続・宮間快人生誕記念パーティ㊳
最初はやはり戸惑いも大きかったが、温泉はやはり気持ちがよく少しすると落ち着いてきた。そして落ち着いてくると、状況の方にも意識が向いて行くものだ。
現在俺とリリアさんは隣り合わせの形で温泉に入っており、タオルを巻いた状態とは言えなかなかどうして凄い状況であるし、もちろんドキドキもする。
しかし、ここで俺が緊張とかを表に出すわけにはいかない。なぜなら隣のリリアさんは俺以上にいっぱいいっぱいというか、まったく余裕が無い状態だからだ。
アリスもかなり恥ずかしがり屋ではあるが、なんだかんだでアイツは自虐したり茶化したりということもしてくるので、結構喋る。しかし、リリアさんの場合は多分俺がリードしないと一言も発しないままで真っ赤な顔で俯いていそうな感じがする。
なのでここは俺がリードする必要があり、リードする側の俺はできるだけ余裕を持った態度でなければ緊張などが伝染してぎこちなくなってしまう。
まぁ、きっと大丈夫だ。なんだかんだで俺はここまで数々の混浴を乗り越えてきたし、経験値は十分に……う~ん、改めて思うとやたら混浴してる気が? ま、まぁ、それはいま置いておこう。
「リリアさん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。いや、もちろん気恥ずかしさとかがあるのは理解できますが、ガチガチの状態だとせっかくの温泉も楽しめないでしょう」
「そ、それは確かにその通りですが……やはり恥ずかしさは……カイトさんは、余裕そうですね」
「いや、流石に俺もこうして混浴してる状態だと緊張とかもしますし、ドキドキもしてますが……俺以上にリリアさんが緊張しまくってるので、それを見てたら逆に少し落ち着いてきた感じですね」
「な、なるほど……」
「俺も可能な限りそっちは向かない様にするので、リリアさんもある程度は肩の力を抜いてください。なんだかんだでリリアさんもパーティで疲れてるでしょうし、せっかくの機会なんですしリフレッシュできた方がいいですしね」
そう、俺の負担ばかりに話が行きがちだが、リリアさんもなんだかんだでかなり疲れているだろう。最初に凄い順番にプレゼントを渡して、シロさんとマキナさんの睨み合いに巻き込まれて、隠し芸大会の審査員もやってと……いや、本当にかなり疲れてそうである。
「見ない様に……あの、カイトさん……と、とても変な質問だとは思うのですが、や、やはりそういうのを見たいと思ったり……その……するのでしょうか?」
どうしようか、思った以上に凄いことを聞いてきたぞ……たぶんリリアさんは、緊張と恥ずかしさでちょっとハイになっている状態なのだとは思うが、その質問への返答は大変に難しい。
いや、答えるだけならともかく変にリリアさんと気まずい感じになってしまわない様に回答するにはどうすればいいかが難しい。だからといって沈黙していては、それはそれで気まずくなるし……。
「……それはもちろん、そういった思いというか欲望があるのは否定しません。リリアさんは凄く魅力的な女性ですし、恋人ですし……」
とりあえずここは素直に回答しておくことにしよう。もちろん恥ずかしさはあるが、変に誤魔化したりしても意味は無いと思う。
俺の返答を聞いたリリアさんは、顔を赤くしたままで少し沈黙した後で、おずおずと口を開く。
「……えっと……その……み、見ますか?」
とんでもないこと言い始めたというか、たぶん割といま頭の中がテンパってる状態なのだろうが、アクセルベタ踏み状態になってしまってる気がする。
なんというか、恥ずかしさと緊張に後押しされた結果、後先考えずに突っ走ってる精神状態なのではないかと思う。
そしてその言葉への返答は先程よりも難しい……難しすぎる。
いや、それはもちろん見たいか見たくないかで言えば見たいし、なんなら混乱状態のままで頷きかけてしまったが……そういうわけにもいかない。
例えばこれがリリアさんとふたりで温泉旅行にでも来ているというシチュエーションなら、たぶん頷いたと思うが……あくまで現在は誕生日パーティの途中の休憩時間であり、先ほどのシロさんとの休憩を参考にするとある程度の時間で戻ることは確定しているわけだ。
ここで下手に勢いに流されて行動したとしたら、その後休憩室に戻った時の気まずさがとんでもないし、なによりしばらく悶々とした気持ちになってしまいそうだ。
「その、非常に……非常に魅力的な言葉なんですが、休憩時間とかもあるわけですし、その……またの機会というか、またふたりきりで出かけた時などに……」
「……時間? そんなに時間の……あっ……」
俺の言葉を聞いて一瞬キョトンとした表情を浮かべたリリアさんだったが、すぐになにかに気付いた様子で先程までよりさらに顔を赤くした。
う~ん、失敗したというか……結果的になんともむず痒さと、若干の気まずい空気になってしまったかもしれない。
「…………その……カイトさん……また一緒に旅行とか……行きましょう」
「……そうですね。どこかまたふたりで、行きましょう」
消え入るように小さい声ながら、それでも先程までの会話を踏まえた上で告げてきたリリアさんの思いは嬉しく、顔が熱くなるのを感じつつも笑顔を返した。
シリアス先輩「気絶しない状態だと、テンパってアクセルベタ踏みになるのか……気絶を封じることで糖力が増す……だと……」




