宮間快人生誕記念パーティ⑫
合間にトーナメントの様子を見つつ、ガラポンも回していくつかのプレゼントを受け取ったころ、第一回トーナメントが決勝まで進んだ様子だったのでそちらを観戦することにした。
決勝まで進んだ四人は、俺が見ていた中でも突出して上手かったクロ、アメルさん、ウル……それと、あまり上手いプレイヤーが居るブロックに割り振られず、三人と比べれば明らかに実力が下なのに組み合わせの運で勝ち抜いてしまって、いま死んだ魚のような目で壇上に上がっているエリスさんである。
いや、エリスさんも下手なわけではない。人間ということもあって反応速度などのラグに悩まされることもなく早い段階で慣れ、操作に苦戦する相手を堅実に倒して勝ち進んできてはいる。
だが、明らかにやり込んでおり頭ひとつ抜けて強いクロ、プレイ経験も豊富でキャラやギミックにも詳しく上級プレイヤーといっていいアメルさん、リリアさん並みの器用さであっと言う間に上達したウルという三人に比べると、明確に実力が劣っており、エリスさん自身もそれを自覚しているのか「なんで勝ち進んでしまったのか……」と言いたげな表情である。
『さぁ、いよいよ決勝ですね。フェイトさんはこの戦いをどう見ますか?』
『ん~明らかにクロりんが強いよね。一対一で戦うなら間違いなくクロりんが勝つと思うけど、四人対戦だしアイテムとかもあるからその辺りの兼ね合い次第かなぁ』
フェイトさんの言う通り、決勝に進んだメンバーで優勝候補最有力はクロだ。アメルさんやウルが上手く連携してクロに集中砲火すれば分からないが……でも、決勝でクロが選んだキャラは中遠距離特化型のテクニカルキャラであり、扱いは難しいが距離を取って戦える分複数を相手取るには向いていると言える。
クロも明らかに自分が狙われるのは分かってるだろうし、その辺りの対策も考えているはずなので、やはりクロが有利だろう。
そして決勝が始まると、やはり予想通りというべきかクロが優勢に戦いを進めていた。もちろんアメルさんやウルもここまで勝ち抜いた実力者であり、クロも結構ダメージを受けていていい戦いになっていた。
エリスさんは残念ながらハイレベルな戦いに付いて行けず、割と序盤でやられてしまっていたが、本人はどこか肩の荷が下りたようなホッとした表情を浮かべていた。
白熱した勝負は、クロが上手く立ち回って不意を突いてウルを脱落させたことで一気に戦局は傾いた。フェイトさんが言った通り、一対一であればクロが明らかに強いのでクロとアメルさんの一騎打ちになったところでほぼ形勢は決まり、粘るアメルさんを押し切る形でクロが見事優勝した。
『決まりました! 第一回の優勝者はクロさんです!』
『いや~思った以上にいい勝負だったね。クロりんもあと数発貰ってたら危なかったし……』
そして、アリスからクロにトロフィーが渡され……次に待つのは、エキシビジョンマッチ……つまり俺との対戦である。
『さて、それでは優勝者であるクロさんは、カイトさんとのエキシビジョンマッチに挑んでいただきます。丁度いまはプレゼント渡しもひと段落してみるみたいなので、このまま始めましょう。クロさんもそれでいいですか?』
「うん、大丈夫だよ。カイトくん、よろしくね」
「お、お手柔らかに……」
正直決勝とかの戦いを見る限り、クロに勝てる気がしないのだが……ま、まぁ、勝敗は気にせず楽しむとしよう。
アインさんが俺にコントローラーを手渡してくれ、会場にはひと際大きなモニターが出現する。戦いは俺とクロの一騎打ちであり、戦いはHP制……互いに999のHPでスタートして、残機2を削り切ったほうが勝者である。
俺は扱いやすいバランス型のキャラを選び、クロは強いのだが扱いの難しいテクニカルキャラを選んでいた。
『それでは、エキシビジョンマッチ……スタートです!』
開始の宣言と共に、クロのキャラがこちらに向かって真っすぐに向かってくる。
今回クロが選んだキャラは、受けたダメージによって一部の技の性能が段階的に変化するキャラであり、ダメージを受ければ受けるほど強くなると言っていい。
特にHP制なら100以下になった時は、他のキャラの追随を許さないほどに凄まじい性能を誇るが、使いこなすには受けるダメージを調整したりする必要があるし、最大の性能を発揮するには瀕死の状態で戦わなければいけないので上級者向けのキャラだ。
近づいてくるクロのキャラに牽制で軽い通常攻撃を放つが、クロはその攻撃を回避せずに受けるようだった。クロのキャラはダメージを受けなければ始まらないと言っていいキャラなので、適度に攻撃を喰らいつつ調整するつもり……急な接近に思わず放ってしまった牽制は、むしろクロの思惑通り……打たされたと言っていい。
そして、狙い通りに威力の低い攻撃をあえて受けたクロのキャラは……『500以上のとんでもないダメージ』を受けて吹き飛んでいった。
「ちょっ!? えぇぇ……ま、待って! タイム! ちょっとタイム!! シャルティア! カイトくんのキャラはステータス強化するって言ってたけど、これ……どれだけ強化してるの!?」
明らかに予想外という様子のクロだが、それもそうだろう。なにせ攻撃した方の俺も唖然としてしまっていたから……いや、ステータスの強化があるとは聞いていたが、キャラのスピードなどはそのままだったのであまり実感が無かったが、いまの攻撃で500ダメージ入るなら、技が当たると即死しそうなんだけど……。
『おっと、その辺りの詳細を説明していませんでしたね。では試合を一時中断して説明を……カイトさんの使用キャラに関しては、モーション……キャラクターの動きなどは除外して基礎的なステータスを強化していますが、その強化率は対戦相手の上手さによって変わります。上手い人が相手の時ほど高めにステータスは強化されるわけですね。どのぐらい強化するのかは、基本的には対戦相手を見てカナーリスさんが行いますが……クロさんに関しては、本人のたっての希望もあり……シャローヴァナル様が調整を担当しています』
「なんで、よりにもよってシロに任せちゃったの!? シロにだけは任せちゃ駄目でしょ!? シロ! カイトくんのキャラをどれだけ強化したの!?」
「ステータスを『50倍』にしましたが?」
「ごじゅっ……」
どうりで滅茶苦茶なダメージが出たわけだ。確かにあの牽制攻撃は、当たってもいいところ10ダメージちょっとぐらいのはずだから、50倍になっているのなら500ダメージ入ったのにも納得である。
「ちょっと、それ、まともに攻撃受けたら即死でしょ!?」
「そうですね」
「……」
「……」
「……いや、だから……ボクのキャラが即死しちゃうでしょ?」
「それがなにか問題でもあるのですか?」
「ほらぁ!! だから、シロに任せちゃ駄目なんだよ!!」
ステータスを強化しすぎだと訴えるクロに対して、不思議そうに首をかしげているシロさん……なんというかまぁ、シロさんらしいと言えば、シロさんらしい。
???「ちなみにカイトさんのキャラは、シャローヴァナル様によって攻撃力と防御力が50倍、一部の技の性能が強化されています」
シリアス先輩「……そもそも、あの天然神にバランス感覚を求めるのが間違い」




