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完成させたいと思う

 ジークさんに貰ったアドバイスを元に、リリアさんの誕生日に贈るプレゼントを考えた。

 リリアさんはアクセサリー類を殆ど身につけていないので、アクセサリーというのも考えたが……折角準備期間があるのだから、もう少し手の込んだものを用意してみようと考えた。

 ただ問題なのは、俺の頭に思い浮かべている物を用意できるかどうか……


「……オルゴールの魔法具?」

「うん。そういうものって、作る事って出来るかな?」


 という訳で、例によって例の如く……困った時のクロ頼みである。

 いつも通り夜になって部屋に顔を出したクロに、掻い摘んで事情を説明した上で尋ねてみた。


「うん。っていうか、結構高級なプレゼントとかに使われるから、ボクの所の商会でも取り扱ってるよ。勿論普通のオルゴールもあるけど、魔法具の方がコンパクトだし、色々仕掛けも入れれるから人気だね」

「成程」


 予想通りオルゴール自体はこの世界にもあるみたいで、プレゼントとかにも用いられているらしい。

 コレは非常に重要な情報である……俺も電卓の時に学んだ。下手に俺の世界の機械とかを魔法具で再現とかだと、喜んでもらう以前に驚愕させてしまうし、特許だなんだとややこしい事になる。

 なのでこの世界に存在している物で、尚且つある程度有名な品物の方が良い。


「オルゴールをプレゼントってのは良い案だと思うよ。凝った仕掛けにしたいなら、ボクが作ろうか?」

「あっ、いや……それなんだけど、その魔法具って、俺でも作れたりするかな?」

「カイトくんが?」


 そりゃ、クロに頼めば、それこそ世界で最高峰の素晴らしいオルゴールが出来上がると思う。だけど、今回はあくまで俺がリリアさんに感謝の気持ちを込めて贈ろうとしているんだ。

 クロに作って貰って、それをはいどうぞで良い訳が無い。


「うん。出来るだけ自分の力で作りたいんだけど……いや、勿論俺は作り方なんてよく分からないから、クロやアリスの力は借りる事になると思うんだけど……」

「う~ん。そうだねぇ……オルゴールの魔法具の術式自体は凄く単純だし、カイトくんも最近は簡単な書き込みならできるようになったから……うん、大丈夫。難しい所はボクが教えてあげるよ」

「おぉ、助かるよ。ありがとう」


 クロによる魔法の授業は現在も続いており、そのおかげもあって俺もかなり進歩してきている。

 まだ一から魔法具を作ったりは出来ないが、元々ある術式に簡単な動作を追加するぐらいなら出来るようになっている。

 クロの話ではオルゴールの魔法具はそれほど難しくなく、魔法具作りの初心者が挑戦するには丁度良い難易度らしい。


「じゃあ箱とかのデザインはシャルティアと相談してもらう事にして、術式だけ今から少しずつやっていこうか」

「ああ、分かった!」

「それで、カイトくん『曲』は何にするの?」

「……え?」


 笑顔で頷いてからクロが告げた言葉を聞き、俺はピタリと硬直する……キョク? 曲? 


「……あっ」

「もしかして……考えて無かったとか?」

「……うぐっ」

「カイトくん……せめて楽譜ぐらい無いと作れないよ?」

「仰る通りです……」


 ぐうの音も出ない程の正論である。オルゴールを作ろうと考えて、曲の方に全く当てが無いって……馬鹿か俺は……

 ガックリと肩を落とす俺を見て、クロは少し困ったように苦笑しながら、優しい声色で話しかけてくれる。


「まぁ、今日の所は基本的な術式の勉強をしておこうよ。それで、明日から曲は探してみれば良いよ。ね?」

「う、うん……ありがとう」

「ボクもいくらでも力になるからさ、頑張ろう!」

「……ああ!」


 とても心強くありがたい言葉……ジークさんといい、クロといい……本当に俺は素敵な恋人を持ったものだ。

 ともかく、明日オルゴールの箱作りの相談にアリスの雑貨屋に行く事になっているし、曲に関してはそこでついでに相談してみる事にしよう。

 アリス自体はいつも俺の護衛についてくれているので、話すだけなら雑貨屋に行く必要はないんだけど……あそこには工房もあるらしいので、まだ白紙のデザインとかの刺激になるだろうと思う。









 一夜明けて土の月26日目。アリスの雑貨屋に来た俺は、アリスに事情を説明した後呆れられていた。


「……オルゴールを自作しようとして、曲を全く考えて無いって……カイトさんって、時々抜けてますよね」

「ぐぅ……返す言葉もない」

「あはは、でも、曲選びは結構難しいっすよ……リリア公爵、結構耳は肥えてますし」

「え? そ、そうなの!?」


 苦笑しながら告げるアリスの言葉を聞き、俺は驚愕しながら聞き返す。

 俺はこの世界の音楽に関しては明るくないし、元の世界の音楽なんて音符もロクに読めない俺では再現するのは不可能だ。


「そりゃ、リリア公爵は元王族な訳ですから、宮廷楽団の演奏があの人の基準って訳ですしね」

「むぅ……困った。俺この世界の音楽って、2~3曲しかしらないしなぁ……」

「まぁまぁ、そこでこの、『音楽に定評のある』アリスちゃんですよ」

「……そんな定評初めて聞いた」


 口元に微かに笑みを作りながら、ドヤ顔でポーズを決める自称音楽に定評のあるアリス……なんだろう、この胡散臭さは……

 そしてアリスは、カウンターの後ろにしゃがみ、ガサガサと何かを漁り始める。


「え~と、どこに置きましたかねぇ……長い事使ってなかったんで……あっ! ありました!」

「それって……バイオリン?」


 カウンターの奥からバイオリンらしき物を引っ張りだしたアリスは、少しそれの様子を確かめるように色々な角度から眺める。

 恐らく状態保存の魔法をかけていたのだろう。軽く指を動かしてそれを解除するような動作をした後、戸惑う俺の前でアリスはバイオリンを構える。


「……テーマは恋愛で、曲調はポップな感じが良いっすかね」

「アリス? ッ!?」


 なにをしようとしているのか尋ねようとした俺は、直後に言葉を失ってしまった。

 手を動かし演奏を始めたアリス……そのバイオリンから響き渡る音色は、音楽に詳しくない俺でさえ圧倒された。

 優しく和やかに響き渡る旋律は、時に寂しげに、時に明るく楽しげに変化し、惹きこまれるように心の深くまで響き渡った。


 なんて曲だろうか? とにかく物凄く良い曲だ……心がホッとするというか、思わず目を閉じて聞きいってしまった。

 そのまま数分演奏を続け、曲が終わると、つい反射的に拍手をしていた。


「こんな感じでどうっすか?」

「凄く良い曲だった! それ、なんて曲?」

「え? 『今作曲した』ので、曲名はまだ決めてませんけど?」

「……は? え? えぇぇぇ!?」


 今作った!? あの凄い曲を即興で!? し、信じられない。一体コイツ……どんな頭の構造してるんだ?

 驚愕する俺の前で、アリスはどこからともなく綺麗な紙を取り出し、サラサラとフリーハンドで瞬く間に手書きで楽譜を作ってしまう。化け物かコイツ……


「あ、アリス……作曲とかもできるの?」

「へ? ええ、まぁ、だいたいの事は出来ますよ。楽器も全部使えますし、曲も『2000曲』ぐらいは作りましたね……」

「……」


 本当に、アリスの訳の分からない高スペックはなんなんだろう? 本当に、その気になればいくらでもお金稼げそうな気がする。

 そんな事を考えていると、アリスはスッと顔を逸らし、少し寂しそうな声で小さく告げた。


「……まぁ、大抵の事は極めちゃいましたよ。時間だけは……呆れるぐらいにあったんで……」

「……アリス?」

「なんでもないです! さっ、オルゴールのデザインを考えましょう。カイトさんが自分の手で作るんですから、あまり複雑すぎないように、それでいてしっかりと仕掛けも仕込みたいですね」

「あ、あぁ……」


 本当にアリスは、親しくなった今でも謎の多い存在だ。

 正体が幻王であるという秘密を知っても、それ以上に深いナニカがありそうな気がした……ただ、それは今尋ねるべきではないだろう。きっとアリスもそれは望んでいない。

 いつか、アリスの心の準備が出来た時に……彼女の口から聞けたらいいと……そう思った。


 拝啓、母さん、父さん――リリアさんの誕生日プレゼントにオルゴールを作る事にした。ハッキリ言って何もかも初めてだが、色々な人にアドバイスを貰いながら、なんとか――完成させたいと思う。





なんだかんだで、結構抜けてて二枚目になりきれないのが快人の良い所。

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[気になる点] こいつこれでギャンブルは極めてないのなんでだよ…
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