画して作った商品である。
「とても華やかで可愛らしい箱ですね。ちなみに失礼ですが、中身はどのような品でしょうか?」
「少し変わった形の角砂糖の詰め合わせですね。特別な効果とか製法が特殊だったりってわけでは無くて、人気のある魔物とかをモチーフにした、可愛らしくてカラフルな感じのデザイン重視のやつです。えっと、こういう感じの中が見えるタイプの瓶が3つ入ってます」
カナーリスさんが用意してくれた角砂糖セットは、ネピュラが作った細工砂糖のような仕掛けとかは無く、単純に形と色を人気のある魔物とかをデフォルメしたデザインであり、ファンシーで可愛らしい商品だ。
ファニーラビットとかプチデビとか、パッと見てわかるぐらいによくできており、動物好きのジークさんや可愛いもの好きのルナさんが大絶賛していた。
「これはまた素晴らしく精巧なデザインですね」
「ホントだね。かなり細かく作り込んでるし、人気が出そうだけど……これ、製造に手間かかりそうだし、かなり高価になっちゃう気がするんだけど、低価格帯の商品で出すの?」
「カナーリスさんは『ゴッドパワーで、砂糖入れれば成形する道具作ったのでコストは基本ゼロです』って言ってた」
「あの人はね……商売の分野に居る存在としては本当に反則級だと思うんだ……」
コストとかその辺をいくらでも無視できる全知全能のカナーリスさんは、クロの目から見てもチートなようでどこか呆れた様子で苦笑していた。
まぁ、カナーリスさんはあくまでニフティの責任者というだけで他の商会と取引したりだとか、アニマがやり取りしている商店や商会との取引に関わったりとかはしてないし、そういうところに全知全能の己が関わっていくべきではないって感じの良識を持ち合わせてる方なので基本的には問題ない。
ニフティに関しては、シロさんに許可とった範囲内では好きにやってるっぽいけど……。
「まぁ、なんにせよ素敵な手土産をありがとうございます」
「喜んでもらえたならよかったです。いちおう他の参加者の人にも渡せる機会があればと思って、多めに持ってきてるんですが……そういうのはやらないほうがいいですかね?」
「いえ、その辺りは主催者である私の裁量の範囲内ですし、迷惑になってもいけないので茶会の場にカイト様へ贈り物などは持ち込まないようにと他の参加者には言っていますが、カイト様が配ったりする分には問題ありません。皆喜ぶと思います」
「それなら、茶会の終わり際辺りに配っても大丈夫ですかね?」
「ええ、問題ありません」
エリスさんの許可も貰えたので、参加者の人たちにもあとで角砂糖は配ることにしよう。8人ということなので、持ってきた分で足りる。
いやなんか「足りなかった場合はどっか適当なところに向かって一声かけてもらえれば、ゴッド運送で即配しますので大丈夫です」ってカナーリスさんが言ってたので、足りなくても追加はすぐ届くので問題ないと言えば問題は無い。
「あっ、見えてきたね。あそこかな? ……おや?」
「ええ、あちらのテラスが今回の会場です」
「なるほ……うん?」
「……気にしないでください。ああなるのも無理は無いと思うので……」
別邸と思われる建物をぐるっと回って、中庭らしい場所に出ると、人が集まっている場所が見えてそこが茶会の会場であることが分かった。
だが、どうも妙というか気になることがひとつ……参加者らしい貴族令嬢っぽい人たちが居るのは間違いないのだが……物凄く綺麗に整列して待ってるんだけど……なんであんな……あっ、そうか!? クロが居るからか……。
シリアス先輩「そりゃ、シロが許可した範囲とはいえ基本なんでも作れて、好きに量産できるゴッドは商売の分野では反則……あくまで歩く治外法権の快人が一種の道楽みたいな感じでやってる紅茶ブランドでだけゴッドパワー振るってるので問題になって無いだけか……」