続・宮間快人生誕記念パーティ㊺
アリス曰く最高難易度のシロさんの表情見分けではあるが、俺は正直シロさんの表情の変化を見分けることに関しては得意であり、なんならパッと見ただけで四つの選択肢の表情は全部なんの表情か分かる。
『はい。では解答時間終了です……神族の空気が凄まじいですね。まるで審判が下される直前みたいな……』
『いや、事実として審判が下されるんだよ。ほぼ縋るような表情だから、たぶん分からずに最終的には運に頼ることになったんだろうし……己があの立場だったらと思うとゾッとするよ』
『なるほど、まぁガチの難問だったわけなんですが……圧倒的スピードで正解を解答した方が居た……というかカイトさんが最速で解答していた上で正解なので、答えはカイトさんに発表してもらいましょうか』
『え? カイちゃん、これ、分かるの?』
なんか変な流れになってきたなとそう思っていると、スッとアインさんが拡声魔法具を差し出してくれたのでそれを受け取って口を開く。
『えっと、じゃあせっかくなので順番に……というか、今回の四つはどれも笑みではあるんですよ』
『そうなの!?』
『ええ、まず1に関しては、口角は他と比べて一番上がってますが、顔に少し角度が付いてるので、これはドヤッて……えと、勝ち誇った笑みを浮かべてる顔ですね』
この1の表情にはもしかしたら引っかかった人もそれなりに居るかもしれない。口角の上がり方で言えば四つの中で一番上ではあるのだが、ほんの僅かに顔の角度が変わっているのでドヤってる時の顔である。
あと余談だが、このドヤってる表情は立体文字とか使う時のテンション上がりまくってる時の顔じゃなくて、クロとか相手に煽ってる時の顔だ。立体文字とか使う時はもう少し顔に角度が付く。
『そして2は、口角が微かに上がってるんですが、目尻が若干下がっていてかつ左より右の目尻が下がってるので、若干呆れた感じに苦笑してる時の顔ですね』
この顔はクロのベビーカステラだとか、シロさんが興味無いような話題に対して微妙な返答をする時に浮かべる顔であり、実は微笑むときと口角はほぼ同じだ。しかし、目尻の動きに特徴があるので、これも結構分かりやすい。
『3が一番微笑みと間違えやすい顔で、ほとんど微笑みと同じ顔なんですが、左右で口角の上がり具合に違いがあって右が微かに上になってる時は、面白くて笑ってる時ですね』
一緒に演劇を見たりしたときなどは、たまにこの顔を浮かべており、なんだかんだでこの3の表情は結構レアだったりする。というのもこの表情よりもう少しテンションが上がると、一般的な人で言うところの笑顔になるので、微笑みと笑顔のちょうど中間ぐらいで、この表情になること自体が割と珍しい。
例えるなら、俺にあまり関係ないことではあるがそこそこ楽しいか面白いぐらいの感想の時に、この表情になる気がするので俺が見る機会は少ないのだ。俺に関わることだと、結構簡単に笑顔まで移行する。
『というわけで正解の微笑みの表情は4ですね。口角が左右同じぐらいの割合で少し上がっているのと、目を微かに細めているのが特徴ですね』
『な、なるほど……勉強になるというか、全力で覚えとく。見分け方のコツまで教えてくれてありがと~! いや、正直そこまで細かい角度の差は改めて見てもよく分からないんだけど、頑張って見分けれるようになるね。やっぱ、カイちゃんはすげぇや』
『素晴らしい解答でしたね。というかマジでミリ単位でしか変化してないのに、よく分かるもんですよね。まぁ、そんなわけで正解は4ですが……なんすか、シャローヴァナル様? なんかコメントしたいんすか?』
「私のことは己が一番知っていると言わんばかりの自信にあふれる姿、私はそういうのはとても好きです。そのまま、『シロさんは俺のもの』宣言をしてもいいのですよ? 私が許します」
『いや、いちゃつきたいなら後でやってください。はい、次行きますよ』
大変ご満悦な感じで頷きながら告げたシロさんの言葉をばっさり切り捨てて、アリスはさっさと次の問題に移行した。
次の問題へと話題が移る中で、会場のオリビアはキラキラと感動したような目で快人の方を見ていた。
(なんという、素晴らしく偉大な……シャローヴァナル様の表情を見分けられなかった己の未熟さには頭を抱えたくなる思いですが、ミヤマカイト様の慈悲深さのなんと素晴らしいことでしょうか。シャローヴァナル様のお心を完全に見抜く慧眼もさることながら、私を始めとした無知な者たちを教え導く言葉には感涙を禁じえません。ミヤマカイト様のいまのお言葉は聖典として書き残しておくべきではないでしょうか……)
オリビアは残念ながらシャローヴァナルの表情を見分けることはできず、運に委ねた選択も外れており自己嫌悪に陥っていたが、快人が完璧に近い解答をしただけではなくシャローヴァナルの表情を見分ける際にコツとなりそうなことを語ってくれたことには、天啓を得たかのように感動していた。
偉大な存在を見つめるかの如く目に涙を浮かべながら祈りの姿勢に移行しようとしたオリビアだったが、不意に聞こえてきた言葉に動きが止まる。
「お嬢様凄いじゃないですか、正解ですよ」
「たまたまですよ」
視線を動かしてみると、そこにはリリアとルナマリアとジークリンデがおり、問題に正解したリリアをルナマリアが称賛し、リリアは苦笑を返していた。
(なんと、リリア・アルベルトはあの難問を正解したのですか……運よく4分の1を引き当てた? いえ、リリア・アルベルトは時空神クロノアの本祝福を受け、シャローヴァナル様も評価している存在。となれば、ミヤマカイト様と同じように見分けたのでしょうか……評価をさらに上方修正する必要がありそうですね)
もちろんリリアはシャローヴァナルの表情など見分けてはおらず、当てずっぽうに選んだものが正解だったというだけであり、シャローヴァナルの表情を見分けたというのは完全な誤解である。
(……神教としてもリリア・アルベルトとより関係を深めるべきでしょうか? 特定の国に肩入れするのは問題ですが、あくまでリリア・アルベルト個人に対してというのであれば……今回のパーティにおいても、リリア・アルベルトは人界の三国王とは別枠で人族の代表という扱いを受けていましたし……そうですね。今後、神教としてもリリア・アルベルトとの関係強化を行っていくことにしましょう)
繰り返しになるが完全に誤解である。しかし悲しいから、心の中で考えているだけのオリビアの思考をリリアが察せるわけもなく、静かに後の胃痛案件が確定していた。
シリアス先輩「そこまで完璧に見分けられるのは流石というべきか……そして全然関係ないところで、後の胃痛を確定させてる最強の胃痛戦士……」