誕生日パーティの後で⑮
ネピュラは夕食後1時間経ったら部屋に来るとのことだったので、日記を書いたりしつつ部屋でのんびり過ごしていると、ピッタリ1時間経過したぐらいのタイミングでドアがノックされた。
返事をしてドアを開け、ネピュラを部屋に招き入れる。パッと見た感じは手ぶらに見えるのでプレゼントはマジックボックスに入れているのかもしれない。
「それでは主様、こちらの席にどうぞ」
「うん? 座ればいいのかな?」
「はい。勿体ぶる必要もありませんので先にお伝えしますが、妾からの誕生日プレゼントは特別にブレンドした紅茶とひとり用サイズ……3号サイズのケーキです!」
そういってネピュラはテーブルの上に取り出したケーキを置いてくれた。掌サイズのフルーツがふんだんに使われたホールケーキで、ケーキの上にはベルやリンをデフォルメした砂糖菓子が乗っていて、誕生日を祝うメッセージプレートも載っていて、凄くお洒落なバースデーケーキという雰囲気だ。
「おぉ、凄いね。これぞ、バースデーケーキって感じに華やかで、見てるだけでも楽しくなるよ」
「気に入っていただけたようなら嬉しいです。そちらのケーキは妾だけではなく、今回妾の元を訪れていた知人も作成を手伝ってくれたので、実質妾とその方のふたりからのプレゼントと思ってください」
「それは、ありがたいね。また会えた時に、しっかりお礼を言うことにするよ。ネピュラも、ありがとう」
「はい!」
俺のお礼の言葉に笑顔で答えた後、ネピュラは俺の前にフォークなどを置き、マジックボックスから追加で取り出したポットなどを用いて、流れるような手つきで紅茶を用意してくれる。
そして用意した紅茶を俺の前に置きながら、ニコリと可愛らしい笑顔を浮かべる。
「……豪華絢爛で大人数で祝う誕生日パーティというのも素敵なものです。それは、それだけ主様が多くの方々に愛されているという証拠でもありますし、規模大きくすることでたくさんの思いを主様に伝えようと考えるのはず晴らしいことだと思います。ですが、決して豪華絢爛な祝いと比較して、ささやかな祝いが劣るというわけではありません。大切なのは気持ちです」
ネピュラは優しい声でそんな風に話しながら、細長いロウソクを一本ケーキに刺して軽く指を振って火をつける。
そして一呼吸置いたあとで、真っすぐに俺の目を見つめながら笑顔で告げる。
「……改めて、お誕生日おめでとうございます、主様! これから始まる、主様の新しい一年に胸いっぱいの祝福を……この新しい一年が、主様にとって幸せなものになりますように」
「……ありがとう、ネピュラ」
小さなケーキと一杯の紅茶、そして感応魔法なんて使わなくても伝わってくる心の底からの祝福の気持ち……なるほど、確かにささやかかもしれない。だけど、先ほどネピュラが語ったように、いま胸に湧き上がってくる暖かな喜びの気持ちは、大人数で祝ってもらったパーティの祝福にも決して劣らない。
ロウソクの火をフッと吹き消すと、ネピュラが小さな手で拍手をしてくれて、目の奥がジーンと痺れるような気がした。
「本当に素敵なお祝いをありがとう。じゃあ、さっそくネピュラが用意してくれた紅茶とケーキをいただこうと思うけど……せっかくだし、ネピュラも一緒にどうかな?」
ケーキの量は問題なく、食後1時間空けたこともあってひとりで食べるのも問題はない。だが、せっかく幸せな気分だし、出来ればネピュラと一緒にという思いもある。
そんな俺の言葉を聞いたネピュラは、どこか自信満々な様子で胸を張って口を開く。
「主様ならそう仰られるだろうと思っていました……なので、妾の分も用意してあります!」
そう告げてネピュラは自分の体のサイズに合わせて作った椅子と、俺のものより二回りほど小さいケーキと紅茶のカップを取り出した。
どうやら俺が一緒に食べようと言い出すのは予想していたみたいで、自分用のケーキと紅茶もしっかり用意していたらしい。
「おぉ、準備が完璧だね」
「当然です! 妾は絶対者ですからね!!」
「あはは、さすがネピュラ」
胸を張るネピュラが可愛らしく手を伸ばして頭を撫でると、ネピュラは心地よさそうに目を細めた。そのまま少しネピュラの頭を撫でた後で、改めて一緒にケーキを食べることにした。
「……滅茶苦茶美味しい。フルーツも凄く味がいいし、紅茶もケーキと物凄くマッチしてるね」
「そちらのケーキのフルーツは、カナーリスさんが作ってくださった空間で妾が栽培したものです。今回のケーキは魔法などを使わず全て手作業で作ったものですが、生クリームは一緒に作った知人が頑張ってくれたので、とてもきめ細やかで美味しく仕上がっていますよ」
「たしかに、舌触りも凄くいいね。なにより、ひとつひとつ丁寧に作ってくれてるのが伝わってきて、食べてると幸せな気分になれるよ」
「主様への祝福の気持ちがたっぷり籠っていますからね!」
ニコニコと楽しそうに話すネピュラに釣られて、俺も笑顔を浮かべる。なんとも穏やかで幸せな空気の中で、美味しいケーキと紅茶、そしてネピュラの可愛らしい笑顔もあって、なんというか本当に幸せで満ち足りた気分だと、そんな風に感じた。
シリアス先輩「さすが、絶対者というか……ぶっ飛んだ誕生日パーティとは別に行う祝いとしては100点満点なプレゼントな気がする……恋愛感は無い……現時点では無いが、仮に本格的に動き出したらヤバそうな資質は感じる」