誕生日パーティの後で⑤
唐突にライフと会話することになり胃を痛めたエリスではあったが、ある意味では皮肉ではあるのだが彼女は非常に優秀な人物であり、一度会話を始めればかなりスムーズに話を進めることが出来た。
そもそもとして侯爵家令嬢としての教養や、努力を怠らない性格かつ情報を非常に重要視しているため幅広い知識も持ち合わせているため、会話というのは彼女の得意分野にあたる。
「そういえば、貴女はクイズ大会でもかなりの好成績を収めていましたね。実際にこうして会話をしていても幅広い知識を感じて話しやすいです。私自身も知らぬことが多い身ですし、無知を罪と語る気はありませんが、やはり知的な相手の方が話しやすいと感じる部分はありますね」
「ありがたいお言葉です。クイズ大会に関しては、運に助けられた部分も多いですが、日頃から様々な知識を得るように意識している部分はあります。しかしそれでも、カイト様関連の事柄では未熟さを感じる部分も多いと言いますか、予想できない事態が多くて戸惑ってしまう事も多いですね」
「ミヤマさんに関しては、ある程度仕方ない部分もあるとは思いますね。実際のところ私も初めてミヤマさんに会った際には、シャローヴァナル様の祝福を受けた重要な存在とは認識していても、まさかここまでの存在になるとは予想できませんでしたからね」
幸いだったのは、ライフ側が交流を望んでいることもあって比較的友好的に会話をしてくれることであり、そうなるとエリスも話を広げやすく穏やかに雑談を行うことが出来た。
ライフの方もエリスに対する印象はかなりよく、快人が高く評価するだけはある人物であると感じており、交流は順調と言えた。
「……興味深い話も含め、悪くない時間でしたが、このままいつまでも話し続けるわけにもいきませんね」
「そうですね。確かに、徐々に帰宅される方も増えてきている様子ですし、この場に残り続けているわけにもいきませんね」
ライフのその言葉にエリスは心の中で少しホッとしていた。いまのやり取りは、そろそろ会話を終わりにしようという合図であり、なんとか無事に不興を買うことなく会話が行えたと、そう感じていた。
「貴女には急なことで戸惑わせてしまいましたが、可能であれば今後もある程度定期的にこうして交流を持たせていただけたらと思います。私自身、他種族との関りに関して学ぶことの多い身なので……」
「はい。もちろん、私でお力になれるのでしたらいくらでも協力させていただきます。私自身もライフ様と会話をさせていただき、学ぶことも多くとても有益な時間だったと感じています。更なる機会が頂けるようでしたら、光栄です」
実際最初こそかなり恐縮したが、ライフは穏やかで丁寧であり、なおかつあまり持って回ったような相手を試すような言い回しは好まないので、エリスとしても会話はしやすい相手だと感じた。
もちろん最高神を相手にしているという緊張はあるのだが、それでも会話していて楽しいと感じられる相手だったのは間違いなく、ライフの言葉にも綺麗な礼と共に答える。
だが、ここである意味エリスにとって最大の誤算言える事態が起こることとなる。
ライフはフェイトやクロノアを見て人族との交流をもっと増やそうと決め、いまこうして実行に移しているところである。つまり参考にすべき先達が居る状況であり、そうなれば先達の行動に倣うのは人族も神族も変わりないと言える。
つまりライフが、今後も人族……エリスとの交流を続けていくにあたり、他のふたりの最高神を参考にしようと考えるのは自然と言える。
では、いったいどちらを参考にするのかと言えば……フェイトは極めて特殊な例といえる。彼女の場合は快人と交流を深めて恋人同士となり快人への好意が高まった結果、快人の周りにいる人たちに関しても快人とって大切なものであるという認識の元、興味を持てるようになった。
つまり意図して人族と交流しようとしたりしたわけではなく、快人との恋愛の結果見識が広がったと言えるパターンであり、いまこの場面におけるエリスとの付き合いの参考にはならない。
となれば当然参考にするのはクロノアの方であり、同じように貴族であるリリアと交流を深めたクロノアの行動を真似しようと考えるのも、ある意味では自然な流れである。
そして、クロノアが初対面の際にリリアになにをしたかと言えば……。
「エリス、貴女との会話は有意義な時間でした」
「もったいないお言葉です」
「これはそのことに対する礼と、これからの付き合いへの期待の表れと思ってください。略式ではありますが……貴女に、生命の祝福を」
「ッ!?!?!?」
ライフが手をかざすと、エリスの体が淡く光りを放ち祝福が行われたことが分かった。
「それでは、次に機会を楽しみにしていますね」
「は、はひっ……」
なんとか返事をしつつも、エリスとしては頭がどうにかなりそうだった。いまにも膝から頽れそうではあったし、あまりの事態に思考はまったく追い付いていない。
最高神の仮祝福というのは、あまりにもとてつもない。いちおうライフに関しては、最初の六王祭の折にシャローヴァナルの指示により、パーティの参加者全員に仮祝福が行われたのだが、それはあくまでシャローヴァナルの意志によるものではあるし若返った肉体などが戻ることはないが、それ以外の仮祝福の効果は1年で消えている。
そしていま、エリスはライフから直接仮祝福を受けた。これはとてつもないことであり、言ってみればそれはエリスという個人が最高神であるライフに極めて高く評価された証明でもあり、リリアがそうであったように今後彼女の評価がどうなっていくかを考えると、胃に穴が空きそうだった。
あまりのことに去っていくライフを見送った後も呆然とするエリスだったが、ポンッと優しく肩に手が置かれ、振り返ると心の底から哀れむ目をしたリリアの姿があった。
「……あっ、リ、リリア公爵……その、わ、私……なんでこんなことに……」
「お気持ちは、痛いほど、本当に痛いほどに分かります。ですが、残酷なようですが実体験から言わせていただきますと……まだ序の口です」
「なんて、なんて恐ろしいことを言うんですか……ま、まさか、リリア公爵も……」
「ふ、ふふ、懐かしさすら覚えます。その、辛い時はいつでも相談に乗りますので、気軽に連絡してください」
もうすでにいっぱいいっぱいなのだが、まだ序の口だと語るリリアの目があまりにも真っすぐであり、エリスは青ざめた表情で震えていた。
最強の胃痛戦士「お前がいま立っているその場所は、私が2年以上前に通過した場所だ!!」
※リリアと神族との出会い、時空神→創造神→運命神→生命神→最高神と上級神のオールスターが庭で決起式(なお、この間およそ3ヶ月)
シリアス先輩「……やはり、リリア・アルベルトが最強か……」