宮間快人生誕記念パーティ⑲
エリス・ディア・ハミルトンは極めて優秀であり、なにより対応力に優れる女性だった。今回サタニアに唐突に声をかけられ、大きく評価されるという事態に困惑してはいたが、それでも社交界での経験や淑女教育で得た立ち振る舞い、勤勉に学んで積み重ねてきた知識により問題なく会話を終わらせることが出来た。
(まさか、ロード商会から声がかかるとは……アルクレシア帝国と関係が深く革新派を後押ししてくれている商会ですし、今後を考えればここで繋がりと持てたというのはかなり大きい。とはいえ、影響が大きい分このコネクションの使いどころはお父様とも相談しつつ、よく練らなければなりませんね。想定外はありましたが……カイト様関連ではたびたび起こっていることです。カイト様相手に完璧な予想と対策など立てられるわけも無いので、予想外の事態が起こったことは仕方が無いと割り切りつつ最善の行動を……)
そしてなにより、彼女は快人によってたびたび胃の痛い思いをしているのだが、基本的に打たれ強いのか短時間で持ち直す……持ち直せてしまう。
そして悲しいかな、それが更なる胃痛を呼び寄せる呼び水ともなってしまっていた。
サタニアと別れたエリスは、今度こそ人界の者たちがいる場所へ向かおうと足を進めかけ……そのタイミングで聞こえてきた明るい声に足を止めた。
「あ~! エリスさんです!」
「おふっ、こ、これは、ティル様……以前シンフォニアにてお会いした時いらいですね。再びお会いできて光栄です」
「はい! ティルもまた会えて嬉しいですよ~!」
「ティル~? そちらの方は、どなたですか?」
現れたのはティルタニアであり、唐突な遭遇に驚愕したものの、すぐに持ち直して微笑みながら挨拶の言葉を告げる。
だがそこで、ティルタニアと一緒にいたラズリアを見てエリスは高速で思考を巡らせた。
(どなたでしょうか? 見たところ妖精族、魔力は極めて大きいですね。それこそ、ティル様に匹敵するほどの……しかし、妖精族でそれほどの方?)
ラズリアは初代妖精王ではあるのだが、そもそもラズリアが妖精王だったのは1万年以上前の話であり、ラズリアが所属しているのが幹部等といった括りのない冥王陣営ということもあって、彼女の存在を知っている者は少ない。
宝樹祭の時にレイジハルトがラズリアが誰か分からなかったように、エリスもまたラズリアの正体が思い浮かばなかった。
「ラズ様、こちらはカイトクンさんのお友達のエリスさんです!」
「あやっ!? カイトクンさんの友達だったんですね。初めまして~ラズは、ラズリアっていいます。ラズって呼んでください」
「ご丁寧にありがとうございます、ラズ様。エリス・ディア・ハミルトンと申します。私のことも是非、エリスと名で呼んでいただけたら光栄です」
しかし、宮廷魔導士の経験こそあれどどちらかと言えば一般人寄りのレイジハルトと比べ、純然たる貴族であるエリスは得ている情報の量も桁が違う。
ティルタニアの様子や、ラズリアの名前などから推測を進めていた。
(ティル様が、ラズ様と様付けで呼んでいるということは、立場的にティル様より上か……あるいは同格かと予想されますね。ラズリア様という名に関しても、どこかで……あ、ああ、そうです! 確か、妖精の大農園の管理者の名前がラズリア様だったような……おそらく、ラズ様は冥王様の陣営に属される方なのでしょう。冥王様の陣営は組織立った行動が少ないので、特定の方々以外は情報が少ないですが……間違いは無いと思います)
豊富な知識によってラズリアの所属を導き出したエリスは、穏やかな微笑みを浮かべつつ言葉を告げる。
「間違っていたら申し訳ありませんが、ラズ様はもしかして冥王様のところの大農園を管理している方ではありませんか?」
「はいです! ラズは、いっぱいお野菜さんを育ててるですよ!」
「やはりそうでしたか、妖精の大農園の野菜の噂は人界にまで広く届いております。お会いできて光栄です」
相手が誰かが分かってしまえば、どう会話を展開していけばいいのかも分かり、エリスは心の中でホッと息をついた。
ラズリアは間違いなく立場の高い存在ではあるが、社交的な性格もあり、依然一度話したことがあるティルタニアも一緒ということで会話は行いやすいと考えて、少しだけ心に余裕が出てきた。
そしてその余裕は……直後に木っ端みじんになる。
「ラズ~ああ、ティルちゃんと一緒だったんだね。向こうで練習用のゲーム機が空いたみたいだから呼びにきたんだけど……あれ? その子は……」
「あひぃ……め、めめ……冥王様……」
続けて登場したクロムエイナを見て、キュッと胃が絞られるような痛みを感じた。
~分かりやすいあらすじ~
エリス「(`・ω・´)キリッ→(´;ω;`)ブワッ」
シリアス先輩「パーティ本番では、とりあえずまだある程度平和なリリアの代わりに、ボコボコに胃を殴られてる……」