閑話・その頃快人の家の裏庭では……
異世界にて行われている快人の誕生日パーティが賑わっている頃、快人の家の裏庭ではネピュラが訪ねてきた∇∮◆£と一緒にお茶を楽しんでいた。
その途中で唐突に虚空を殴るような動きをした∇∮◆£に対し、ネピュラは苦笑を浮かべる。
「仲のいいことですね」
「失礼しました……イレクトローネは完全に殴られることも織り込み済みでやってる気がしましたが……しかし、ネピュラさんの紅茶は流石に素晴らしい味わいですね」
「無論です。妾は絶対者ですからね」
カナーリスより事前に話を聞いていたこともあって、すでに練習は済ませていたのか∇∮◆£は敬語を使うネピュラに対しても普通の様子で、ネピュラさんと呼ぶのにもドモったりはしていなかった。
ネピュラが作り、淹れてくれた紅茶を飲むという幸せなひと時を堪能するかのように微笑みつつも、∇∮◆£は若干複雑な表情を浮かべる。
「……でもまぁ、イレクトローネの運がよすぎて羨ましいというのはありますけどね」
「気持ちは分かりますが、今回の件はイレクトローネというよりは主様の運の方の影響でしょうね。イレクトローネは異世界の住人に対して非常に好意的ですし、誕生日パーティという場に呼ぶなら彼女が一番適しているでしょうね」
「イレクトローネは人好きですからね。普段は感情にリミッターかけておかないと、いろいろ世話を焼き過ぎちゃって昔の二の舞になるからって本人が言ってるぐらいですしね」
「ええ……まぁ、∇∮◆£さんも焦ることはないですよ。いまもこうしてトリニィアに来ているわけですし、すぐに主様と会う機会もやってきますよ」
「そうだと嬉しいですね」
ネピュラの言葉に∇∮◆£も穏やかに微笑みながら言葉を返す。嫉妬に狂ってスイッチが入った際にはバーサーカーのようになる∇∮◆£だが、普段は極めて温厚でのんびりした性格をしており、雰囲気もどこかおっとりした女性という感じだった。
そんな∇∮◆£を見て、ネピュラはふと気が付いたように口を開く。
「そういえば、貴女の世界は主様の世界やここと比べて次元階層がかなり高位だったはずですが、その辺りの調整は大丈夫ですか?」
「はい。さすがに少し悩みましたね。いまのように姿なんかは調整することでなんとかなりましたが、問題は私の名前でして……高次元に位置する私の名前は、この世界の次元階層に生きる人たちには言語として認識できないでしょうからね」
「そうですね。ある程度の補完機能というのは誰しも持ち合わせていますから、恐らく極めて高音、あるいは低温の不思議な音として認識されるでしょうね」
∇∮◆£はこの世界を比べてかなり高位次元の存在であり、2次元の住人が3次元世界を認識できないのと同じように、高位次元者である∇∮◆£の姿や声をこの世界の住人は認識することが出来ない。
もちろんシャローヴァナルやクロムエイナといった、高位次元を認識ないし干渉できる存在であれば見聞きすることが出来るのだが、通常は困難だ。
脳の補完機能によって異常な風貌の怪物、不快感を感じる奇妙な音などといった感じには認識できるだろうが、それでは対話は成り立たないので、∇∮◆£はこの世界に来るために肉体や言語機能を調整している。だが、名前だけはどうにもならないので、それに関しては別の対策を考えていた。
「ええ、なので、快人様に名乗るためにこちらの世界に合わせた名前を考えました。私はこの世界では『ティアナ』と名乗ることにしています」
「なるほど、では妾もこちらで会っている時はティアナさんとお呼びしましょう」
「はい」
ネピュラの言葉にティアナは嬉しそうな表情で頷く。快人の誕生日パーティに参加しているイレクトローネやカナーリスを羨ましいという気持ちもあるが、こうしてネピュラとふたりきりの時間を過ごせているというのはティアナにとって極めて幸せなことであり、羨ましいとは思いつつも嫉妬に狂うようなことは無かった。
「ああ、そうです。ティアナさんが、主様の誕生日を祝いたいというのであれば、間接的ですが協力できるかもしれません」
「と、いいますと?」
「妾が主様に用意しようと思っている祝い……ティアナさんさえよければ、その作成を手伝いませんか?」
直接快人にプレゼントを渡したりはできないものの、ネピュラが作成するプレゼントに参加することはできるという提案……もちろんティアナにとっては願ってもないことであり、二つ返事で了承をした。
【双極神ティアナ】
数多ある世界の中でも極めて高位次元の存在であり、ごく一部の例外(物語の終わり等)を除き、下位次元の法則や能力は全てティアナには通用せず、あらゆる法則をティアナは無視及び無効化できる。
本来であれば下位次元であるトリニィアの住人はティアナの姿を認識できず、言語も理解できないのだが、その辺りは訪問にあたって調整している……早い話がゴ○ラシンギュラポイントみたいな存在。
基本的には下位次元の存在がティアナとまともに渡り合うことは出来ないのだが……マキナは特殊な例であり『あらゆる次元階層に存在せず、アリスの持つ鍵以外では本人すら到達できない空間に有る本体を倒さない限り不滅』という、極大矛盾による世界創造主たちの中でも屈指と言っていい不滅性を持つので、戦いが成立する可能性があるため若干の勝率はあるが、素の戦闘力も桁違いに高いためやはり不利。