宮間快人生誕記念パーティ㊺
記念品という名のお土産の件で軽く胃の痛みを感じたが、勇者祭で個数限定で発行される記念硬貨には、初代勇者の顔が彫られているらしいので……ノインさんよりはマシだと、そう言い聞かせることにした。
というか俺は知らなかったのだが、人界では記念硬貨はそれなりに作られるとのことだ。
「アインさん、人界ってそんなに頻繁に記念硬貨を作るんですか?」
「記念事の定番ではありますね。先程シャルティアが言っていた通り、ほとんどは銅貨ですね。基本的には無料で配られるのではなく、購入する形です。等価か少し上の価格で販売されることが多いので、コレクション的な意味合いが強いかと思います」
「偽物が出回るとかは?」
「絶対に無いとは言いませんが、基本的にデザイン重視のものが多く、模様なども複雑ですから……手間暇かけて記念硬貨の偽物を作るぐらいなら銅貨の偽物を作ったほうが手っ取り早いとは思いますね」
言われてみればそのとおりである。記念硬貨の偽物を作る技術があるなら、その技術で銅貨を作った方がいいだろう。
今回の誕生日の記念硬貨に関しては、金貨であり記念品として無料配布なので、言ってみれば人界の三国から参加者全員に100万円ずつプレゼントという感じだろうか? そう考えるとかなりの奮発と思えるが、このパーティに参加している人の多くは世界でも高い地位にいる……伯爵級とか六王とか上級神や最高神といった方が多いので、政治的な意味合いでは多少無理してでも印象に残るものを用意した方がいいのかもしれない。
いや、俺に政治的な駆け引きは分からないので、完全に想像でしかないが……。
そんな風に考えつつ、ガラポン抽選機を回すと……。
『クロムエイナ』
ここでクロである。すると、アインさんが呼びに行くより早く、本当に唐突にクロが目の前に現れた。
「あっ、ボクの番だね」
「早っ!?」
「たまたまこっち見てたからね。まぁ、なにはともあれ、カイトくん、改めて誕生日おめでとう!」
「ああ、ありがとう」
明るい笑顔で祝福してくれるクロに俺も笑顔でお礼を言う。
「さて、今回のプレゼントだけど……なんだと思う?」
「う~ん……なんか、最新の魔法具とか?」
「それも考えたんだけどね。でも、カイトくんはいっぱい色んなプレゼント貰うだろうって思ったし、高級品だとか特別な品も多くなるだろうって思ったから、普段使いできるものがいいかなぁって」
「たしかに、それが一番正解というか……俺としても気楽に受け取りやすいな」
クロは世界一の金持ちではあるが、だからといって超高級品を貰ったとしても確実に持て余す。六王祭の時に貰った魔導船だって、船上パーティを開催するまでは完全に持て余してマジックボックスに入れっぱなしだったし、そういう意味合いでは普段使いできるものというのはありがたい。
ただ、う~ん……なんか珍しくもったいぶってるというか、曖昧な言い回しをしてる。おそらくだが、クロ的にはかなり自信があり、かつ拘って用意した品ということじゃないかと思うんだが……。
「ふふふ、プレゼントにしようって品は決めてたし、せっかくだからボクが手作りしたんだけど……これが結構難しくてね。どうしても、作った後でやっぱこうしたほうがとか、こっちの方がよかったかもって考えが湧いてきて、何度も何度も作り直したよ」
「そ、そうなんだ。かなり、拘ったんだな……」
……これ、たぶんベビーカステラ関連のやつだ。どこか誇らしげな感じだし、言葉の端々から作った品への拘りが伝わってくる。
「シャルティアにも協力してもらったんだけど……シャルティアの『もう、いい加減にしてくれません?』って言葉を4回聞いた上で、ようやく満足のいく完成度になったからね!」
アリス、可哀そう……まず間違いなくベビーカステラ関連のなにかであり、ベビーカステラが関わる時のクロの拘りは尋常ではない。本当にうんざりするぐらい作り直したんだと思う……アリスはなんだかんだで優しいから、一度協力した以上投げ出さずに最後まで付き合ったんだろう。
「というわけで、カイトくんの誕生日プレゼントに用意したのは、このベビーカステラ型クッションだよ!!」
「……あっ、結構いい感じのサイズ感というか、見た目がいいな」
クロが取り出したのは直径1mぐらいのサイズのベビーカステラ型クッションであり、見た目的には普通に可愛らしいし、サイズや形状的にも使いやすそうな感じがする。
「でしょ! 手触りとかも凄く拘ってさ、本物のベビーカステラみたいな感じにしたんだ! 特にこの表面の手触りを完全再現するのが難しくて……」
「……あ、あ~その、クロ? 拘って作ったのは伝わったし、凄いと思うけど……時間もあるし、その拘りの話はまた今度聞くってことで……」
「……そうだね。細かく話すと一晩はかかっちゃうし、また今度にするね」
今度夜通しベビーカステラ型クッションの拘りに関して語るとかいう、ほぼ罰ゲームみたいな予定が確定した感じがするんだけど……眩しいほどのクロの笑顔を前にしては、拒否もできないので考えないことにしよう。
とりあえず、ベビーカステラ型クッションの手触りや柔らかさは凄くいい感じなので、部屋に置いて使うことにしよう。
シリアス先輩「メインヒロインはそっちに振り切ってくれたか……まぁ、ゲーム大会で不意打ち気味にいちゃついたからな」
???「あれ? もう起きたんすか?」
シリアス先輩「寝てても意味ないからね!!」
 




