宮間快人生誕記念パーティ⑭
ステータスを調整しなおして再開したクロとのエキシビジョンマッチは、なかなかどうして自分でもいい戦いだったと思う。
元々このゲーム自体が幅広い層に向けたゲームなので、完全に初心者とかならともかく、ある程度慣れたものであれば格上にも勝てる可能性が十分ある仕様になっている。
俺がやった裏打ちもそうだが、このゲームのキャラクターの技は判定が強いものが大きく、裏打ちもキャラ後方にも小さめだが技の当たり判定が発生することを利用したテクニックだし、それ以外にもランダム要素の強いアイテムやステージギミックなどもある。
軽快にコンボを決めていたら、ランダム出現のアイテムに割って入られてコンボが途切れたりすることもあるし、一定時間無敵になったりするアイテムもある。もちろん上手い方が勝ちやすいのは確かではあるが、どれだけクロが上手くて俺には反応できないようなフレーム単位の動きにも反応できるとしても、仕様上どうにもならない部分もある。
少し前の裏打ちだって、クロには俺のキャラの動きはそれこそ止まって見えていたのだろうが、すでに無敵回避行動中でありキャンセルする手段がないため被弾したわけだし、戦いようはいくらでもある。
50倍の時とは違って、しっかりとダメージが通るようになったクロの攻めは激しく、元々上手いこともあって俺のキャラの残機も早い段階で削られてしまったが、クロにもある程度のダメージは与えられている。
受けたダメージによって技性能が変化するキャラを使用している以上、クロがある程度被弾するのは本人が狙っている部分もあるのだろうが……それでも完全にクロの思惑通りというわけではなく、俺のキャラのステータスが5倍になっていることを踏まえると、クロとしては最大効果を発揮するHP100以下ではなく、多少妥協しても不意の即死圏外のHPは確保しておきたかったのだろうが、何度か読み合いを制していいダメージを入れることが出来た。
そして最終的には俺のキャラのHPが残り300を切った辺りで、ほぼ勘と言える読みが上手く当たって、クロのキャラの技に割り込む形で俺の攻撃が当たって、俺の勝利という形で決着した。
『ここで、決着! 激しい戦いを制したのは、カイトさんです!』
『いい勝負だったね。ステータス5倍が絶妙なバランスだったというか、クロりん相手のハンデとしては丁度よかった感じで、一進一退のいい攻防になってたね。というか、カイちゃんも上手いよね。トーナメント出ても普通に決勝とか行けそう』
確かにフェイトさんの言う通り、クロと俺がガチで勝負した場合はほぼ確実にクロが勝つだろうし、ハンデとしては今回の調節が適切だったと思う。
というか、ステータス5倍の上に、クロが残機ひとつ減ってる状態だったので、普通に残機2同士であればクロが勝ってた気もする。
「あちゃ~最後は上手く読まれちゃったね。ありがとう、カイトくん! いい勝負だったよ」
「こちらこそ、ありがとう。でも、クロは残機ひとつ減ってる状態だったし、最初からステータス5倍だったらクロが勝ってた気もするね」
「そうかもしれないけど、ボクとしてはカイトくんと楽しく対戦できて満足だよ。機会があったらまた一緒にプレイしようね」
クロは結果に特に不満はない様子で楽し気な笑顔を浮かべていた。まぁ、特にどっちが勝ってもなにか賞品があったりするわけでもなく、エキシビジョンマッチなので楽しく対戦出来たというのがなによりの結果だろう。
そんな風に考えていると、プレイを終えてコントローラーを戻したクロが俺の座っている椅子の近くにやってきた。
「じゃあ、カイトくん、せっかくだしこれは……ボクから、勝利のプレゼントってことで」
「うん? プレゼント?」
「ちゅっ……えへへ、じゃ、誕生日パーティの続きも楽しんでね!」
どこか楽しげな様子で、俺の頬にキスをした後でクロは手を振って離れていった。不意打ち気味のキスはなんとも、気恥ずかしくも嬉しかった。
『おっと、クロさんってば大胆……おいこら、そこの神ども、なに《第二回トーナメントは自分たちも出るか》みたいな空気出してるんすか! いまのは別に、優勝者の権利とかそういうのじゃないですからね。貴女たちは大人しく座っててください』
「クロだけ不公平では?」
「そうだよ! クロムエイナだけ、ズルいよ!」
『別に不公平とかじゃないですし、カイトさんの恋人であるシャローヴァナル様はともかくとして、マキナに関しては本当にそういう権利があったとしてもダメです』
なんというか、こういう場においてアリスが取り仕切ってくれるのには安心感がある。シロさんとかマキナさんとかにもちゃんとダメなものはダメと言ってくれるので本当に助かる。
シリアス先輩「おい、不意ないちゃらぶ要素は止めろ、真面目に見てたら唐突にビンタされたような気持ちになるから……」




