番外編・年に一度現れる変なやつ
カーテンの隙間から差し込む朝の陽ざしを微かに感じつつ、ゆっくりと目を開く。目覚まし用の魔法具は鳴ってないし、なんとなく感覚的に今日はいつもより少し早く目が覚めた気がする。
早起きは三文の得って言葉もあるし、こういう日はなにかいいことが……。
「やっと起きたか、いいご身分だな快人」
「…………なにしてるんですか？ シリアス先輩……」
上半身を起こして部屋の中をぼんやりと見渡した俺の目に移ったのは、俺の部屋のソファーに座り、無駄に優雅な動作でコーヒーらしきものを飲んでいる……年に一回現れるシアさんにそっくりな女性……シリアス先輩だった。
さすがにもう何度も見ているので、パッと見るだけでシアさんかシリアス先輩かの判別はできるようになった。まぁ、それはそれとして、なんでシリアス先輩が俺の部屋でコーヒーブレイクを決めているのかは分からない。
「いつから俺の部屋に？」
「いや、なんか十分前ぐらいにここにきて、まだ寝てたから起こすのも悪いと思ってコーヒー飲んでた。なんで扉くぐったらソファーに座ってるのかは分からん」
「な、なるほど？」
よくは分からないが、そもそも根本的にシリアス先輩自体が割と謎の人物である。実際マジでエイプリルフールに唐突に表れる変わった人で、エイプリルフール以外は外に出れない変な部屋に居るらしい。
完全に監禁されているとしか思えないのだが、本人がまったく気にしていないというかそれが当たり前みたいなこと言ってるので、総合してなんかよく分からない人という感想である。
「というかそのコーヒーはどこから？」
「うん？ ちゃんと自前のやつだから、安心してほしい。こんなこともあろうかと、普段から狂気垂れ流してて、甘味化した私の体食いまくるイカレた神にマジックボックスみたいなの作ってもらったから」
「……その神とだけは縁切るべきだと思うんですが、絶対ヤバいやつですって……」
「だから、お前の関係者だって……まぁ、いいや、それはそれとして、最初にひとつ目的を済ませておこうか！」
「例のよく分からないシリアス探しってやつですか？」
「よく分からなくないだろ！ シンプル！！ シリアスの化身であり、シリアス・オブ・シリアスな私がシリアスを求めてシリアス捜索をするのはごく自然な流れであり、むしろ問題なのは昨今のシリアス不足によりこのシリアスの化身である私ことシリアス先輩が、主にイチャラブに悶絶して喚いてるだけの存在になっている世界がおかしい！！」
シリアスがゲシュタルト崩壊しそうである。あと、言ったら五月蠅そうなので言わないが、シリアス先輩がシリアスの化身ってのはいまも結構疑ってるというか、たぶん違うだろうと思ってる。もう何度も会っているが、シリアス感みたいなのは欠片も感じたことないし……。
「まぁ、話し戻すけど……」
「相変わらず、ジェットコースターみたいな情緒してますね……」
謎の熱意で力説して叫んでいたかと思ったら直後に冷静になっているという、凄まじいテンションの落差に苦笑する。
「シリアス関連じゃなくて、用件はこれだ」
「なんですか、この箱？」
「いちおう用意しておいたほうがいいかと思って持ってきた誕生日プレゼントだ。快人、誕生日おめでとう」
「……」
……いや、今日全然俺の誕生日じゃないんだが？ 今日はエイプリルフールであり4月1日、俺の誕生日は7月2日……掠ってすらいない。
ああいや待てよ？ もしかすると俺の居た世界とトリニィアの時間の流れが違うように、シリアス先輩が普段いる部屋も時間の流れに差があって、いまは俺の誕生日付近なのかもしれない。
「……あ、ありがとうございます。ところでシリアス先輩……シリアス先輩が普段いる場所だと、今日って何月何日なんですか？」
「え？ そりゃ、エイプリルフールなんだから4月1日に決まってるだろ、なに言ってんの？」
「……じゃあ、全然俺の誕生日じゃないんですが……」
「いいんだよ。いま本編で誕生日回やってんだから」
「本編？」
「いや、それを置いておいてもどうせ私は4月1日にしか出てこられないんだから、どっちにせよこの日に渡すことになるだろ。だから、日にちは気にするな」
「わ、わかりました」
まぁ、確かに言われてみればシリアス先輩から誕生日プレゼントを受け取るのであれば、この日にちしかないので……そういわれると、今日貰うのが自然な感じではある。
「まぁ、でもありがとうございます。開けてみてもいいですか？」
「ああ、感動にむせび泣くといい」
「あはは……えっと……うん？ なんですかこれ、旗？」
シリアス先輩から貰った箱を開けると、中には片手で持てるぐらいの旗が入っており「イチャラブ」という文字がか入っていた。
「それは……イチャラブフラグだ！」
さて、いつも通りではあるが……変なこと言い始めたぞ。
「本来なら私が叩き折るべきものではあるが、せっかくの誕生日ということで一度だけはイチャラブフラグを使用して、イチャラブイベントを実行することを許そう！」
「……あ、はい」
使う？ これ、変なこと書いてある旗ってだけじゃなくて、使用できるのか？ でも、どうやって？ 相手に渡すってことかな……いやでもそれ、シリアス先輩以外には意味が通じないのでは？
となれば、うん？ もしかして、シリアス先輩に渡せってことなのか……。
「……じゃあ、えっと、これをシリアス先輩に渡せばいいんですか？」
「ふぁっ！？」
……いまだにイチャラブフラグの使用方法は不明なのだが、青天の霹靂みたいな顔してるシリアス先輩を見る限り……なんか使い方は間違えたっぽい。
シリアス先輩「おいこらタイトル！！ 去年までかろうじて……いや、ほぼ省略だったけど、それでも私の名前を使おうって気概はあっただろうが！！ なに近所の不審者みたいな感じのタイトルにしてんだよ！！ 」
？？？「それはそれとして、イチャラブするんすか？」
シリアス先輩「……いや、ほら、もうエイプリルフール終わるから……私の出番終わりだから……ね？」
