番外編・エイプリルフール(ロスタイム)
「いやエイプリルフールのロスタイムってなんだぁぁぁぁ!?」
「ッ!?」
「百歩……いや、一万歩譲ってロスタイムがあったとして、どこでロスタイムが発生したんだよ! あれか? 私が快人が起きるまで待ってた時間か? だったら10分じゃねぇか!!」
「……えっと、先輩? いったいなにを……」
唐突に虚空に向けて叫び始めたシリアス先輩に声をかける。まぁ、過去にも何度かこういう感じのがあったので、シリアス先輩はそういうものだと認識しておくのがいいのかもしれない。
かなり変……じゃなくて、個性的な人なのでいろいろあるんだろう。いや、決して「触れたら面倒くさそう」とか思ってるわけではない。うん……たぶん……。
「……くそっ、まぁいいだろう。しかし、やってくれたな攻略王……まさか私に対してイチャラブフラグを使用するとは、完全に不意打ちだった! だが、お前の目論見通りに進むのもここまでと思え!!」
「いや、目論見というか使い方がイマイチ……」
「確かにそのフラグはお前に渡した権利だ。お前が私に対して行使するというなら、それも仕方ないと受け入れよう……だが、私の攻略難易度はSSSだ! いくらお前だって、そうそう簡単に攻略できると思うなよ!!」
「……あ、はい」
なんでそういう話の流れになったのかはサッパリ分からないし、シリアス先輩に聞いたとしてもたぶん納得できる答えは返ってこない。
変な感じになってきたが、とりあえずこのまま付き合うしかなさそうな雰囲気である。
「私を攻略するには、まずは好感度を最大値である100まで貯めないといけない。しかもそれで完了じゃないぞ。あくまで、そこまで貯めてからようやくスタートラインってだけだ」
「あ~えっと……た、確かに凄く高難易度かもしれませんね……えと、えっと……ちなみにいまの好感度は?」
「え? ……改めて数値にしろと言われると難しいけど……そうだな……甘めに見積もって……『9643万』ぐらい……かなぁ?」
「……好感度の最大値いくつでしたっけ?」
「100だけど?」
「……」
俺の聞き間違いかな? なんか、好感度が最大値の96万倍あるって聞こえたような気がするんだけど? それもう、どんなに控えめな表現したとしても攻略済みってことじゃ……。
そう思ってシリアス先輩を見るが「なにこいつはそんな当たり前のことを聞いてるんだ?」みたいな顔をしており、よく分からない。
「……えっと、とりあえずイチャラブフラグとやらを使うとどうなるんですか?」
「私とのイチャラブイベントが発生するわけだが……だが、さっきも言ったように私は高難易度! いまこの場で咄嗟に発生させられるイチャラブイベントなど、30程度しか思いつかない!」
……イチャラブマスターかなにかかな? 即座に30パターンも出て来るなら、その手のイベントに対して詳しすぎるレベルでは……あと高難易度云々は全然関係ない気がする。
俺がなんとも言えない顔をしている間に、シリアス先輩は紙とペンを取り出してイチャラブイベントとやらを書きだし始めた。
「……いや、シリアス先輩……さすがにこの辺りはちょっと……」
「あっ、そうだな。ベッドもあったしとりあえず書いたけど、確かにこれは年齢制限的によろしくないし、この辺は削って……25個になったな」
「十分すぎるぐらいなんですが……」
「だが、お前が持つフラグはひとつ、つまりこの中で発生させられるイベントはひとつだけだ!! さぁ、どうする!!」
「え、ええっと……ど、どうしよう……」
いや、本当にどうしよう? 紙に書かれているのは確かに室内で実行可能なイチャラブイベントと呼べるものばかりで、よくもまぁこんなに思いつくものだと感心したぐらいだが、選べと言われてもなんとも……。
「もう無難にダーツで決めればよくないっすか?」
「むっ!? でたな、???」
「うぉっ!? アリス?」
「……あ、いえ、別人です。私は謎の一般超絶美少女アリスちゃんファンの???です」
「いや、どう見ても……」
「別人です」
「そんな変な着ぐるみ……」
「別人です」
「というかそもそも声が……」
「別人です!!」
「……分かった、別人だな」
現れた黒い猫の着ぐるみは、どう見てもよくアリスが身に着けている着ぐるみの色違いにしか見えなかったのだが、本人が全力で別人一点張りで押し通そうとしているので深くは突っ込まないことにした。
「ほら、いつまでも番外編に時間かけるわけにもいかないですし、サクッとダーツで決めましょう。的はこうして回すタイプのやつを用意しましたから……」
「まぁ、確かに快人にダーツを投げさせて決めるのでもいい……っておいっ! なんでパ○ェロとたわし入ってるんだ!? 特にパジ○ロ! 当たったらどうするつもりだ!! 馬車使ってる世界だぞ、世界観を守れ!!」
なんかコント見たいなやり取りが発生しているが、つまるところダーツを投げてイチャラブイベントとやらを決定するらしい……うん……本当に、どうしてこうなった?
シリアス先輩「はい、終わり!! ここで終わり!! シリアスの化身たる私が、イチャラブイベントの当事者になるとかあったらいけないわけだし、この辺はボカして誕生日エピソードに戻ろう!!」
 




