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閑話・信仰心は全てを解決する 前編



 時は快人とオリビア、香織の三人でデートをしてから10日ほど経った日の事だった。友好都市ヒカリにある中央大聖堂の教主の間にて、オリビアはいつも通り祈りを捧げようとしていた。

 だが、その時ふと……本当に唐突な思い付きのような形で、頭の中にあることがよぎった。


(……よくよく考えてみれば、ここはシャローヴァナル様を信仰する神教の中心であり、神教の祈りに使う品はすべて揃っていますが……いまさらながら、神教の祈りの鐘や神像に向けてミヤママイト様への祈りを捧げるのは間違っているのではないでしょうか? ミヤマカイト様に祈りを捧げるのであれば、やはりそれはミヤマカイト様に祈るための品が必要なのでは? これは失態ですね。私としたことが、このような基本的なことにいままで気付かなかったとは……早急に手配しなければ……ミヤマカイト様への祈りの質にも影響が出ます)


 オリビアの信仰心は群を抜いており、彼女にとって快人への祈りは世界の神たるシャローヴァナルへの祈りと同じく極めて特別なものであり、図らずもいままで妥協したかのような環境で祈りを行っていた。それはオリビアにとって恥ずべきことであり、深く反省したオリビアは即座に快人に祈りを捧げるための道具を用意しようとした。


 ……しかし、しかしである。確かに快人はその交友関係などから、世界でも屈指の発言力を持ち実質的な立場もかなり高いと言っていい、まさに世界の特異点に相応しい存在ではある。

 だが、そういった諸々の事情を抜きにして考えた場合の快人の立場は、特殊な立ち位置ではあるが異世界からの移住者にして一般市民と言っていいものであり……そもそも、快人を信仰する宗教も無ければ、当然ながら像や祈りの鐘に類する道具などが存在すするはずもない。


(……なんということですか、まさか、このような……ミヤマカイト様に祈りを捧げるための品が存在しない? そ、そんなことが許されていいのでしょうか? ミヤマカイト様は大変に尊いお方であり、それこそシャローヴァナル様と同じように広く信仰されるべき存在です……い、いえ、しかし、ミヤマカイト様自身がそれを望んでいないと考えると、致し方ないとも……し、しかし、このままでは私はミヤマカイト様への祈りが完璧であると胸を張ることが出来ません。どうすれば……いや……いっそ……自分で作ればいいのでは?)


 信仰心が極まっているオリビアにとって、快人への祈りを妥協しているとも考えられる環境で行い続けるのはとても容認できるようなものではなく、なんとか手はないかと考えた末に辿り着いたのが、自分自身で祈りの道具を作るという方法だった。


(複雑なものではなく、ミヤマカイト様を模した神像を作ればいいはずです。ええ、ミヤマカイト様のお姿は細部にまで鮮明に思い出すことが出来ますし、道具を取り寄せればすぐにでも取り掛かれます!)


 天啓の如く思いついだ快人の像を自作するというのは、オリビアにとって非常に素晴らしい考えだと自画自賛したくなるものであり、彼女はさっそく彫刻の道具や資料などを取り寄せた。












 オリビアがその力を持って作り出した亜空間の中で、オリビアは完成した快人の像を見て絶望した表情を浮かべていた。

 オリビアはそもそも生真面目な性格であり、その上で友好都市内であれば最高神に匹敵する力を有するため、彫刻に関しても資料などからすぐに技術は身に付け、何度かの練習の後に快人の像の作成に取り掛かった。

 そして完成した快人の像は、非常に丁寧な作りでありそれこそ熟練の彫刻士が作ったかのような出来栄えといってよかった。

 だが……それはとても、オリビアにとって許せるような完成度では無かった。


「……な、なんですかこれは……あ、あまりにも未熟……この像では、ミヤマカイト様の偉大さも! 凛々しい顔立ちも! 優しく暖かな眼差しも! 包み込まれるような雰囲気も! なにひとつ、表現的できてないではないですか……」


 誤解なきように言ってしまえば、快人の像は中々のクオリティと言っていい出来だった。だが、オリビアはシャローヴァナルや快人に対する信仰心は極まっているというレベルで高い。

 そんな彼女にとって、中々のクオリティなどというレベル……妥協ともいえるような完成度を受け入れることなどできない。


 そしてその瞬間、オリビアの瞳に強い光が宿った。


「……ミヤマカイト様のお姿を模す神像を作る以上、このような技量で完成などと口が裂けても言えません。もっと、技術を……鍛錬を積まなければ……」


 かくしてオリビアの挑戦が始まった。幸いにして友好都市内であればオリビアの力は絶大であり、一度作った快人の像を再び大理石の塊に戻すのは容易い。

 そして空間内の時間の流れの調整も行い。ひたすらに彫刻を繰り返した。


 何度も何度も、作っては戻し、作っては戻しを繰り返し、果てなき信仰心を胸にただひた向きに、愚直に彫刻を続けた。

 根本的に生真面目な性格であり、普段膨大な時間を祈りに費やすオリビアは極めて高い集中力も併せ持つため、文字通り一切休むことなく膨大な時間を彫刻に費やした。頭の中に鮮明に思い浮かぶ理想の快人の姿を現実にするために、ただひたすらに……。


 いつしかオリビアの動きからあらゆる無駄が省かれ……彼女の腕前は、極みという領域に足を踏み入れた。


 もはや、複数の道具などを使い分ける必要もない。ただノミと鎚がひとつずつあれば、それだけで細部まで超精巧な彫刻を作り出せるほどにまで、彼女の腕は上達した。

 いつしか、それこそ彫刻に限って言えばアリスやアインといった世界のトップレベルとも互角以上に渡り合えるほどのレベルに到達し……そして、ついに思い描いていた快人の像が完成した。


(ようやく……完成しました……もちろん、実物のミヤマカイト様に比べれば数段劣りはしますが、彫刻という領域においてこれ以上は無いという段階、私自身が納得できる完成度には到達しました)


 完成した『5m級』の快人像を見ながら、オリビアは涙を流す。極まった信仰心を持つ彼女が、ついに納得できるだけの完成度の品を作り上げることが出来た。

 そのままオリビアは静かに祈りの姿勢になり、快人の像に向けて祈りを捧げ始めた。


(不思議な気持ちです。ただ祈っているだけで心が温かいような、ミヤマカイト様に見ていただいているかのような幸福感すら……いままで以上に深く、祈りに没頭できそうです)


 心から満足げな表情を浮かべたオリビアは、そのまましばしの間祈りを続けていた。




シリアス先輩「……信仰心……やはり、信仰心は全てを解決……ドロッとした感じが一切無いだけで、オリビアは結構狂信者だと思う」

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― 新着の感想 ―
「ミヤママイト様への祈りを捧げるのは間違っているのではないでしょうか?」 オリビアさんや信仰する人の名前間違ってまっせ
どっか愛好会メンバーも絵画で同じ様なこと言ってたな…
気のせいかな? なんか似たような話が神話でなかったっけ?w 気のせいかw
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