宮間快人生誕記念パーティ㉑
賑わう会場内をキョロキョロと落ち着きなく見渡しながら歩いているのは、過去の勇者役である水原香織……せっかくだからとゲーム大会のトーナメントに参加して、3回戦で敗退しており現在は知り合いを探して移動していた。
(う、う~ん。前の船上パーティと比べると一般の方っぽい人も多いから少し気は楽ではあるけど、それはそれとして知り合いを探すのが大変ってのはあるなぁ。私と快人くんの共通の知り合いってそこまで多くないし、茜さんとか見つけられるといいんだけど……)
今回のパーティには各界の重鎮と呼べるような存在だけではなく、リリア宅の使用人や戦王配下や冥王の家族といった者たちも多く集められており、船上パーティの際のような右を見ても左を見ても高名な存在というような状況ではない。
だが、人数が増えている分広い会場内で知り合いを探すのは大変であり、かといって見知らぬ人に声をかけるとその相手は香織が知らない高名な相手という可能性もあるので避けたい。
香織は完全な一般人であり、六王配下の幹部に関しても名前は知っていても実際に見たことは無いという相手も多く見た目ですぐに判断するのは難しいし、貴族ともなるとさっぱり分からない。
実際のところこの場にいる貴族は少ないのだが、香織がそれを知る術はない。
とりあえず茜か重信あたりを探そうと考えて視線を動かしていると、進行方向の少し先からただならぬ気配を感じた。
「……不快な顔を見せるな。今日はミヤマ様の祝いの席、騒ぎを起こすわけにはいかない。命拾いしたな」
「命拾い? 弱い犬程よく吠えると言いますが、野蛮な愚か者の鳴き声は耳障りですね。貴女程度が私の命をどうこうと語るのはおこがましい。そして、駄犬如きがミヤマ様の崇高な名を口にするのは、耳に不快なのでやめていただきたいですね」
「ほぅ、そうか、貴様に不快感を与えられたというなら僥倖ではあるが、不快極まる変態は貴様だろう? まともな自己評価もできんとは、よほど視野が狭いと見える。ああ、片目であるなどというのは関係ないぞ。そんなもの我々のレベルでハンデになどなりえない。狭いのは心の視野だ」
「脳まで筋肉に侵食されてい馬鹿が必死に皮肉めいた言い回しを使うのは滑稽ですらありますね」
香織の進行方向の先では、戦王配下筆頭であるアグニと幻王配下筆頭であるパンドラ……知る人ぞ知る犬猿の仲の両者が睨み合い皮肉を言い合っていた。
もちろん今回は場が場なので、魔力で威圧し合ったりといったことも無く両者ともに実力行使に出る気も無い。だがそれはそれとして本当に仲が悪く、互いを前にして退くということをしたくないため舌戦において喧嘩をしている最中だった。
(あばばばば、こ、ここ、こっちは駄目……別のところに……)
もちろん魔力はぶつけていないとはいえ公爵級高位魔族ふたりの睨み合いを見て、香織がそのまま進めるわけもなく慌てた様子で進路を変えて別の方向に向かう。
凄い場面に遭遇してしまったが、それでもちゃんと回避できたと思ったのも束の間、進行方向の先では別のふたりが睨み合っていた。
「まぁ、当然ではありますが、私は海の……海の! 神! ですので、当然海にちなんだプレゼントを用意しましたよ。エインガナさんはいかがですか? ああ、もしかして海蛇の鱗あたりでも用意したんですかね?」
「おやおや、マリンさんは随分と短絡……ああいえ、素直な思考で羨ましいですね。まるで、わざわざこうした場面で誇示しなければなにを司ってるか忘れてしまわれそうな必死さですね。私の方は、まぁ、別に海にちなんだものを贈らずとも、私が大海の覇者であるということは周知の事実、常識ですし誇示する必要はありませんね。ええ、知名度の低い誰かと違って……」
「……あ、ああ、そうですね。それは素晴らしく賢明な判断ですね。さすがは深慮深く知識に優れるエインガナさんだと感心しますよ。ええ、そうですよね……敵わない分野で競い合うのは無駄ですもんね。海の権能を有する私に海の分野で敵うわけがありませんし、実に懸命で合理的な判断です」
「……そうですね。さすがは創造神シャローヴァナル様のお力たる権能は凄まじいですね。ええ、本当に……偉大なる神に下賜された力以外誇るべき部分が無いのは、哀れにも感じますがね」
「……」
「……」
こちらもこちらでバチバチに睨み合って皮肉の応酬をしているのは、マリンとエインガナであり、こちらもまた以前の船上パーティの反省を生かして魔力をぶつけたり、戦闘に発展したりということは無いものの、とりあえず互いに互いが気に入らないので、顔を合わせたからには煽り合っていた。
そんな場面に遭遇した、香織はたまったものではないが……。
(ひ、ひぇぇぇ、こ、こっちでも……ま、まぁ、これだけの人がいれば仲の悪い人たちもいるよね。こ、こわぁ……とりあえずこっちも駄目だ。次は向こうに……)
いま会場に集まっている中でも屈指に仲の悪い組み合わせ二組と続けざまに遭遇するという、なんとも不運な状態になりながらも、とりあえず香織はその場を離れた。
するとそのタイミングで会場の少し開けた場所で、まったくの偶然ではあったが、別々の方向から歩いてきた相手と鉢合わせるような形になった。
「……おや?」
「あれ?」
「これは……」
タイミングよく鉢合わせて自然と……リリア、エリス、香織の三人は向かい合うような形で足を止めた。
シリアス先輩「胃痛戦士が三人……来るぞっ! ???!!」
???「え? なにが来るんすか?」
シリアス先輩「……えと……シリアス?」
???「こねぇっすよ。いや、当人たちにとっては胃痛案件もシリアスと言えばシリアスですかね」




