宮間快人生誕記念パーティ㉞
パーティ会場が賑わう中、リリアはホッと一息ついていた。快人の影響もあって有名になり、高位の知り合いもかなり多いため、こういった場に来ると挨拶する必要がある相手が多く、またどれも極めて立場の高い相手なのでなかなかに気が抜けない。
得ている恩恵も非常に大きいのだが、それ以上に胃の痛みが酷いので毎度のことながら快人にはもう少し加減をして欲しいと思いつつ、親友であるルナマリアとジークリンデと会話を行う。
「絶対に挨拶すべき相手にはひととおり挨拶が終わりましたし、少しですが気が楽になりました」
「さすがは人界を代表するお嬢様。不詳ルナマリア、お嬢様の躍進に感嘆と苦笑が止まりません」
「苦笑って……いや、本当になんでこうなったのか……」
「リリの苦労には同情しますが……人族の中でリリ以上に、カイトさんの関係者と知り合いというと思いつかないので、他に候補がいない現状だとなんだかんだでリリになりそうですね」
相変わらずブラックホールの如く苦労を引き寄せているリリアに、ルナマリアとジークリンデは苦笑しながら会話を行う。
苦労をしている分恩恵も大きく、事実としてアルベルト公爵家はもはや人界一と評して相違ない貴族になりつつある。
「ですが、スコット伯爵とエリス令嬢と知り合えたのは正直ありがたいですね。今後の事を考えると、縁を繋いでおきたかった相手ですし……」
「そうですね。最近は有翼族との取引契約を結んで、アルクレシア帝国方面へ手が伸び始めましたから……他国との貿易に強いスコット伯爵家、アルクレシア帝国内の四大貴族の一角であるハミルトン侯爵家と縁ができるのは、今後の展開を考えると非常に有益……本当にミヤマ様は、ピンポイントで的確な人材と知り合いますね」
アルベルト公爵家は、以前に快人からアメルを紹介してもらって有翼族との取引を始めており、今後の展開を考えるとアルクレシア帝国方面にコネクションを広げたいと考えていたタイミングだった。
そのタイミングで、豪商とも称され他国との取引に非常に強いスコット伯爵家、アルクレシア帝国の四大貴族の一角であり、革新派の中でも極めて強い発言力を持つハミルトン侯爵家の嫡子と知り合えたのは渡りに船ともいえる状態であり、おかげで今後の展開が非常に楽になったといってよかった。
「どちらとも、王都で偶然に知り合ったんでしたっけ? カイトさんらしいと言えばらしいですが、よくよく考えてみれば驚きですよね」
「そうですね。ジークの言う通り広い王都の中で偶然貴族と遭遇する確率自体が低いというのに、スコット伯爵どころか他国の侯爵家の令嬢が訪れていたところにピンポイントで遭遇しているのですから、普通であればありえないと言いたいところですが……ミヤマ様だと、まぁ、そういうこともあるだろうなぁという感想になるのが極めて恐ろしいですね」
「私としては胃が痛い思いですが……ただなんとなく、エリス令嬢とはこれからもいい関係を築けそうな気がしました」
同じ痛みを知る者と表現するべきか、リリアは少し前にエリスと話したとき想像以上に気が合うという感想を抱いた。
なんと表現すればいいか、本当にシンパシーを感じるというか相手が苦労しているのが実体験のように……事実として実体験を伴って理解できるので、共感できる部分が多かったのだ。
そしてそれはエリスの方も同様だったようで、今後も手紙のやり取り等を行おうという話になるのも自然な流れと言えた。
「……ところでお嬢様、あちら……新しく表れた偉大なる神様がいらっしゃるわけですが……ご挨拶にはいかれないので?」
「止めてください。ただでさえ、いま胃がキリキリと警告みたいに痛みを訴えかけて来てるんです。ま、まぁ、でも大丈夫ですよ。イレクトローネ様と私には接点がまったくありませんし、カイトさんから紹介されるような事態になる可能性も低い上、私はすでにプレゼントは渡し終えてますしね。それこそパーティ中はカイトさんと話す機会も無いかもしれません。そ、それにいまは、実況席で演出のお手伝いをされているみたいですからね!」
「「……」」
「……なんでふたりしてそんな目で見るんですか……止めてください。本当に不安になるじゃないですか……」
自分に言い聞かせるような希望的観測を語るリリアを、ルナマリアとジークリンデは心底憐れむような目で見ていた。
彼女たちは付き合いの長い親友同士であり、だからこそある種確信に近い予感を抱いていた。リリアの希望的観測が実現することは無いだろうと……。
『期待を裏切るようで申し訳ないが、当機に少々時間を貰えないだろうか?』
「「「ッ!?!?」」」
そして、ある意味では予想通りその希望は即座に粉々に打ち砕かれる。イレクトローネも全知全能級であり、別の場所に複数同時に存在するなど容易いことであり、演出の手伝いというのはなんの行動制限にもなっていなかった。
なんとも言えない絶望と諦めが混じったかのような表情で、リリアは胃を押さえつつイレクトローネの言葉に頷いた。
シリアス先輩「たぶんこの話の冒頭で大半の読者が理解したであろう、信頼と実績のリリアが気を抜くフラグ……」