誕生日パーティの後で②
メインとなる行事がすべて終わり、少しまったりとした空気の会場内でハミルトン侯爵家令嬢のエリスは静かに思考を巡らせていた。
(本当に規格外のパーティではありましたが、得られたものは想像以上に大きいですね。ロード商会との繋がりもそうですし、運にも助けられたとはいえクイズ大会で好成績を残せてトロフィーを手に入れられたのも、今後を思えばかなり有益ですね。幻王様が制作したトロフィーとなれば、貴族としての箔も十分……ただ、嫡子でしかない身の私が最近はあまりにも多くの恩恵を得すぎているのは、いらぬ妬みを買いかねないので抑えたいところなのですが……ところなのですが……)
貴族であるエリスにとって、世界の上位者と言えるような面々との交流はもちろん有益なものになるのは間違いなく、実際に最近の快人関連の事態でエリスの名は急速に貴族の間に広まりつつある。
ハミルトン侯爵家の優秀な嫡子としてではなく、エリス・ディア・ハミルトン個人の評価が凄まじい勢いで上がっているのはありがたくもあるのだが、同時に嫉妬などから新たな政敵も作りかねないという思いはあった。
出る杭は打たれるという様に、あまり突出し過ぎることばかりが最善とは言えない。
(まぁ、カイト様のように文字通り次元が違うレベルであれば、もはや妬むとか敵を作るとかいう領域の話では無いので問題は無いでしょうが、私は大貴族の嫡子とはいえ個人としてはまだ爵位も持たない跡取り候補でしかありませんし、この辺りで少し勢いを抑えて落ち着きたい……とはずっと前から思っているのですが、まったく思い通りにはいきませんね)
エリスとしては、ニフティ関連でいろいろ恩恵を得た時点で一度社交界の噂などが落ち着くまで静かにしたかったところなのだが、快人関連は彼女の想定を超えることが多すぎて思い通りにはなっていなかった。
(さすがにハミルトン侯爵家に表立って仕掛けてくるような愚かな真似をしてくるとは思えませんが、念のため私の護衛などは増やしておくと共に……できれば私自身も、なにかしらの後ろ盾は得ておきたいところです。しかし、これがなかなか難しいですね。七姫様や教主様、ロード商会、今回挨拶を許されたクロム様と凄まじい交友関係は得ていますが、それはあくまで交友関係であって私の守りとなるような後ろ盾ではない)
最低でも今後には快人を茶会に招いたりといった約束もしているため、妬みを買う要素は間違いなく増えてくるため、出来ればそういった相手が手を出しにくい後ろ盾のようなものが欲しいというのがエリスの心情ではあった。
しかし、だからといって、すぐに得られるようなものでもない。
(可能性として考慮するなら、今回サタニア様にお声がけいただいた件を通じて、あるいは以前ラサル様よりお話をいただいた宝石採掘の件など、ハミルトン侯爵家が関わる取引の責任者を私にしてもらえるようにお父様に掛け合って、交流を経た上で信頼関係を築いて後ろ盾となってもらうような……いえ、難しいですね。そういった欲というのは悟られやすいものですから、変に意識して狙ってしまっては不興を買う恐れもありますし……あくまで僅かな可能性として胸に秘めて、誠実に交流するのが一番ですね)
後ろ盾が欲しいという気持ちはあるが、それを目的に動くのは不誠実であり結果として己を貶めかねないと考えたエリスは、あくまで自分らしく誠実に付き合いを行うことに決め、取引の責任者等にには立候補しないことにした。
するとそのタイミングで、不意にエリスに声をかけてくるものが居た。
「……少し構いませんか?」
「え? はい。気付くのが遅れて申し訳――ひゅっ!?」
考え事に没頭していて気付くのが遅れたことを詫びつつエリスは振り返り、相手を見て硬直した。なにせ、目の前にいたのは神界の最高神のひとりである生命神ライフだったのだから……。
「パーティ中に声をかけようと思っていたのですが、なかなか機会が無くて終了後に声をかける形になって申し訳ありません」
「い、いえ!? お声がけいただけて光栄の極みです」
「それはよかった。せっかくですし自己紹介もしておきましょう。神界の最高神のひとり、生命神……名をライフと申します」
「偉大なる生命の女神様にご挨拶申し上げます。アルクレシア帝国、ハミルトン侯爵家の嫡子、エリス・ディア・ハミルトンと申します」
穏やかながら威厳のある声で話すライフに対して、エリスは深く頭を下げつつ自己紹介を返しながら、頭の中は大混乱だった。
(な、なんでぇ? なんで、生命の女神様が私に声を……そ、それどころか、名を名乗った上で自己紹介まで許される? な、なぜそんな事態に? い、いや、推察はできます。確実にカイト様がなにかしら絡んでいることは推測できますが、完全に想定の範囲外と言いますか……な、なんでぇ?)
ありまりも予想外の事態に表情こそ必死に取り繕ってはいたが、頭の中はほぼパニックであり胃は例によって猛烈な痛みを訴えていた。
シリアス先輩「経緯は分からないけど、確実なことがひとつ……絶対プレゼントの受け渡しの時とかに、快人がなんか余計なこと言ったのが原因だと思う」
???「間違いないっすね」