約束のお茶会⑦
茶会の会場へはエリスさんが直接案内してくれるとのことで、俺とクロはエリスさんに続くように移動しつつ雑談をする。
「そういえばエリスさん、今回の茶会って何人ぐらいが参加するんですか?」
「今回は、カイト様が初めての参加ということもありまして雰囲気だけを感じてもらえればと思いまして、私たちを除けば8人参加する形になっています。できればカイト様と年齢の近い令息も招待したかったのですが、適した人物がおらず貴族令嬢が8人という形になっていますが……」
「ああ、それは大丈夫ですよ。むしろいろいろ気を使ってもらってありがとうございます……貴族令嬢が8人ってことは、同行者も合わせると16人ぐらいですか?」
申し訳なさそうに語るエリスさんだが、この世界が女性比率の方がかなり多いのは分かっているし、俺だけ男性であとは女性という状況もそこそこ経験しているのでまったく問題ない。
ただ気になったのは、エリスさんは俺たちを除いて8人が参加と言っていたが、貴族令嬢が8人と言っているということは同行者は含めてないのではないかと感じた。同行者は貴族は不可だったはずだ。
「ああいえ、貴族の茶会における同行者は基本的に護衛を連れてくる場合が多いのです。護衛が近くに居ないと不安という者も居ますが、素直に護衛と書くと主催者の警備を信用していないように取られたりもするので、同行者と表現している形ですね」
「え? そ、そうだったんですか!?」
「とはいえ、あくまで護衛を連れてくる者が多いというだけで、カイト様のように意味通りの同行者として他の貴族などを連れてくる場合もありますのでカイト様やクロム様が間違っているというわけではありませんので、ご安心ください。そういった同行者が来ても問題ないように、主催者側が席数に余裕を持たせて準備していますので」
同行者=護衛って暗黙の了解みたいなのがあったのか……全然知らなかった。普通の同行者を連れてきたらダメというわけではないみたいだが、驚きの事実である。
「そうだったんだ。ボクも全然知らなかったよ」
「貴族的な風習というか慣例というか、貴族でないとあまり知る機会はありませんから無理もないかと思います。茶会の同行者もそうですが、それ以外にもいろいろとそういったものは多いですからね。別に深い理由などがあるわけでは無いものも多く、昔からそうしているから続いてるだけのようなものもありますし……貴族である私が言うべきでは無いかもしれないですが、面倒なものも多いです」
そういって苦笑を浮かべるエリスさんを見て、ふと以前にクリスさんからの手紙で飾り文字に関してよく分からず混乱したのを思いだした。
言ってみればあれも貴族的な慣習のひとつなわけだし、そういうのがたくさんあると思うと……やっぱ貴族って大変そうだなぁと、そう感じた。
「ですが、少し意外でしたね。いえ、カイト様は異世界人ですし、クロム様は過去に茶会に参加された記録はありませんので、同行者の意味合いを知らなくとも不思議ではないのですが、幻王様などが事前に意味をお伝えしたりするのではと思っていたので……」
「……あ~いや、アリスは……」
「……シャルティアは、カイトくんに害があるなら事前に教えてくれるけど、ボクたちやエリスちゃんがアタフタするだけなら、面白がって見てるからね」
そう、もし仮に同行者の正しい意味を知らないことが、俺の不利益とかに繋がるならアリスは事前に意味を教えてくれただろう。だが、今回の場合は別にクロを同行者として連れて行っても完全に間違いというわけでもなく、エリスさん側も対応できるだけの準備をしていたので問題ないと判断して、クロの言うようにさっき初めて正しい意味を知った俺たちを面白がって見てると思う。
まぁ、リリアさん関連とかはさすがに同情してたりするのか、俺に直接関係なくてもたまにフォローしたりしてるみたいだが……。
そんなことを考えていると、俺の後方から姿は現さないままでアリスの声が聞こえてきた。
「……いや、別になんにもしてない訳じゃないんすよ。今回で言えば、ちょっと悪だくみしてた貴族家2つほどに、優しく忠告したりしましたしね」
「っ……げ、幻王様!? それは……」
「ああいや、エリスさんが気付けなかったのは仕方ないですよ。そもそも繋がり薄いところでしたし、動き出す前に私が一声かけたので、実際に兆候とかも無かったでしょうしね」
アリスの言葉を聞いて、エリスさんが明らかに驚愕したような表情を浮かべていた。主催者として、そういうことを企んでいる貴族家が居たことに驚いているのだろう。
「いや、本当に大した話じゃないんですよ。セコいというか小賢しい悪戯レベルの話で、茶会に参加する予定の子爵家三女に自分たちをそれとなくカイトさんに紹介するように圧をかけようとしていたのがひとつと、同行者に貴族が禁止されているので子飼いの商人を誰かの同行者として捻じ込めないか画策していたのがひとつ……悪事ってほど大げさでも無いので、優しく忠告しただけですよ……まぁ、なんか泣きながら地面に頭擦り付けて謝罪してましたが……」
「なにしたんだお前……」
確かにいまの話を聞く限り、悪だくみというほど大げさではなく……要は参加者のひとりに、自分のことをいい感じに伝えてくれって強引に頼み込もうとしていた人と、貴族じゃなくて商人を誰かの同行者に出来ないかと考えてた人がいたという話で、実際になにか行動を起こしたわけではなく企みの段階だったようだ。
しかし、泣きながら謝罪って言うと、アリスはそうとう脅したんだろうか?
「いえ、本当に優しく忠告しただけですし、本当に小さい悪戯レベルでしたから仮に実行しててもエリスさんが余裕で対処できてましたし、カイトさんにこれといった害があるわけでもないので、実行していたとしても軽いお小言ぐらいで許しましたよ……まぁ、強いてその時の状況で特筆すべきものを上げるなら……暇そうにしてたので連れて行った『エデンさんを後方で無言待機』させてたぐらいですね」
「鬼かお前……」
そりゃ泣きながら土下座するよ!? エデンさん多数の貴族にトラウマ刻み込んでるって話だし、マキナさんとアリスの関係を知ってる俺とかはともかく、普通の貴族から見ると幻王とエデンさんに関わりなんて知らないから、エデンさんが怒って釘刺しにきたとしか思わないだろ!? しかも無言で後方待機してるのが怖すぎる。
な、なんだろう、思い浮かべる光景が地獄過ぎて、思わずズルいこと考えた人たちに少しだけ同情してしまった。
アリスちゃん「ささやかな悪戯レベルの話だし、私は許そう。実際に実行されてたとしても、広い心をもって許そう……だが果たして、後ろのコイツが許すかな?」
シリアス先輩「地獄の光景じゃねぇか」
マキナ「……いや、誤解ないように言っとくけど、私は別に肉塊のマウント合戦に興味なんて欠片も無いし、怒ってもいないんだよ? 愛しい我が子に実害があったら始末するけど、今回の件だと別にそういうのはなさそうだから、本当にアリスが立っとけって言ったから後ろで立ってただけだよ」
シリアス先輩「あっ、そうなんだ……」
マキナ「そもそも、私はアリスが『一緒にご飯食べに行こう』って言うから付いて行ったのに、エデンの姿で来てほしいって言ってたから少し変だなぁとは思ったけど……」
シリアス先輩「アリス相手には全知使わないから、ちょくちょく騙されてるなコイツ……」
マキナ「なんか便利な脅しの道具みたいに使われて、私としては不満なんだけど……」
アリスちゃん「いえ、そんな、脅しに使う意図なんてなかったですよ。本当に小さなことだったので、ご飯に行くついでに片づけただけで、マキナに後方待機してもらってたのは……ほら、やっぱ親友には近くにいて欲しいじゃないですか」
マキナ「そ、それならしかたないなぁ~。そうだよね、親友には傍にいて欲しいって気持ちは分かるしな~それなら、全然私としては文句はないよ。むしろ、変に誤解しちゃってごめんね」
シリアス先輩「ちょっっっろ!?」