続・宮間快人生誕記念パーティ⑩
快人の誕生日を祝うために作られた世界……その時間が唐突に停止する。時空の権能を持つクロノアであっても抗えない強制的な世界単位の時間停止。となればそれを行った者の候補も限られる。
程なくしてパーティ会場である城の一室にある巨大な円形テーブルのある会議室に、複数人の姿が現れた。
「……なんすか、いきなり時間停止して召集の上で緊急会議って……」
招集されたのは今回の快人の誕生日パーティにおける初期のメンバー……すなわち、シャローヴァナル、クロムエイナ、アリス、フェイト、リリア、人界の三王、マキナ、カナーリスの十人。そして、そこに追加して時間停止が効かないからという理由でイレクトローネも招集されており、十一人が集まっていた。
そして、この緊急会議の発起人であるシャローヴァナルが、抑揚のない声で告げる。
「異議ありです」
「異議? シロ、どういうこと?」
「……あ~なんか、嫌な予感してきましたよこれ」
シャローヴァナルの言葉にクロムエイナが首をかしげながら聞き返し、アリスはシャローヴァナルがなにを言おうとしているのか察した様子で、どこか呆れたような表情を浮かべた。
「恋人が快人さんにプレゼントを渡す際に特別な行動を取るというのが、途中から始まったせいで最初にプレゼントを渡した私やリリアがそれを行えていない状態なのは不公平です」
「え? えぇ……別にそんなの気にしなくてもいいじゃん。というか、ボクやジークちゃんも別にプレゼントを渡すときには何もしてないよ?」
「そもそもの発端は、クロがゲーム大会で快人さんの頬にキスをしたことですし、一番最初に抜け駆けしたのは貴女では? ジークリンデに関しては、一緒にマフラーを巻くという約束を取り付けていたので、それを該当行為と認識します」
「うっ……そ、それはえっと……」
シャローヴァナルを窘めようとしたクロムエイナだったが、確かに快人の恋人の中で一番初めに抜け駆けのようなことをしたのは誰かと言われるとクロムエイナが該当してしまうため、それを出されてしまうと強く反論することもできなかった。
「そうだよ! 不公平だよ!! 愛しい我が子だって、このままじゃ消化不良な気持ちが残っちゃうはずだよ!」
「……いや、仮にシャローヴァナル様の主張を認めたとしても、マキナは対象外でしょ……」
「ええ、あくまで恋人の不公平さに関しての話です。母は対象外です」
「そんなっ!?」
シャローヴァナルに追従するように主張し始めたマキナだったが、アリスだけではなくシャローヴァナルにもバッサリと切り捨てられた。
そんなマキナの肩に、イレクトローネがポンッと手を置く。
『提案を出力……《まぁまぁ、マキナちゃん。恋人以外も考慮し始めると話が大きくなっちゃうからね。ここは母っていう立場の余裕を見せてドーンと構えておこうよ》……母には母として優先されるべき時があり、いまは譲るべき時と判断する』
「う、う~ん、そういわれると……恋人同士の時間を母が邪魔しちゃうのもいけないし……」
『続けて話題を出力……《それよりマキナちゃんは、私と映画の話をしようよ。さすがマキナちゃんの映画は凄かったね。私感動しちゃったよ! 特に28年145日18時間24分のところで快人様にカメラが寄るシーン! 右斜め上53度の角度から入っていったのは、マキナちゃんの拘りを感じて痺れたね!》……あれはまさに芸術である』
「やっぱイレクトローネは分かってるよね! そうなんだよ、あそこは私もすっごく悩んだんだよ。安直に愛しい我が子の愛らしさを表現するなら47度の角度が最適なんだけど、前後のシーンとかも含めて総合すると、あの場面は53度がベストなんだよね! 三日ぐらい悩んだから、そこに気付いてくれるのは嬉しいなぁ~他にもこだわりはあって……」
「あの、シャローヴァナル様。イレクトローネさん、今後もこの手の行事の時に呼んでくれません? マキナ任せられると、私は凄い楽なんすよ」
サラッとマキナをフォローしつつ妥協させ、さらには別の話題を振ることでマキナの意識をそちらに向けて会議に余計な口を挟まない様に抑えるイレクトローネを見て、アリスはなんとも言えない表情で提案しており、その顔からは普段の苦労が察せられた。
「その話はまた後にしてください。……ともかく、このような不公平は認めません。私とリリアは断固抗議します」
「!?」
抑揚が無いながらどこか力強く宣言したように感じられるシャローヴァナルの言葉を受けて、リリアは「え? 私も!?」と言いたげな表情を浮かべて驚愕していたが、まさかこの状況で口を挟めるわけもなかった。
シリアス先輩「くそっ!? 天然神が余計なことを……でも、これどうするんだ? もう一回プレゼント渡すとかってわけにもいかないだろうし……」
???「あとシャローヴァナル様の発言的に、サラッとリリアさんも対象なんですよね……審査員席で余裕の表情を浮かべていた反動が、ここできましたか……」




