宮間快人生誕記念パーティ㉚
イレクトローネさんはなんとも個性的な方ではあったが、それはそれとしてこの後はどうすればいいのだろう? とりあえず目的の挨拶とお礼は終わったわけなのだが……。
『恐れ多くも要望を出力……《快人様、無礼は重々承知で是非お願いしたいことがあるのですが、もう少し時間をいただいても大丈夫でしょうか?》……無論、当機は快人様の都合を最優先に行動します』
「ええ、大丈夫ですけど……なんでしょうか?」
『寛大なお心に感謝を、改めて要望を出力……《是非是非記録……快人様の世界の言葉で言うと……そう! チェキをお願いします!!》……以上です』
「……一緒に写真撮影ってことですか? ええ、構いませんけど」
この場合のチェキはアイドルとか関連で言うところで、一緒にポラロイドカメラで写真を撮るという意味合いの言葉だろう。やっぱりなんか、スイッチ入ってる時はアイドルの追っかけの女子高生みたいな雰囲気がある。
スイッチが入ってる時は声も明るいし、表情もコロコロ変わるのだが、本当にそのあとに一瞬で無表情に戻るので落差が凄まじすぎる。
『感謝を出力……《ありがとうございます! ではでは、隣に行かせてていただきますね!》……快人様の隣へ移動、距離感などは問題ありませんか?』
「大丈夫です。えっと、あの浮いてるのがカメラですかね?」
俺の了承を得た後でイレクトローネさんが隣に移動してきたので、俺も椅子から立ち上がってイレクトローネさんと並ぶような形になる。
そして、先ほどライブの時にホログラムなどを投影していた猫耳のデバイスが現れ、俺たちの視線の先に浮かぶ。
『要望を出力……《快人様! 是非是非手でハートを作りましょう! 私と快人様の出会いの記念ということで!!》……地球では写真撮影において比較的ポピュラーなものであると認識しています』
「えっと、こうして俺とイレクトローネさんでハートの形を作るってことですよね? ……こんな感じですか?」
『完璧です。それでは間もなく撮影を行います。目線を正面にお願いします。続けて、感情を出力……《じゃ、じゃあ撮りますよ! 撮りますね!! はい、チーズ!》……撮影完了』
完全にイメージでしかないが、アイドルの握手会みたいな雰囲気になってるというか、妙なむず痒さがある。とりあえずイレクトローネさんは喜んでくれているっぽいので、よかったが……。
「あ、あはは、なんというかアイドルの握手会みたいな雰囲気ですね」
『快人様の発言を肯定……《私にとって快人様はまさにアイドルですし推しです! リアコガチ勢です! きゃっ、言っちゃった》……続けて感情を出力……《それこそ本当に握手とかしたいぐらいですよ》……大変に感激しております』
「え? ああ、握手もしますか?」
『衝撃を出力……《え? ここで唐突なファンサ!? 来てよかった!! 来てよかったよぉぉぉ!!》……快人様が構わないのであれば是非お願いします』
「……あ、はい」
このテンションの落差には慣れないなぁと、そんな感想を抱きつつ手を差し出して握手をした。いや、俺は別にアイドルとかってわけでもないので、握手会の握手がこういう感じでいいのかは分からないが……とりあえず普通に握手しておけば大丈夫だろう。
『感情を出力、感動を出力、喜びを出力……《はぁぁぁぁぁ……尊みが溢れすぎてて供給過多でしんどい。慈愛が眩しくてしゅきめろりー》……素晴らしい対応に心からの感謝を』
「よ、喜んでもらえたならよかったです」
とりあえず、この人のキャラの濃さは相当なものだと思う。いや、決して悪い人ではないんだ……カナーリスさんが言っていたように、なんだかんだで距離感には気を付けてくれてるし狂気みたいなのも感じない。
でも、それはそれとしてキャラの濃さはマキナさんとかにも対抗できそうなレベルではある。
『大変名残惜しいですが、長らく時間をかけすぎるわけにはいきません。当機はそろそろ帰還させていただきますね』
「あっ、パーティに参加するってわけじゃないんですね」
『……』
「うぉっ!?」
挨拶が終わったのでそろそろ帰るというイレクトローネさんの発言に反射的に言葉を返すと、イレクトローネさんの首が凄まじい勢いで90度近く曲がった。
方向的にカナーリスさんたちがいる実況席の方を向いているが……。
「……あ~えっと……快人様的には、イレクトローネが最後まで参加しても大丈夫ですか?」
「ええ、というか、てっきりそうだと思ってました」
わざわざ別の世界からやってきて、短い挨拶だけで帰るとは思っていなかったのだが、この感じだとイレクトローネさんやカナーリスさんはそのつもりだったっぽい。
そのまま、少しの間沈黙が流れた後で、カナーリスさんが静かに告げた。
「……許可で」
『感情を出力……《しゃぁっ!! やっったぁぁぁっぁぁ!!》……それでは改めて、パーティの終了までよろしくお願いします』
「あ、はい。こちらこそ……」
シリアス先輩「大丈夫? これ、どっかで物凄いシャドウボクシングしてる奴いない? あ、そうそう、推し活的な用語で……チェキってのはその場で現像可能なツーショット写真を撮ることで、元ネタは有名なカメラの名前から来てる。他だと……リアコはリアルに恋してる。フェンサはファンサービス。しゅきは好き。めろりーはメロい(メロメロになる)を合わせた言葉で、大好きでメロメロって感じだ。まぁ、この辺は雰囲気で理解しとけば大丈夫だと思う」