誕生日パーティの後で④
神界に置いて創造神シャローヴァナルに次ぐ立場である最高神という存在は、特に人族たちにとっては非常に大きい。
基本的には勇者祭以外では目にすることすらできず、最高神が人界を訪れる可能性があるという噂が広がるだけで大挙して人が押し寄せるほどであり、当然ながらその権威は侯爵家の令嬢と比較になるようなレベルではない。
特に作物などが育ちにくい環境であるアルクレシア帝国は豊穣神の加護に助けられている面が大きく、神族との関りによる影響は他の二国よりも大きい。
もちろんそういった要素が無くても世界的にトップクラスの存在であるのは間違いなく、エリスにとっては絶対に不興を買うわけにはいかない相手でもあった。
(そ、それこそ、ハミルトン侯爵家がいかに四大貴族とはいえ、生命の女神様の一声があれば文字通りアルクレシアの歴史から消滅してもおかしくはないです。ともかく、決して失礼をするわけには……し、しかし、生命の女神様がいったい私にどういった用件で声を? 原因がカイト様であることだけは、間違いないと確信を持てますが、目的が分からなければ迂闊に動くわけにも……)
快人が要因であるということだけは考えるまでもなく確信できるのだが、果たしてライフが一介の貴族令嬢に過ぎない己になんの用件があって声をかけてきたのかが分からなかった。
それこそライフと直接話したことがあるのは、アルクレシア帝国でも皇帝であるクリスぐらいであり、彼女の父であるハミルトン侯爵も話したことなどは無いだろう。
「畏縮する必要はありません。貴女の側になんらかの咎などがあるわけではなく、今回は私の都合による声掛けです。そうそう不敬などと断ずることはありません。ですが、目的を知らぬままでは不安でしょうから、まずはそちらを説明しましょう」
「は、はい。生命の女神様のお心遣いに感謝を……」
「ああ、私のことはライフと名で呼ぶことを許しますので、以後はそう名で呼んでください」
「は? はひっ、そ、それでは、ライフ様と……」
穏やかに話を進めるライフに対して、エリスは完全に大混乱というレベルで頭の中がパニックになっていた。
(え? ええ? な、名を呼ぶことを許された? そ、そんな馬鹿な……そもそも最高神様の名を名乗っていただけるだけでもとてつもないことなのに、名で呼ぶことを許される? そ、それは、クリス陛下ですら許されてないのでは? な、なぜ? い、いったいどこでそんな過分すぎる評価を……)
神族にとって名とはシャローヴァナルに直接与えられた宝であり、非常に重要なものであると認識されていて、神族同士が名前を呼ばず「○○神」と呼称することからも名を重要視しているのは伝わってくる。
エリスの認識としては神族の名は、神族から極めて評価された特別な存在のみが口にすることを許されるものであり、少なくともただの侯爵令嬢の己が最高神であるライフの名を呼ぶことを許されるというのは、青天の霹靂といっていい事態だった。
「まず目的に関して説明しますと、貴女は最近神族が人界や魔界との関りと増やしているというのは知っていますか?」
「は、はい、存じています。白神祭以降、以前と比較すると下級神様だけでなく上級神様も行事などに関わってくださることが増えたと、人界の祭りなどに参加してくださる機会も例年に比べて3割ほど高くなっていると……」
「なかなかに視野を広く持っているようで感心します。ええ、その通り神界全体の動きとして、これまで以上に他の世界に関わりを持とうという空気になっているのは事実です。そして私の話に戻りますが、私は同じ最高神である運命神や時空神と比べ人族との関わりが薄く、それを改善すべきだと考えていました。しかし、私にも最高神という立場がある以上、考え無しに交流の幅を広げるわけにはいきません」
ライフの言葉にエリスは納得した様子で軽く頷く。突然の事態に困惑はしていても、エリスは非常に頭の切れる人物であり、ライフの話を聞いて頭の中で素早くある程度の考えを纏めていた。
(ライフ様の目的が人族との交流を増やすというものであるならば、確かにこの会場内において声をかけるのに適した相手は私なのかもしれません。最高神様の担当国家に関してどの程度の取り決めや制限があるかは私には預かり知れませんが、ライフ様が担当国であるアルクレシア帝国の人族との関りを増やす目的かつ、対象がアルクレシア帝国に置いてある程度の以上の地位を持つ者という括りなら……すでに交流があるクリス陛下は除外、バルド騎士団長やサタニア様は魔族、対象として考えられるのはアメル様か私、有翼族は生命神様を強く信仰しており行事に上級神様などを招く機会もあるという話ですし、すでに交流があるのかもしれません。であれば、私が選ばれたのは一種の消去法……例えば私を足掛かりにお父様と交流の場を設けたり、他の有力な貴族への渡りを作る……そう考えれば納得できます)
高速で思考を纏めた結果、エリスは己が選ばれたのは消去法だろうと結論付けた。あくまでライフの目的はより立場の高い、ハミルトン侯爵を始めとした四大貴族家の当主などであり、己はそういった相手の紹介を任せられるのだろうと……それは極めて重要な役割であり、己の全力を持ってライフの力になろうと、そんな決意を抱いたエリスだったが……それは直後に粉々に砕かれた。
「そのことに関してミヤマさんに相談したところ、貴女を勧めてもらいました。知識や性格、判断力や人柄も含めて極めて優秀な存在であると……ミヤマさんにそれほどに高く評価されている相手であれば、交流を持つにあたってこれ以上ないほどの相手であろうと判断し、こうして声をかけさせていただきました。可能であれば、このまましばし会話を行いたいと思いうのですが、いかがでしょうか?」
「は、はぃ……大変に光栄なお言葉です。私でよろしければ、いくらでもお付き合いします」
他の貴族など関係なくライフの目的は快人に高く評価されているエリス自身だと言われ、エリスは思わず意識を飛ばしそうになったが必死に堪えて微笑みと共に言葉を返した。
(……なんでぇ……いや、本当になんで私はカイト様にそんなに高く評価されているのですか!? いや、光栄ですけど! 光栄なんですが!! カイト様から高評価という要因が、私の想像以上に凄まじすぎて……も、もう少し……手心を……)
ライフからひしひしと伝わってくる快人の評価に対する信用を感じ、なぜそんなに高く評価されているのか分からないエリスは痛む胃をそっと押さえた。
シリアス先輩「たぶん、エリス的には普通にしてるつもりなんだろうが……快人の知り合いって個性強めのが多いから癖が無く優しい相手って、それだけでかなり高評価なんだと思う」
???「というかエリスさんが根本的に優秀なので、日頃の会話や贈り物とかで的確にカイトさんの評価を上げてるというか……もう完全に『話しててすごく楽しい相手』に分類されてるので、どうやっても好感度は上がっていく感じですね。それだけなら問題ないんですが、カイトさんの好感度が上がると自動的に回りの評価も上がるので……」
シリアス先輩「リリアとか香織もそうだけど、胃痛戦士は快人からの好感度が高い傾向にある」