続・宮間快人生誕記念パーティ⑰
まどろみの中から意識が浮上する。ゆっくりと目を開くと、俺の目に飛び込んできたのは心なしか少し楽しそうに俺の顔を覗き込むシロさんの顔と、その後ろに広がる透き通るような青い空……いや待て、青い空はおかしいだろう?
「おやようございます、快人さん。まぁ、おはようと声をかけるのは間違いかもしれませんが……」
「え? いったいなにを、というか……」
シロさんの不思議な首を傾げつつ、上半身を起こして視線を動かすと……照りつく眩い太陽、彼方まで広がるオーシャンビュー、美しい白い砂浜……ちょっと待って、頭が現実を受け止め切れてない。
い、いや、俺は確かに休憩室のソファーで寝たはずで……なんで砂浜で寝てるんだ? というか、俺水着なんだけどどういうこと!? いや、シロさんなら別に俺が寝ている間に移動して、俺の服を変えるぐらい容易いだろうけど、なんでそんなことを……さすがに誕生日パーティの最中に海に来るのは予想外にもほどがあるんだけど!?
「シ、シロさん、ここ……どこですか?」
「海ですね」
「ええ、まぁ、それは見れば分かりますが……どこの海ですか?」
「さぁ?」
「えぇぇぇ……な、なんで首をかしげるんですか……シロさんが寝てる俺を移動させたんですよね?」
どこの海かという質問に「さぁ?」という返答はあまりにも不自然というか、シロさんは嘘とかはつかないはずなので、「どこ?」という俺の質問に対してそう答えるということは、本当にこの場所がどこが分からないということだった。
「いえ、別に快人さんはどこにも移動してません」
「う、ううん? それってどういう……」
「正しくは、快人さんはいまも眠っています。ここは夢の中で、とりあえず場所を海辺にしただけなので、地理的にどこかというのはそもそも答えが無いですね。強いて言うなら、夢の中です」
「……え? あっ、そういう……ああ、だからさっきおはようって声をかけるのは間違いかもしれないって……」
「はい。事実として、快人さんはいまも寝てるので、おはようというのは間違いですが他に適切な声掛けが見つからなかったので、おはようと言いました」
それですべて納得がいった。なるほど、確かにそれなら最初の変な言い回しも理解できるし、場所がよく分からないという答えにも納得だ。
要するにいまの状態は、マキナさんがたまにやる夢の中で仮想空間を作ってそこに意識を呼び寄せてる形というわけだ。
「その通りです。特に理由があったわけではないのですが、地球神がやっていたので、せっかく寝ている快人さんが傍にいる機会ということだったので、同じようなことをしてみました」
「なるほど、納得しました……でも、なんで海なんですか?」
「よい質問です。こうして夢の中で話すこと自体は単なる思いつきでしたが、そのあとで考えてみればむしろそれは最適解と言えるのではという結論に達しました。この状態なら、快人さんの体を休ませつつ、存分にイチャイチャできると思いましたので、海にしました」
……とんでもない手を使ってきたなシロさん……ただその場合、肉体的な疲労はどうにかなっても精神的な疲労は変化しないような気も……いや、でも、元々別に寝るつもりはなく気分転換をする予定だったわけだし、そう考えるなら……アリなのか?
「アリです。快人さんは気分転換が出来つつ体を休められてハッピー、私も快人さんと存分にイチャイチャできるのでハッピーと、双方ともに得しかないダブルWINシステムです」
「な、なるほど?」
まぁ、気分転換になるのは間違いないかと、そう思いつつシロさんの方を見る。シロさんも水着になっており、その水着は以前一緒に海水浴に行った際とは違っていた。
ダークグレーのシンプルなビキニの上に、シースルーのゆったりした上着を着ている。相変わらずビジュアルの戦闘力が高すぎるというか、本当になにを着ても絶世の美女である。
「シロさんは、前とは違う雰囲気の水着ですね。前のパレオも凄く似合ってましたが、いまのシースルーとビキニの組み合わせも、大人っぽくて素敵ですね」
「ありがとうございます。もっと褒めてもいいのですよ? 褒めると私が喜びます」
定番の言い回しを告げるシロさんの背後では、砂浜が盛り上がりドヤァという砂文字が出現していた。
「……でも、本当に夢の中とは思えないほど感覚がリアルですね。普通に海で泳げたりもするんですか?」
「問題ありませんよ。せっかくですし、海で一緒に遊びましょう」
「そうですね。いい気分転換になりそうですし、行きますか……」
まぁ、もう既に砂浜に居るわけだし、こうなってしまったものは仕方がないので、せっかくのシチュエーションを楽しむことにして、シロさんと一緒に海に向かった。
シリアス先輩「誕生日パーティの休憩中に海水浴デート始めやがった!? 自重とか……そういうのがねぇのかこの神!?」




