誕生日パーティの後で⑫
少し前までちょっとしたお祭り騒ぎだった特殊な次元の空間から、次元の壁をいくつか隔てたところにある新しく作られた空間で、∇∮◆£とイレクトローネが会話をしていた。
「でも、本当にイレクトローネはくじ運というか、そういうのが強くて羨ましいね。絶対私が先に会えると思ってたのに、まさかあんな方法で先に快人様に会うとは思わなかったよ」
『……不満を出力……《その前に、この電脳天使の顔を執拗にぶん殴り続けたことに関して触れるべきじゃないかな!?》……顔面パンチ重視は完全に蛮族である』
「いや、それに関しては本当に申し訳ない」
『感情を出力……《そこ素直に謝られちゃうと、文句も続けにくいんだよね。∇∮◆£は普段は本当に優しいのに、なんでスイッチ入ると蛮族モードになるかなぁ》……当機の感情ONOFFに近い何かを感じる』
「忍耐力が足りてないのかなぁ、なんにせよお恥ずかしい限り……」
イレクトローネの言葉に∇∮◆£は申し訳なさそうな表情で頭を下げる。スイッチが入った時には、まったく話を聞かない暴力装置のような∇∮◆£ではあるが、普段は基本的に穏やかで心優しい性格であり、今回も嫉妬で暴走してしまったことに関しては心から申し訳なさそうにしていた。
『感情の高ぶりで自制云々となると、推しの前で過剰に熱が入った当機にも返ってくるので言及は差し控える。別の話題を出力……《それで、どうだったの? ∇∮◆£はネピュラ様と会ってきたんだよね?》……そちらに関しては、当機も心から羨む状況である』
「凄く楽しかったよ。やっぱりネピュラ様は、どんな姿になってもネピュラ様って感じで、話してて幸せだったなぁ……それに、私がイレクトローネとかを羨ましがってるのを見抜いて、ネピュラ様が快人様に贈る誕生日プレゼントの作成に参加させてもらえて、お茶した後は一緒に作業してて幸せだったなぁ~」
『……不満を出力……《はぁぁぁ!? そんな羨ましいことやっておいて、私の事あんなにぶん殴ってボコボコにしたの!?》……実に理不尽である』
「いや、それに関しては、本当に申し訳ありませんでした」
『複雑な感情を出力……《いや、だからそこで素直に頭下げられちゃうと、私はそれ以上なにも言えないんだよなぁ……》……なんとも複雑な心境である』
ネピュラと一緒に快人の誕生日プレゼント作成を行ったと語る∇∮◆£に対し、イレクトローネはそちらも羨ましいことをしてるじゃないかと言いたげな表情で文句を言うが、やはり根が心優しいからか∇∮◆£が己の非を素直に認めて謝罪すると、それ以上文句を継続することはできない様子だった。
「でも、それを言うとイレクトローネは、シャローヴァナルから正式にトリニィアを訪れる許可を貰ったんだよね? ってことは、ネピュラ様ともすぐ会えるわけだし、やっぱり羨ましいよ。私もその許可欲しいけど……シャローヴァナル怖いし、そんな交渉もできないよねぇ……」
『感情を出力……《まぁ、確かにその権利は望外の喜びというか、まさかって思うような展開だったよ。もちろん快人様の迷惑とかもあるから、訪ねる日程は考えなきゃだけど嬉しいね》……推し活にも力が入るというものである。続いて、想定を出力……《まぁ、∇∮◆£が私と同じ許可を貰えるかどうかは……今回みたいな特殊な状況が無いとしたら、快人様に気に入られるかどうかじゃないかな? 快人様に気に入られたら、シャローヴァナルも許可出してくれそうではあるよね》……あくまで推測ではあるが』
狙ったことではなく偶然の産物ではあるが、イレクトローネはシャローヴァナルから「今後もトリニィアに来ていい」という許可を貰っており、快人に対してもいずれ遊びに行く約束を取り付けているので、それこそ場合によっては∇∮◆£が快人に会うより早くネピュラに会いに行く機会が巡ってくるかもしれない。
「なかなか難しいよね。そりゃもちろん、仲良くなれたら私も嬉しいけど、気に入って貰おうとかそういう下心で接するのは失礼だし、ありのままの私で接するつもりだよ。だから、果たしてどうなるか……」
『率直な意見を出力……《いや、∇∮◆£は性格も凄くいいし、蛮族モードにさえならなければすぐ仲良くなれるとは思うよ》……スイッチが入っていない状態という前提は付くが、双極神は優れた人格であると認識している』
「あはは、そう言って貰えると嬉しいな。ああそうだ、ネピュラ様が作った紅茶の茶葉をお土産にもらって帰ってきたんだけど、よかったらイレクトローネも一緒に飲まない? 殴っちゃったお詫びってことで……ネピュラ様と一緒に作ったお菓子もあるよ」
『とても魅力的な提案である。ありがたく相伴に預かろう。喜びを出力……《ネピュラ様の作った紅茶! うわ~楽しみだね! ネピュラ様が紅茶の茶葉とか陶磁器類とか作ってるのは全知で知ってたから、飲んでみたいとは思ってたんだよね!》……期待が膨らむ』
そもそも∇∮◆£とイレクトローネは基本的に仲がいいので、嫉妬の絡んだやり取りが終わった後は、両者ともにワイワイと楽しそうな様子だった。
シリアス先輩「ここまで作品を読んできた読者はもう察しただろう。きっとなんか快人が無意識に提案して、シロがそれを許可して……リリアが胃をぶん殴られる未来を……」