続・宮間快人生誕記念パーティ②
アニマから誕生日プレゼントを受け取ると、ちょうど隠し芸大会の二人目が始まるようだったので、そちらに視線を向けると……香織さんと茜さんが居た。
これはまた、なんとも意外な出場者ではある。見たところ香織さんの方は恐縮しまくっており、茜さんの方はどこか気楽な感じなので茜さんが引っ張ってきたんだと思う。
俺の居る場所が比較的ステージに近いのと、たまたま少し静かだったこともあり壇上のふたりの声が聞こえてきた。
「あ、茜さん、やっぱこれ緊張が凄いよ。だってほら、あんな凄い彫刻の後だしさ……」
「別に気にせんでもええって、こういう席での恥なんてもんはかき捨てなんやて、やらかしたとしてもすぐ忘れられるし、そうやなかったとしても後々笑い話に出来れば美味しいやん。その上で、タダでお偉方に顔覚えてもらうチャンスがあって、賞金まで貰える可能性があるんやから、チャレンジし得やて」
やっぱり茜さんが香織さんを引っ張ってきたっぽい。茜さんは結構強かというか商会長だけあってパーティに集まる人たちに顔を覚えてもらうことが、後々の利益に繋がるだろうと思ってエントリーしたらしい。
香織さんは間違いなくそういった顔を売るようなことを望む感じじゃないと思うので、主導は茜さんで間違いない。ただ単独で出るのではなく、香織さんと一緒にということは……行う一発芸に香織さんの力が必要なのだろう。
『それでは続いてのエントリーは、過去の勇者役でもあるおふたり、カオリさんとアカネさんですね』
『あ~なんか見たことあるね。カオりんの方は、前々回じゃなかったっけ? アカねんの方はもうちょっと前だよね。でもどっちもアルクレシア帝国が召喚担当の年の勇者役だった気がする』
『おっ、フェイトさんが勇者役の顔を覚えてるとは珍しいですね』
『いや、私記憶力はいいから一度見たら忘れないんだよ。興味無いから思い出さないだけで……でも最近はちゃんとカイちゃん周りの人には興味持てるようになってきたからね~』
フェイトさんの成長は凄いというか、母さんと父さんとの一件から特に無理をしなくても俺に関連している人相手なら、普通に興味を抱けるようになったみたいである。
あの当時悩んでいたことを知っている身としては、なんだか嬉しい気持ちだ。
そう思っていると、壇上で茜さんが拡声魔法具に近づいて話始める。
『それでは紹介に預かりました、茜と香織のコンビで隠し芸やらせていただきます。正直さっきの教主様が、それはもう凄かったんで委縮しまくりですが、子供のお遊戯見るような気分で見守っていただけたら幸いです。と言っても、ウチは手伝いで主にやるんは香織ですけどね』
『よ、よろしくお願いします』
『……もうちょっと落ち浮いてほしいけど、まぁええか……はい。こちらの香織ですが、一件可愛らしい小動物みたいに見えるんですけど、水魔法の凄い使い手でして、今回はそれを少し見ていただこうと思ってます』
ガチガチに緊張してる様子の香織さんに対して、茜さんは自然体であり簡単に説明をした後で……なんかリンゴ……もといリプルの付いたヘアバンドを頭にセットして、香織さんから距離を取った。
これ、アレかな? もしかして、矢で頭のリンゴを射貫くみたいなことやるのかな?
『……茜さん、なんでそんなヘアバンド持ってるの? というか、頭にリプル固定できるヘアバンドって……』
『ああこれ、前にハイドラ王国の建国記念祭でな。こう見えて魔法具やからリプル乗っけるだけで落下せんように固定される優れもんやで?』
『用途が限定的すぎるよ……』
そうだアレ、アリスが作ったおふざけグッズのひとつだ。そのヘアバンドを付けると、頭の上に物を乗せても落下しなくなるという、なんかに使えそうで微妙に使い道が思い浮かばない変な道具だったのだが……茜さんアレ買ってたのか……。
『もう見て分かると思いますが、これからウチの頭に乗せたリプルを、香織が離れた場所から水魔法で打ち抜きます……香織、めっちゃ緊張してるけど……大丈夫よな?』
『……茜さん、念のために全身甲冑着ない?』
『不安になるこというなや!? 外すにしても、せめてウチに当てんといてくれ!』
コントのようなやり取りに思わず苦笑する。もちろんなんらかの安全対策はしているのだとは思うし、いまのやり取りに関しては香織さんが慌てている感じでは無かったので、事前に打ち合わせしたやり取りなのだろう。
そのやりとりの後に香織さんは両手の人差し指と親指を四角形を作るように重ね、茜さんの方に向ける。その直後香織さんの手から青いレーザーのように水が発射され、リプルの中心を見事に打ち抜いた。
さらにそれだけではなく、香織さんは組んでいた指を離して今度は両手を開いて茜さんの方に向けると、先ほどよりかなり細い水のレーザーを全ての指から放ち、それを動かす。
十本の水のレーザーが複雑に動くという見た目にも綺麗な光景の後、茜さんの頭には……少しファンシーな感じのウサギの形にカットされたリプルが残っており、会場内から拍手が響いた。
『よ、よかった上手くいった』
『……これ、頭にかかること想定してへんかったわ……髪べちゃべちゃやん……』
シリアス先輩「そういえば前に鼻を打った時に、鼻の先だけに水の玉を付けて、そのまま普通に快人と会話しながら維持してたし、繊細な魔法のコントロールも得意なのか……」
???「そもそも水を圧縮してウォーターカッターのように放つのが、結構レベル高めの魔力制御技術が必要ですからね」