宮間快人生誕記念パーティ㊾
隠し芸大会のトップバッターはまさかのオリビアさんであり、これには会場内にも動揺や困惑が見て取れる。それもそのはずだろう、明らかにそういった行事に参加するようなイメージではないし、そもそも隠し芸のようなものを持っているかも不明である。
ただ、最近のオリビアさんは最初に会ったころに比べていろいろな物に興味を持って、実際に経験してみている様子なのでなにかしらの特技を身に着けている可能性はある。
あとトップバッターでの登場なので、自分でエントリーしたというよりは、アリスの要請で参加した立場だろう。
『……意外も以外だね。というか、オリびんってここでの能力的には大丈夫なの?』
『ああ、この世界は基本的に友好都市と同じようにオリビアさんは能力を発揮できるように調整されているみたいですよ。あと、先ほど説明が漏れてましたが、ひとり当たりのパフォーマンスは5分までとさせてもらいます。早く終わる分には全く問題ありませんが、5分を過ぎた場合は強制終了という形になりますので、時間配分には注意してください』
『なるほど……というか、オリびんなにするんだろ?』
フェイトさんの疑問は俺もまったく同じ気持ちである。オリビアさんが隠し芸としていったいなにを披露するのか気になる。
そう思っていると、ステージ上のオリビアさんの後方になにやら巨大な正方形……大理石のようなものが出現した。その大理石のブロックの前で、オリビアさんは軽く一礼してステージ上の拡声魔法具に向かって口を開く。
『神教の教主及び友好都市ヒカリの都市代表を務めております、オリビアです。今回は恐れ多くも、偉大なるシャローヴァナル様、ミヤマカイト様の両名がいらっしゃる席において、余興を披露させていただくこととなりました。未熟なこの身ながら、胸に宿す信仰心を……シャローヴァナル様とミヤマカイト様に捧げます』
そう言って一度祈るような姿勢になったあと、オリビアさんは彫刻などで使うノミと鎚を取り出した。パッと見た感じオリハルコン製っぽい色合いのノミと鎚を静かに構え、巨大な石のブロックに向き直ったかと思うと直後に凄まじい勢いで石を削り始めた。
それこそ早送りの動画を見ているかのように、正方形の大理石が削られて形を変えていく。現れたのは、神教などで用いられる祈りの鐘……そして、寄り添うように並ぶ俺とシロさんの彫刻が施されたレリーフのようなものだった。
しかもとてつもないクオリティであり、シロさんや俺の服などの細部にまで拘っており、祈りの鐘の前で俺とシロさんが手を取り合って立っているような彫刻であり、白い大理石で作られているからか、どこか神聖さも感じる雰囲気だった。
『おぉ……オリびんすごっ!? あんな特技あったんだ』
『ええ、当たり前と言えば当たり前なんですが……カイトさんに対して祈りを捧げたいのに、祈りを捧げるための像とかレリーフが存在しなかったらしいです。それで自分で作ろうって考えて、生真面目MAXな性格なのであのレベルの腕前になるまで時間を操作した特殊な亜空間でひたすら練習していたみたいです』
まさかの祈りを捧げるようの道具を自作するために練習を積んだという事実、これが信仰心ガチ勢の本気……そういえば、前にデートした時にインテリアの祈りの鐘に感心していたので、あの辺りで祈りの道具を自作するって考えに至ったのかもしれない。そして生真面目な性格なので、滅茶苦茶練習したと……。
あっと言う間に彫刻を完成させたオリビアさんは、もう一度軽く祈りを捧げてからこちらを向き一礼した。
『はい。というわけで、トップバッターのオリビアさんの隠し芸は彫刻でした! それでは、審査員の皆さんは点数をお願いします!』
そしてここから得点の審査になるわけだが、ともかく意外で驚かされたので、俺は文句なしで5点の札を上げ、クロノアさん、クロ、リリアさん、カナーリスさんも同じく5点の札を上げていたため、トップバッターからいきなり満点という結果になった。
『おっと、これはいきなり満点が出ましたね。確かに、意外性やギャップという意味でも本当にインパクトがありました。ここはせっかくなので彫刻のモチーフにもなってるシャローヴァナル様にもコメントをいただきましょうか……シャローヴァナル様、なんかコメントありますか?』
アリスがシロさんに話を振ると、ステージ上のオリビアさんは明らかに緊張した様子に変わる。少なくとも得点はまったく気にしている様子は無かったので、オリビアさん的には審査員の得点はどうでもよく、シロさんや俺の評価が気になるようだった。
「……素晴らしい彫刻なので、この城のどこか目立つところに飾りましょう。特に私と快人さんが手を繋いでいる構図なのが素晴らしいです。オリビア、とてもいい仕事です」
『ッ!? 光栄の極みです。シャローヴァナル様よりそのお言葉を賜れて、私のすべてが報われた思いです。ただただ、心よりの感謝を……』
シロさんは大絶賛であり、とても満足そうに頷いていた。そしてそれは信仰心極まっているオリビアさんには、なによりの褒美であり、オリビアさんは涙を流しながら壇上でシロさんに祈りを捧げていた。
う、うん、まぁ、とりあえずオリビアさんがめちゃくちゃ嬉しそうなのでよかった。
ただ、ちょっと気になることがあるんだが……オリビアさんが俺に対して祈るための道具が無くて、それを自作したとしたら……いま、もしかして、中央大聖堂のどこかに俺の像のようなものが存在してるんじゃ……い、いや、考えないことにしよう。
シリアス先輩「さすがの信仰心ガチ勢……祈るための像を自作するために彫刻技術を身に着ける。しかも、アレだろ……快人やシロの彫刻を作る以上、生半可なクオリティじゃ納得しないはずだから、マジで時間を操作した空間で物凄い年月の鍛錬を積んだんじゃ……」




