誕生日パーティの後で⑬
快人の誕生日パーティが行われた城に関しては、すぐに帰るのではなく休憩室等を利用してもよく、帰るタイミングは任意で問題ない。
そのため、普段遠くに住んでいてあまり会う機会のない者同士で、少し休憩室で話をしてからという流れになっている者もあり、グリンとアンのふたりも同じ境遇の者で話し合いたいということもあって、すぐには帰らず休憩室に移動していた。
「……イエローパイプの方々は呼ばなくてよかったんですか?」
「あちらは前回の船上パーティに参加しているメンバーはいませんし、とりあえず今回は我々スカーレットブルーと、アンさんのブラックマスカットだけでいいでしょう……あと単純に暑苦しくて鬱陶しいので……」
今回の誕生日パーティには、快人と少しでも話したことがある者は全員声をかけられており、グリンとアンだけではなく、スカーレットブルーとブラックマスカットのメンバーや、イエローパイプの三人も招待されていた。
「……まぁ、とりあえず、あちらの四人は……置いておきましょう」
「こればっかりは仕方ないですね。我々も、前の船上パーティを経験していなければ、間違いなくああなっていたでしょうし……」
そんな風にグリンとアンが会話しつつ視線を向けた方向には、ぐったりとした様子でソファーに座ったり、呆けたような表情で天を仰いでいたりするそれぞれのチームメンバーが居た。
「……あれ? おかしいな、いつまで経っても夢から覚めない……もしかしてここが死後の世界? それともグリンちゃんの妄想が実体化した世界? 社交界には憧れてましたけど、これはなんかそういうのとは違う感じの、文字通り別世界で……」
「常識が……常識がまるで……通用しない……ここが別世界で? トリニィアの頂点の方々だけでなく、他の世界の神様も居て? あのパーティの話は、グリンさんが大げさに言ってたわけじゃなかったんですか……」
「組合長があの方の寵愛を受けて、特別に贔屓してもらったと……絶対照れて誤魔化してるだけだと思ってたのに……」
「そりゃ、この規模ならマジックボックスぐらいゲームの景品で出ますよね。アンさんの話を聞き流してたのを後悔しました」
スカーレットブルーのふたりも、ブラックマスカットのふたりも、以前の船上パーティの話はグリンやアンから聞いてはいたのだが、あまりのもぶっ飛んだ内容ばかりだったので、半信半疑だったのだが……今日のパーティで全て事実だったことを思い知らされ、いままで経験したことが無い領域のパーティに完全に気圧されていた。
「……まぁ、副産物ですが誤解が解けたのはよかったです」
「私なら確実に話を盛っているだろうという謎の信頼にはいささか腹が立ちますが、残念ながら私の妄想とかより遥か斜め上なので、盛りようがないんですわ」
それぞれのメンバーの反応になんとも言えない表情を浮かべた後で、グリンとアンは本題に移ることにした。
「それで、アンさん……どう思いますか、今回いただいたお土産に関して……」
「えっと、このインスタント商品は大丈夫ですね。人気過ぎてまったく買えない品が手に入ったと考えれば、喜ばしいですし、採掘作業の休憩時とかに出来立ての料理を手軽に食べれるのはいいですね。そして、この記念硬貨は……かなり貴重ですよね?」
「そうですわね。なにせ、このパーティに参加した者にのみ渡されたということは、現在は世界に500枚程度しか存在しないわけですし、希少価値もありますわね」
そう、グリンとアンがこうして集まっているのは、今回パーティ参加者全員に配られたお土産に関して話をしておくためだった。
互いに似た境遇の相手がいたほうが、精神衛生的にいいということでふたりで一緒にお土産の再確認を行っていた。
「そして問題は……このワインですよね。私は、ワインには全然詳しくないのですが、グリンさんはどうですか?」
「ふっ、私も社交界に憧れる身です。社交界とワインは切っても切れぬ間柄ということもあり、日々ワインに詳しい己をイメージトレーニングしていますが……残念ながら、まだイメージの外には出てないのでよく分かりません」
「ということは、私と同じようなものですし、これの価値は分かりませんね」
「いえ、ですが、安心してください! こんなこともあろうかと、こちらがありますわ!」
どこか自信満々にグリンは手元にマジックボックスを出現させる。色合いは薄いオレンジ色であり、容量的には手提げ鞄程度なのだが、グリンにとってかなりの金額を払って手に入れた高級品であり、日々愛用していた。
そしてその中から一冊の本を取り出してテーブルの上に置く。
「こちらが、最新のワイン情報誌ですわ。いざパーティでそう言った知識が必要になる可能性も考えて、購入して持ってきてたのですが……前日入りした際に案内された宿泊施設が凄すぎて、いままで忘れてました」
「……気持ちは分かります。私もなかなか寝付けませんでしたし……まぁ、ともかく、載っているかは分かりませんが確認してみましょう」
高級そうというのは分かるのだが、どれほど高価なのかを知っておかないと、保存する際の力の入れ具合も変わるので、グリンとアンは最新のワイン情報誌を一緒に眺めていく。
「……あっ、これではありませんか!? 空瓶のみの写真が載っていますが、デザインが一緒です」
「そのようですね。えっと……『世界中のワイン愛好家が探し求める超希少かつ最高のワイン。一説には創造神様が作った品であるとも言われており、世界に数十本しか存在しないとも言われている。市場に出回ったという情報はないが、仮に出回るとしたら1本5000万Rは余裕で超えるのではないとも言われている品』……ひぇ……」
「ご、ごせっ……」
あくまで記事が書かれた時点での希少性も加味してではあるが、日本円にして最低でも50億円は超えてくるだろうと書かれていた記事を見て、グリンとアンの血の気が一気に引く。
いうまでもなくふたりとも庶民であり、そんな桁が違う高級品をどう保管すればいいか……答えなど出せるわけもなく、ふたりそろって青ざめた顔で無意識に腹を押さえていた。
シリアス先輩「一話で6人胃痛とは恐れ入った。確かに、いちおう面識があるから、呼ばれててもおかしくないのか……」