誕生日パーティの後で⑪
次元の狭間とでもいうべき場所に作られた特殊な空間。複数の世界と繋がっているその場所は、イレクトローネが入っているファンクラブの拠点である。
ひょんなことから快人の誕生日パーティへの参加権を獲得しトリニィアに行っていたイレクトローネは、快人から預かったアクセサリーを他の世界創造主たちに配った後でファンクラブの拠点に戻ってきた。
『当機、帰還した』
「あっ、い、イレクトローネさん……その……」
そんなイレクトローネの元に体の周囲に複数の神器を浮遊させた小柄な少女が、なにかを期待するような表情で駆け寄ってくる。
その少女はイレクトローネと同じファンクラブに所属する世界創造主であり、快人に手編みの帽子を贈った世界創造主だった。
その世界創造主自体に全知の力などはないのだが、同じファンクラブの他の世界創造主から教えてもらったことで、イレクトローネが快人から預かっているものを知っており、ソワソワと落ち着かない様子だった。
『同意を出力……《逸る気持ちが抑えられないってのは凄く分かるなぁ。私が逆の立場でも同じだろうし……というわけで、はい、これが快人様から預かった手作りアクセサリーだよ!》……受け取るといい』
「あっ、わぁ……これが……あ、あの! すみません! どなたか、状態を劣化せずに保存できる処置を……私にはできないので」
少女はネピュラに下賜された神器により、己の世界管理に関しては神の如き力を振るえるのだが、それ以外ではロクな力を持たないため、己の世界産ではない快人のアクセサリーの状態保存を行うことが出来ず、他の創造主を頼ることにした。
『安心するといい。当機が状態保存に関しては行っておいた』
「ありがとうございます! どうしよう、飾るのもいいけどやっぱり身に付けたいし……これに合わせて、服も新調して……」
『喜んでもらえたようなら幸いだ。しかし、警告を出力……《まぁでも、とりあえず一旦離れといたほうがいいよ。騒がしくなるだろうしね。仲のいい世界創造主に守ってもらっておくのがオススメだよ》……これから起こることを考えての忠告である』
「あ、そうですね。イレクトローネさんは、その……頑張ってください」
なにかを察した様子で呟いた少女は、軽く一礼した後で少し離れた場所に居る仲のいい世界創造主の元に小走りで向かっていって。
そして少女が十分に離れたのを見届けて、イレクトローネは静かに両手を広げる。
『それでは、挑発を出力……《待たせたね! さぁ、かかってこい、嫉妬に狂った愚かな敗北者ども! だけど、いまの私は推しの尊みをMAXチャージしてきてる最強状態! 返り討ちにしてあげるよ!!》……心身ともに万全である』
快人にプレゼントを贈る権利を獲得するだけではなく、現地に行って快人に直接挨拶を行い、さらにそのままパーティに参加し、今後もトリニィアに訪れる許可を得て、一緒に記念撮影をして、快人から手作りアクセサリーを貰ったイレクトローネに対して……ガチ恋勢が集まっているこのファンクラブの面々が嫉妬しないわけがない。
それでもイレクトローネと少女のやり取りが終わるまでは静観していたり、力の弱い少女の方に敵意を向けたりはしないあたり、ちゃんと理性的ではある。
そして、そんな面々を高らかに挑発するイレクトローネはどこか余裕すらあるように感じられた。しかし、そんな余裕は……直後にチリンと鳴り響いた鈴の音を聞いて霧散する。
『……動揺を出力……《い、いや、待って、おかしい、違うじゃん!? だって、∇∮◆£はこことは別のファンクラブのメンバーでしょ!! いまは、こっちのファンクラブ内でアレコレしてるのであって、さっきの挑発もここのファンクラブのメンバーたちへのやつだから、∇∮◆£は関係ないんだよ!!》……順番を考えてほしい』
「……」
『……絶望を出力……《うっわっ、駄目だこのクソ蛮族、対話に応じる気がまるでない。会話って大事だよ! 話し合うことで分かり合える例もあって……拳構えたよ。もうやだこのゴリラ……ゆっくり構えたのは、防御展開するまで待ってやるってこと? そんな理性があるなら対話して欲しいんだけど……あっ、する気ない感じで? いい加減会話という手段を覚えてくれ蛮族。いちおう全力で防御するけど……》――ッ!?』
明らかに嫉妬のオーラをまき散らしている∇∮◆£に対し、イレクトローネはなんとか対話を試みようとしたが……悲しいかな、∇∮◆£は一言も返答することなく静かに拳を構えた。
それを見て、イレクトローネがどこか諦めた表情を浮かべつつ全力でありったけの防御を展開した直後、彼女が展開したあらゆる防御を紙の如くにぶち抜いた理不尽な拳が顔面に叩き込まれた。
理不尽バーサークゴリラ「……構えるまで待ってやる。全力で抗え」
電脳天使「いや、そんな理性が残ってるなら対話に応じて欲しいんだけど……まるで聞く気がねぇよこの蛮族……」
理不尽バーサークゴリラ「正面からストレートパンチで顔面を殴る。防御を集中させるといい」
電脳天使「それでも防げないから理不尽なんですが!?」