番外編・足りなかったので追加の一話
「諦めんなよ!? 前回ロスタイムとか無理やりこじつけてきたんだから、そこはなんとかエイプリルフール関連で粘れよ!!」
「え? いきなりなにが……」
「よくある発作ですよ。はい、カイトさん、これ投げてください」
またも唐突に虚空に向かって叫んだシリアス先輩に驚くが、アリス……もとい???は気にした様子もなく、淡々とダーツの矢を俺に渡してきた。
シリアス先輩も叫んだあとは落ち着いたのか、腕を組んで真剣な表情でこちらを……ダーツの結果を待っているようだった。
???がダーツの的を回転させ、俺がダーツの矢を投げる。ちゃんと刺さるか不安だったが、なんとか上手く刺さってくれた。
「……おっと、これは……膝枕ですね」
「ぐっ、そ、そうきたか……なるほど、確かに一番初めのイチャラブイベントがなんだったかを振り返ってみれば、バーベキュー時の膝枕が該当する。私に対して発動させる初回イベントとしては相応しいと言える……むしろこれは、私がメインヒロインと言えるレベルでは?」
「おこがましい」
「はぶっ!?」
「シ、シリアス先輩ぃぃぃ!?」
なにか納得のキメ顔を披露していたシリアス先輩だったが、直後に???によって……なぜか地面に置いてあった剣山のような鉄の台座に向けて、スクリュードライバーで頭から叩きつけられていた。
……悪魔でももうちょっと慈悲があるんじゃないかと思うような残虐極まる一撃なんだけど……え? いや、待って、剣山の棘大きすぎて頭を貫通してないか!? こ、これ、死んだんじゃ……。
「……くそ痛い」
「……普通痛いじゃすまないんですけど……もう傷治ってるし……」
俺の心配をよそに、シリアス先輩は痛いと呟きながら自分で剣山を引っこ抜いた。抜いた直後は血とか流れてたのに、数秒で傷も塞がって顔に着いた血さえも消えていた。
そういえば最初に会ったときにも、???に粉々に切り刻まれてもちょっとしたら再生してたっけ……。
「ギャグ補正って理不尽ですよね。まぁ、ともかく私はこれにて失礼」
どこか呆れたような声で呟いたあとで???は姿を消し、部屋には俺とシリアス先輩が残された。
「……まぁ、決まってしまったものは仕方ないとして……う~ん。和室とかじゃないからソファーがいいか……よしっ、さぁ来い快人!」
「え? あ、ああ、膝枕でしたっけ……直後のが衝撃的すぎて忘れてました。えっと、それじゃあ……し、失礼しますね」
残虐スクリュードライバーの衝撃で忘れていたが、そういえばダーツが当たった膝枕をするんだった。そもそもどうしてこんな流れになったのか、いまだによく分かってないのだが……とりあえず、シリアス先輩はもうやる気みたいなので、大人しく従ってシリアス先輩の腿に頭を乗せる。
「ふっ、このシリアスの化身たる私の膝枕、さぞ寝心地もいいだろう」
「……えっと、そうですね。寝心地はいいですし、なんか少し甘い匂いもするような?」
「あれ? 前に甘味になった時の匂いが、残ってるのか? 私の匂いならシリアスなはずなのに……」
「いや、シリアスな匂いとは?」
「勢いで言っただけだから、私にもわからん」
シリアス先輩は制服っぽい服を着ていて、ひざ下ぐらいの長さのスカートなのだが、生地がいいのか柔らかくて肌触りもいいため、寝心地は本当にいい。
頭を後ろに微かな温もりを感じつつ、ほのかに漂ってくる甘い香りに心地よさを覚える。
「……しかし、ダーツは外れで残念だったな、快人! 番外編は超絶な幸運補正も対象外ってわけだな……」
「うん? 膝枕はイチャラブイベントとしては外れなんですか?」
「いや、別に膝枕も立派なイチャラブイベントではあるが……希望さえすればいつでもできたようなことに、わざわざ貴重なイチャラブフラグを使用してしまったのは、大外れもいいところだろう!」
「……え? あ、ああ、そうかもしれないですね」
あれ? 気のせいかな? それって「膝枕ぐらい別に言ってくれればいつでもする」って言ってるように聞こえるんだけど……。
そんな俺の疑問には気付かない様子で、シリアス先輩はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべて言葉を続ける。
「だが、それも全ては私の策略の内ってことさ……ふはは、先ほど紙に書いたのは、それだけしか思いつかなかったと言いつつもイチャラブフラグを消費せずに即座に実行可能なイチャラブイベントばっかりだったのさ! 騙されてあの中から選ぶことを決めた時点で、お前はイチャラブフラグを無駄に消費することが決定していたのだ!」
「……」
いや、あそこに書かれていた25個……もとい30個全部イチャラブフラグ無しでも実行可能ってなるととんでもないんだけど、最大値の96万倍の好意感度も納得の状態である。
というか、逆にそこまでゆるゆるの状態で、実行にイチャラブフラグが必要になるイベントって存在するのか?
「ふふふ、あまりのショックに言葉もないようだな。これがシリアスの化身たる私の高度な頭脳戦ってやつさ……慰めに頭も撫でてやる」
「……あ、どうも……えっと、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん?」
「シリアス先輩相手に、イチャラブフラグを使わなければいけないイチャラブイベントって、なんですか?」
「別にないが?」
「ううん?」
「……気付いたようだな。そう、私に対してイチャラブフラグを使用すると決めた時点で、すでにお前は負けていたのさ!」
誇らしげにドヤ顔を決めているシリアス先輩だが……なんかいま物凄く当たり前のように「お前が望むならなんでもしてあげるよ」的なことを言われた気がするのだが……う、う~ん……分からん。
本当に、なんというか不思議な人である。
シリアス先輩「まぁ、いかに主人公とはいえ私には敵わなかったということだな」
???「……え? これ勝利扱いになるんすか? 完全攻略済みでは?」




