誕生日パーティの後で③
そもそもの話ではあるが、なぜライフがエリスに声をかけようと思ったのか……その原因は、平行世界を利用して行われたプレゼントの受け取りまで遡る。
快人はプレゼントを受け取る際に時間的な余裕もあったことで、それぞれとある程度雑談をしており、ライフも同じように快人と雑談をしていた。
「しかし、こうして神界以外の者が多く参加する場に赴く機会が増えたのは、いいことだと感じると同時にこれまでの己の未熟さを思い知りますね」
「白神祭以降に、神族は人界や魔界と以前よりも交流を多く持つようになったんでしたっけ? いいことだとは思いますが、やっぱ環境の変化というかそういうのは戸惑いますよね」
「ええ、まだあくまで以前と比較すればという段階ではありますが、神界の外に視野を広げる者が増えてきました。私も実際に白神祭などで人界の祭りを参考にする機会などがあり、己の視野の狭さを実感したものです。それ自体は問題ないのです。未熟は恥ずべきですが、こうして視野を広げていくことがシャローヴァナル様の望む成長にも繋がるのだと思っていますが……やはりどうしても、時空神や運命神に比べて己が大きく出遅れていると感じるのには、若干の焦りは覚えますね」
「クロノアさんや、フェイトさんと比べて遅れてる? ちなみに、なんでライフさんはそう思うんですか?」
いつの間にか話の流れで快人に相談するような形となり、快人も真剣に話を聞く姿勢でライフの言葉を待った。ライフは少し考えるような、頭の中で言葉を整理するように沈黙した後で口を開く。
「……そうですね。運命神は言うまでもなく最も成長している最高神であり、白神祭などでも彼女の考えの深さに及ばないと感じる機会が多かったです。時空神は比較的私と近いと思っていましたが、彼女はリリア・アルベルトと親しくしており人界との関わりが私以上に深いように感じますね。特に白神祭の際に人界の祭りなどを参考にすると決まった際に、私がそういったことを聞ける相手……そもそも根本的に関わりのある人族というと、己の担当国の王であるアルクレシア皇帝ぐらいしか候補が居なかったので、そこは改善すべきだと感じましたね」
「あ~なるほど、つまるところライフさんは人族の知り合いを増やしたいって感じですかね」
「そうですね。最高神という立場では難しい部分もありますが、時空神のように親しい特定の人族などが出来ればと思う部分はあります。ミヤマさんの知り合いで、よい相手はいませんか?」
「う~ん、なんか条件的な希望はあったりしますか?」
人族の知り合いを増やしたいと語るライフの言葉を聞いて、その傾向自体は凄くいいものだと感じた快人は、出来ることならなにか力になりたいと思っていた。
「そうですね。できればアルクレシア帝国に住んでいる者がいいですね。シンフォニアは時空神の担当国で、ハイドラは運命神の担当国……別にそちらの人族と交流を持ってはいけないというわけではありませんが、配慮したり気を付けなければいけない部分もあるので、己の担当国の住人が気楽ではありますね」
「なるほど、アルクレシア帝国って聞いてパッと思い浮かぶ人族は、アメルさんかエリスさんですかね。他にも何人か知り合いはいますが、ライフさんと交流をってなるとある程度高い地位になるでしょうし……」
単純にアルクレシア帝国在住の人族というのであれば、チャペルやアンも居るのだが最高神を相手にするならある程度の地位は必要と考えると、候補として思い浮かぶのは有翼族の長であるアメルか侯爵家のエリスだった。
「ふむ……アメルというのは有翼族の長でしたね。有翼族は信仰心が極めて強いので、私が出ていくと恐縮させ過ぎてしまうかもしれませんね。そのエリスという方は?」
「えっと、少し前にシロさんとエデンさんが睨み合ってた場面で、俺の後ろにいた暗めの藍色の髪の女性って言えば分かります?」
「ええ、記憶にあります。雰囲気的には、貴族でしょうか?」
「ハミルトン侯爵家の嫡子ですね」
「ハミルトン侯爵家……確か現宰相を務めるアルクレシア帝国の四大貴族の一角でしたね。なるほど、時空神が交流を持ったのも公爵家のリリアと考えると、私が交流を持つには適した相手と言えるかもしれませんね。ちなみに、そのエリス令嬢はミヤマさんの目から見て、どうでしょうか?」
快人の言葉でエリスに興味を持ったライフは、そのまま快人に対してエリスの印象を訪ねる。彼女もまた快人の人を見る目を高く評価しており、是非快人からの印象も聞いてみたいと思っていた。
「エリスさんは、凄く優しくていい人ですよ。たぶん頭がかなりよくて知識も広いからか、凄く自然にフォローとかしてくれるので話し上手ですし、人柄的にも誠実で信用できる人ですね」
「ミヤマさんがそこまで高く評価する相手というのであれば、是非一度話してみたいものですね」
「ええ、機会があれば紹介しますよ」
あくまでこの時の快人の感覚としては、エリスにライフが人族と交流を持ちたいと考えているという事情を説明した上で、自分が一緒にいる状態でライフを紹介しようと思っていた。
しかし、快人にとって予想外だったのは、ライフは意外と行動に起こすのが早いタイプであり、せっかくエリス本人がいるこのパーティの場で自分から声をかけて交流を持とうと考えていた。
その若干のズレが、エリスに大きな胃痛をもたらすことになったのは、なんとも皮肉な結果である。
シリアス先輩「普段寝てて動かないイメージが強いが、快人が神界を訪れた際にもすぐに同行することを決めたり、快人が豊穣神に興味があると知ると即呼んだり、イプシロンが禁術を使用した際には自分が即向かって粛清しようとしたりって……結構思い立ったら即行動するタイプなんだよなライフって……」