今日よりもっと頑張ろう
ミッドナイトクリスタルを必要数集める為、感応魔法を使い、魔力が切れたら休憩、また再び感応魔法で捜索……見つからなければ山を変えて捜索と続け、必要な数が集まるには丸二日かかってしまった。
一つ目でこれとか、ちょっと楽観視し過ぎてたかもしれない……けど、どうせ作るならできるだけ良い物を作りたいし、妥協してしまうとリリアさんへの想いはその程度かって事になる気がして、変な拘りだとは思うが可能な限り俺に集められる最高の素材を集めたい。
そして土の月29日目。俺は全身を襲う凄まじい筋肉痛を感じながら、とある場所を訪れていた。
『……良い木材、ですか?』
「はい。突然押し掛けて失礼だとは思うんですけど……知恵を貸していただけませんか? リリウッドさん」
そう、現在俺が訪れているのは魔界最大の都市と呼ばれる森林都市・ユグフレシス……リリウッドさんの治める場所に来ていた。
内容は勿論、オルゴールに使う木材に良いものが無いかと、俺の知る中で最も草木に詳しそうなリリウッドさんを頼ってきた。
リリウッドさんは俺の言葉を聞いて、穏やかな微笑みを浮かべて頷く。
『勿論構いませんよ……そうですねぇ、う~ん。少し恥ずかしいのですが、木材というなら『世界樹の枝』が一番ではないかと思います』
「な、なんか名前だけで凄そうですか……なんで、恥ずかしいんですか?」
『いえ、ほら……自画自賛、しているみたいで……』
「自画自賛?」
リリウッドさんのいう世界樹とは、このユグフレシスの中央に鎮座する雲を突き抜けてそびえ立つ、巨大な木の事だろう。
山より遥かに大きい木とか本当にファンタジーだが、それでなんでリリウッドさんが恥ずかしがるのか分からず首を傾げる。
するとリリウッドさんは、少し頬を染め言い辛そうに告げる。
『……いえ、あの、えっと……世界樹は……私の『本体』ですから』
「……へ? え? えぇぇぇ!?」
『ほら、私は木の精霊……実の所本当の意味でのリリウッド・ユグドラシルとは、世界樹の事です。カイトさんと話している私は、言わば木が人化した姿とでも思っていただければ……』
「な、成程……」
つまり、いってみればリリウッドさんは世界樹が擬人化した存在とでもいうべきか、そんな感じらしい。
木の姿のままでは動けないので、魔力の大半を精霊体に移して行動しているが、本体はあくまで世界樹らしい。
って事は、もしかして六王で一番大きいのって……実はマグナウェルさんじゃなくて、リリウッドさんなんじゃ? だってあの世界樹……数万メートルはありそうだし……
驚く反面、ああ成程と納得できる部分もある。リリウッドさんは以前自分の体から生やした枝に世界樹の果実を作りだした。それを思い出してみると、リリウッドさんが世界樹の精霊というのも納得がいく。
「け、けど、それだとやっぱり、枝を頂く訳には行きませんよね?」
『え? いえ、全く構いませんよ……切り落としても数秒で再生しますし』
「……ア、ソウナンデスカ」
穏やかで常識的な所があるから忘れがちだが、この方も人知を超えた存在なんだ、俺の常識は通用するはずもない。
ともあれこれで世界樹の枝を手に入れる事が出来ると思ったが、何故かリリウッドさんは少し迷うような表情を浮かべる。
『……ただ、その……カイトさんが自分の力で採るのですよね?』
「で、出来ればそうしたいんですが……」
『う~ん。大変だと思いますよ? それでも、構いませんか?』
「は、はい! 頑張ります!」
何が大変なのかまでは分からなかったが、一先ず可能な限り頑張るつもりだという意思を伝えると、リリウッドさんは頷いて俺を魔法で浮遊させ、世界樹の中腹辺りの太い枝に連れて行ってくれた。
枝とはいえ数万メートルの世界樹……ハッキリ言って滅茶苦茶広い、端から端まで走るだけでも辛そうだ。
しかし流石にこのサイズの枝は俺には切れないと、そう思った瞬間、枝の一部から丁度良い……普通の杉とかくらいの太さの枝が生えてきた。
『それを、切って使ってください。十分足りるかと思います』
「ありがとうございます。助かります」
『では、カイトさん……これを』
「これは……ノコギリ……ですか?」
リリウッドさんが俺に手渡してくれたのは、黄金色のノコギリ……なんか見るからに凄そうな逸品だけど、これで枝を切れって事かな?
『……『オリハルコンのノコギリ』です』
「……え?」
オリハルコン? なんかそれ、物凄いやつじゃなかった? ゲームとかの最強装備的なアレじゃない?
『一応『10本』置いておきますね。足りなければ言ってください』
「……は?」
『では、健闘を祈ります』
「……へ?」
なにやらとんでもなく不吉な言葉を残しながら、リリウッドさんは後で迎えに来ると告げて去って行き、残された俺は手にある伝説のノコギリと、世界樹の枝を見比べる。
なんだろう、またとんでもなく大変そうな気がする……
そしてその予感は現実のものとなり、空が夕暮れに染まる中で俺は枝一本相手に悪戦苦闘していた。
「……き、切れない……硬すぎる」
そう、開始してからどれぐらいの時間が経ったか分からない……オリハルコンのノコギリは既に四本折れた。しかしまだ半分も切れていない。
ノコギリを必死に何十回何百回と動かして、ようやく少し切り進められるような、とてつもない強度の枝……リリウッドさんが大変だって言ってた意味が分かったよ。
「てか、これ……切れても、加工出来ないんじゃ……」
「あ~それは大丈夫っすよ。流石に枝を木材にするのはカイトさんじゃ無理ですし、それは私がやります。大きさ調整して切り分けるので、カイトさんはそれを組み立てる感じですね」
「な、成程……」
どこからともなく聞こえてきたアリスの言葉に、軽く絶望を感じながら頷く。
これ、わざわざ、こんなとんでもない木材使う必要ないんじゃないかなぁ……ノコギリの使い方にも大分慣れたし、今の俺なら普通の細さの木なら十分切れる筈……
というかそもそも、木材ぐらい買っちゃえば……いいや、駄目だ! リリアさんの為に俺に用意できる最高の物を作るって決めたじゃないか!! このぐらいでへこたれるな! 出て行け俺の怠け心!!
半日ぐらいで半分切れたなら……もう半日使えば切り落とせる筈だ!! 男は根性、やるぞぉぉぉ!
「ちなみに、カイトさん……前に私の店で買った風の刃を生み出す魔法具のナイフ……あれ、ノコギリに重ねると、風の刃がノコギリまで広がって切れ味がグンとアップしますよ。豆知識っすね」
「……ねぇ? アリス?」
「なんでしょう?」
「なんでそういう事もっと早く言ってくれないの? もう半分切ったよね? 何時間もかかったよな? お前ずっと見てたんだよな? 絶対わざとだよな?」
「……おっと、急用を思い付きまし――ふぎゃっ!?」
「ちょっと……作業再開する前に話がある」
即座に逃げようとしたアリスの首根っこを捕まえ、少し休憩を兼ねて説教を行う事にした。
その後は風の刃で強化されたノコギリのお陰で、なんと切れる速度が二倍に上がり……6時間ぐらいで切り落とす事が出来た……もう、腕死にそう。
「うぐっ……ぅぅ……腕痛い……コンクリートで固められたみたいに動かない」
「いっぱい頑張ったんだね? 凄いよカイトくん……でも、あんまり頑張り過ぎちゃ駄目だよ?」
ツルハシで筋肉痛の所にトドメとばかりにノコギリ……もう腕の感覚がおかしいというか、本当に全然腕が上がらない。
作業をしている時はやる気のお陰で誤魔化せていたが、屋敷に戻ると一気に疲れが来た。
そんな俺を膝枕しながら、クロはそっと俺の腕に手をかざし、治癒魔法をかけてくれる。
ガッチガチに固まった腕が揉みほぐされるような気持ち良さを感じつつ、柔らかいクロの膝枕を堪能する。
「……というか、いくら何でも素材の難易度が高すぎる……ただの人間の俺には辛すぎるって……けど、頑張るしかないし……うぅ、疲れた」
「うん、大変だよね。頑張るカイトくんはすっごくカッコいいけど……ずっと頑張りっぱなしじゃまいっちゃうでしょ? だから、今はゆっくり休憩してよ」
「……そう、だな」
「大丈夫だよ……ボクが、傍に居るからね」
「……うん」
そう呟きつつ、少し動くようになった腕をクロの腰に回して軽く抱きつく。
ヤバいなぁ、コレ癖になっちゃいそうだ……クロに甘えるとホッとするというか、凄く優しく受け止めてくれるから……心も体も癒されて、また頑張ろうって気持ちが湧いてくる。
「カイトくん……ボクはいつだって、カイトくんの事、応援してるからね……頑張って」
「……うん、頑張る」
拝啓、母さん、父さん――二つ目の素材は世界樹の枝を使った木材。滅茶苦茶硬くて、物凄い時間がかかったけど、これもなんとか入手できた。けど、まだまだオルゴール作りは始まったばかり、今はしっかり心と体を癒して、明日からまた――今日よりもっと頑張ろう。
クロにだけは弱音はいて甘える快人……そんなに幼女の膝枕が良いか!!
そしてここで、活動報告にある「ファンアートを頂きました②」を見てみましょう。
快人に対する殺意が凄まじい事になります。爆ぜろ!!