誕生日パーティの後で⑧
もう既に濃すぎるほどの内容ではあったが、まだ終わりではないと告げるエリスにハミルトン侯爵夫妻はなんとも言えない表情を浮かべる。
「……とはいえ、影響度が高いと思えるものから先にお話ししましたので、残りに関しては、我々が何らかの対応をというものは少ないです」
確かにまだ誕生日パーティでの出来事はあるのだが、ハミルトン侯爵家としてなんらかの対応が必要になる類の話はすでに終わっており、この先はある程度エリス個人に影響があるものが多い。
「まずは、誕生日パーティにおいて行われたクイズ大会で、運にも助けられましたが同率3位という結果になり幻王様が作られたトロフィーをいただきました」
「なるほど……確かにそれは問題ないな。トロフィーはお前の部屋か、屋敷の廊下にでも飾っておけば来客があった際などに、エリスの評価向上に繋がるだろうが、そこまで大きな影響はないか……」
「パーティの参加者に貴族は少なく、アルクレシア帝国の貴族もクリス陛下ぐらいですから、吹聴して回らない限りは変に噂になることも無いでしょう」
エリスの説明を聞いて、ハミルトン侯爵も夫人も納得した様子で頷く。
エリスがクイズ大会でトロフィーを獲得した件はさほど問題はない。参加者から話を聞いた貴族などが話題に上げた際に対応するために、こうして報告して周知しておく必要はあるが、それ以外の問題はほぼない。
元々エリスは聡明であり幅広い知識を持つことは知られているので、そういった分野で結果を残すことも不自然ではないため、侯爵家としてなにか対応する必要は無い。
「続いて、勇者役の方々とは別の世界の創造主であらせられる、イレクトローネ様という神様がパーティに参加し、簡単な挨拶と会話を行いました。ですが、これは私だけというわけではなくイレクトローネ様はパーティ参加者全員に声をかけている様子だったので、特別なにかしらの影響はないかと思われます」
「別世界の神か……ミヤマカイト様の交友が世界外にまで広がってるのは驚嘆だが、確かに現時点で我々に影響はないか……そのイレクトローネ様という神は、どのような方だった?」
「極めて温厚で懐の広い偉大な方という印象でした。少なくともあの御方のように、意にそぐわぬ者へ警告をということはなさらないのではないかと……そもそも、今後こちらの世界に来る可能性があるかどうかは不明ですが……」
貴族にとって異世界の神というと……エデンの印象が強くやや恐れる部分があるが、エリスの話を聞く限りイレクトローネはエデンのような行動を取るというわけではなさそうであり、そこは少しホッと胸を撫で下ろした。
「続けて、カイト様の家に招待を受けました」
「それも問題は無いだろう。あくまでお前とミヤマカイト様の交流の範疇内ではあるし、むしろ友好的な関係を築けているのは喜ばしい。ただ、ミヤマカイト様の家を訪れた上で……再度話し合いの場を設ける必要はあるかもしれないが……」
「本当にできれば、普通に友好だけを深めて帰ってきてほしいのですが……」
「……私も叶うのならその形がいいです」
快人の家に訪れることに関しても、エリスと快人は友人であり相手の家を訪ねることは特に問題などはない。ただ、三人共通の懸念として……快人の家を訪れた結果、エリスがまた胃痛の種を持ち帰ってくる可能性は大いにあるので、そこは非常に不安ではある。
とはいえ別になにかができるわけでもないため、何事もなく帰ってきてほしいと……ほぼ無駄になりそうな願いを胸に秘めるぐらいだ。
「続けて、シンフォニア王国のリリア・アルベルト公爵とお話しする機会があり、それなりによい関係を築けたと思います。ただこちらは特に家同士の取引などをというわけではなく、カイト様に関する雑談が主な会話の内容でした」
「アルベルト公爵はいまやシンフォニア王国の貴族の筆頭といっていいほどの力を持つ存在だ。ハミルトン侯爵家としても、今後いい関係を築ければとは思うが……あくまでそれは長期的な展望だな。エリスとアルベルト公爵の交流が後々に家同士の関係に繋がればいいが、それを目的には動かないように気を付けろ。そういった下心というのは見透かされるものだ」
「はい。その点は十分に注意します」
リリアと知り合った件に関しても、確かに意気投合はしたのだが……それはいわば、胃痛という同じ痛みを抱える者同士の共感という部分が大きく、リリア側がハミルトン侯爵家との関係強化を望んでいるかどうかが分からない現状では、エリス側から動くのは得策ではない。
「以上が、主だった部分ですね。あと細かいものに関しては、書類に纏めて報告します。あとパーティ参加者全員に配られた記念品がありまして、その中にこのワインが……」
「……以前、ミヤマカイト様の新築記念のパーティの際に参加者にだけ配られたという幻のワインか……これはまた凄まじいな。ワシの知人にワイン好きの伯爵が居てクリス陛下の厚意で一杯だけ飲ませてもらったらしいのだが、このワインを一瓶手に入れる為なら、長年集めたコレクションのワインを全て手放しても構わないと語るほどだったらしい」
「それほどですか……ではそのワインは、お父様に預けておいたほうがよさそうですね」
「そうだな。上手く噂話を調整すれば、エリス個人に向いている注目をいくらかこのワインを持つワシの方に向けられるかもしれんな……とりあえず、それも含めて今後の対応などを詳しく話し合うか……エリスも疲れているとは思うが、付き合ってくれ」
「はい」
ともかく快人の影響力が凄まじすぎるので、油断していてはまた予想外の出来事で胃を痛めることになるため、三人は今後の対応について熱心に話し合った。
もし仮にこの場にリリアが居たのであれば……「その対策の斜め上を駆け抜けていくのがカイトさんなんです」と、実体験から来る実に的確なアドバイスをしてくれたことだろう。
シリアス先輩「胃痛戦士たちの苦労は続くか……とりあえずエリス関連はこれで終わりっぽいが、次は誰だ?」