宮間快人生誕記念パーティ㉔
シャローヴァナルとエデンの睨み合いは快人が仲裁に来たことで落ち着いたのだが、その後の両者からの謝罪にリリア、エリス、香織の三人は意識を飛ばしかけた。
世界の頂点たるシャローヴァナルに異世界の神たるエデンに頭を下げられるなど、もはやどう対応していいか分からないレベルであり、当然謝罪を受け入れないという選択肢はないのだが……かといってシャローヴァナルやエデンに対して迂闊に「許す」というような上からともとられかねない発言を行うわけにもいかない。
「……シロさん、エデンさん、ふたりの真摯な対応は素晴らしいと思いますが、完全に委縮させてるので……大丈夫ですよ。今回は俺が早く気付けましたし、三人とも気にしてないと思いますよ……ね?」
そこで事態を察した快人が間に入ってくれ、代わりにシャローヴァナルとエデンとのやり取りを行うことで、三人は快人の言葉に首振り人形の如く勢いよく肯定する形で意思を伝えることができ、直接的なやり取りは避けられた。
そのまま快人がシャローヴァナルとエデンと、そもそもの原因がなんだったのかを聞いてるのを見て、ひとまず三人はホッと息を吐いた。
「……と、とんでもないことになりましたね。エリスさんとリリアさんは、大丈夫でしたか?」
「ええ、私たち……ああいえ、私は大丈夫ですが、さすがに意識を失うかと思いました」
「エリス令嬢に同意します。カイトさんが来てくれて本当に助かりました」
香織の言葉に対し、エリスは一瞬「私もリリア公爵も大丈夫です」と返しかけた。というのもリリアとエリスは貴族であり、香織は平民である。貴族的な考えとしては、この場における最上位者のリリアが積極的に立場が最も下位といえる香織と直接やりとりするのは好ましくなく、貴族的に下位である己が間に入ることで、最上位者のリリアが直接やりとりをする回数を減らすというものがある。
癖で香織とリリアの中継役になろうとしかけたが、あくまでそれは社交界などで複数の爵位の者が集まった場合の話であり、また貴族主義の強いアルクレシア帝国と他国では考え方も違う部分があるためこの場では、リリアとそれぞれ個人で返答するほうが相応しいだろうと考えた。
また貴族的な上位下位など、つい先ほど目の前に現れた神々やそれと直接やりとりする快人と比較すれば、あって無いようなものだとも感じたことも要因のひとつだった。
(自分では思考が柔軟であるつもりでしたが、咄嗟に己の常識のみを判断基準として行動してしまうのは浅慮と言えますし、反省して改めるべきですね)
己の行動を反省しつつ、エリスは香織に対して問いかける。
「カオリさんの方は、大丈夫でしたか?」
「あ、あはは、お腹は痛いですけど、なんとか……いや、本当にいいタイミングで快人くんが来てくれてよかったです」
「むしろおふたりには謝罪しなければならないかもしれませんね。シャローヴァナル様は、私に対してなにかしら用事があっていらっしゃったみたいですし、私が原因と言えるかもしれません」
「いえ、さすがに想定できるような事態ではありませんし、リリア公爵に責任などはありませんよ。私もあまりの事態に、まともな行動がとれたとは言い難いですし……」
なんというか、いまこの場において三人には奇妙な連帯感というか、共感のような感情が生まれていた。三人同時に胃の痛い思いをしたからか、互いの距離が縮まったかのような感覚を覚えていた。
胃痛で深まる関係というのも皮肉なものではあるが、共に困難に遭遇したと考えれば精神的な距離が近くなるのは必然であり、三人は互いの顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
(それにしても、己の未熟さを痛感しました。本当になにも最善の行動がとれなかったばかりか、危うく意識を飛ばしてしまいそうになりました。シャローヴァナル様の魔力ともあれば、私にとって強い圧となるのは必然ですが、体感してみないとどんな感覚なのかは分からないものですね。カイト様が現れてくれた時の安心感があまりにも大きすぎて、いまも少し気持ちが落ち着きませんね)
香織やリリアと言葉を交わしつつ、エリスは唐突に遭遇した事態の反省と……窮地に颯爽と現れた快人に関して思いを馳せていた。
(吊り橋効果に近いものでしょうが、元々カイト様の人柄が好印象だったことも相まって、少々気持ちが強く高ぶっている気がします。とはいえ、恋愛感情かと言われればまだその段階ではないようにも思えますし、少なくとも現時点ではお父様へ報告する必要はありませんね)
ある程度己の感情を正確に考察しつつ結論を出した後で、エリスはリリアと香織との会話に戻る。
「……しかし、少々困りましたね。カイト様の話が終わるまで、この場を離れるわけにもいきませんし……」
「で、ですね。というか、結局シャローヴァナル様の用事ってなんだったんでしょう?」
「分かりませんが……気のせいですかね。ずっとお腹が痛いです」
「安心してください、リリア公爵……私もです」
「……同じく」
同じ痛みを知る者同士……言葉で言い表すのは難しい確かな繋がり……絆を感じた瞬間だった。
シリアス先輩「同じ痛みを知る者同士(胃痛)……な、なんか嫌な絆だ。ところで、マジで天然神の用事は何だったんだ?」
???「なんでしょうね? でもたぶん、くだらないことかつ、カイトさんに関連したことだとは思います。あ~でも待ってくださいよ……あ~多分アレですね。今回のゲーム機が好評なので、追加で複数台プレゼントすればカイトさんが喜ぶと思ったけど、シャローヴァナル様はすでにプレゼントを渡しているので……誕生日プレゼントを複数回渡すのは問題ないかどうかを、人族代表のリリアさんに聞きにきたんでしょうね」
シリアス先輩「それつまり、今回の胃痛も元を辿れば快人のせいでは?」
???「つまり、いつも通りですね。ヨシ!」




