宮間快人生誕記念パーティ㉟
唐突に表れたイレクトローネに対して、リリア、ルナマリア、ジークリンデの三人は硬直する。それもそうだろう、いきなり目の前に別世界の神が出現すれば反応も遅れるというもの……。
『精神的負荷を加味するなら控えるべきではあるが、当機は世界創造主たちとの取り決めにより比較的早い段階でこちらの世界を訪問することが確定している。早いか遅いかの違いで、いずれにせよ挨拶をすることにはなるだろう。よって当機はこのタイミングでの挨拶を望むが、構わないだろうか?』
「は、はひぃ……」
静かな声で告げるイレクトローネの言葉に、リリアが青ざめた表情で頷き、ルナマリアとジークリンデは後方に下がろうとした。
主であるリリアが高位の相手と会話をしている場面において、立場の低いルナマリアやジークリンデは下がっているのが普通ではあるのだが、それに対してイレクトローネが待ったをかけた。
『ああ、待ってほしい。当機は、リリア・アルベルトのみではなく、ルナマリア、ジークリンデに対しても、この場での挨拶を望む』
「わ、私たちも一緒にですか?」
『肯定する。当機はこの世界の身分制度の外側に居る存在であり、貴女方が会話に加わることに対して不敬とは判断しない。その上で、リリア・アルベルトの精神的負荷を考慮した場合、当機と一対一で会話するより親友である貴女たちも共にある方がいいのではないかと判断する。よって、三人とまとめての挨拶を望む』
そのイレクトローネの言葉に、リリアは明らかにホッとした表情を浮かべた。イレクトローネと一対一で会話するよりは、ルナマリアやジークリンデが一緒の方がはるかに気が楽である。
この場における最も立場が高い相手であるイレクトローネがそれを望むのであれば、ルナマリアとジークリンデが拒否をする理由はない。実際に彼女たちもリリアのことは心配であり、自分たちが加わることで少しでもリリアの気が楽になるのならと、イレクトローネの望み通りにすることを決めた。
『それでは改めて、挨拶を出力……《気を取り直して、初めまして! 私は電脳天使イレクトローネだよ! 気軽に名前で呼んでくれて大丈夫だよ》……以上』
「……リリア・アルベルトと申します。今日という日までイレクトローネ様の名も知らなかった無知な者ではありますが、こうして挨拶を行う栄誉をいただけて光栄です」
「リリア公爵の専属メイドを務めております、ルナマリアと申します」
「護衛を務めています、ジークリンデと申します」
深々と頭を下げて挨拶をしたリリアに続いて、ルナマリアとジークリンデも簡潔に挨拶をして頭を下げる。
『自己紹介に感謝する。当機に対しては立場などを気にせずに気軽に接して構わないのだが、貴女たちから見れば当機は超常の力を持つ存在であり、不安が絶えないというのも必然。よって当機は、超常の者としての能力を用いて貴女たちの不安を軽減しようかと思う』
「え? えっと、それはいったい……」
『先に述べた通り、当機は貴女たちから見れば遥かに高位な力を有している。その中には未来を観測する力も含まれている。よって安心してほしい。当機はすでにあらゆる可能性の未来を観測した。この場での当機と貴女たちの会話において、当機が会話を不快に感じる……気分を害するような展開にはなりえないことが確認されている。よって貴女たちは肩の力を抜いて気軽に会話をしてくれて問題ない。その先の未来に失言や不敬といったものは存在しない』
イレクトローネの言葉は確かにリリアたちの緊張を軽くするものだった。未来を観測することも可能な圧倒的高位者が、あらゆるパターンの未来を見てこの挨拶においてリリアたちが失言や不敬を行う未来はないと断言するのだから、ガチガチと言ってよかった緊張も少しは和らぐというものだ。
『補足を出力……《それに私は、快人様最推しのリアコガチ勢だけど、箱推し的な部分もあるからね!》……故に貴女たちとの会話は喜ばしいものである』
「あ、えっと……箱推しとは?」
『ああ、失礼。貴女たちの世界では一般的な言葉では無かったか……簡潔に表現するのであれば、当機は快人様はもちろん、彼を取り巻く環境、その交友関係も含めてファンであると表現するのが適切だ。よって当機は、リリア・アルベルト、ルナマリア、ジークリンデの三人のファンでもあり、こうして会話ができることをとても喜ばしく感じている』
「えっと、リリだけじゃなくて私やルナに対しても……ですか?」
『肯定する。そもそもの話ではあるが、当機は知的生命体……貴女たちの世界の言葉ではヒトと呼ぶのが適切ではあるが、当機は他世界も含め懸命に前を向いて生きるヒトを好意的に思う。感情を出力……《簡単に言うと、私は一生懸命生きてる人は、世界問わず皆大好きだよってことだね!》……よって、貴女がたのことも好意的に思っているため、貴女たちとの会話を喜びそこすれ、不快に感じたりすることは無いので安心してほしい』
そういって微笑みを浮かべるイレクトローネの雰囲気は柔らかく、本心からリリアたちに対して好意的であるという気持ちが伝わってきて、少しではあるがリリアたちの表情が和らいでいた。
シリアス先輩「キャラの濃さからは考えられないほどに真っ当な神というか、誰の世界とか関係なく懸命に生きる人が全員好きってぐらい人に対して好意的ってことを考えると、パーティの場に呼ぶ対象としては大正解の存在か……」
???「ほら、マキナ、よく見てください。アレが真に参考にすべき精神ですよ。カイトさんだけじゃなく、カイトさんに関わる人たちも含めて好ましく思う。全力で見習ってください」
マキナ「……い、いや、私も最近は頑張って肉塊の名前とか結構憶えてるし……」