そして始まる生誕祭③
衝撃的な展開ではあるが、とりあえず時間の流れが違うとはいえ皆を待たせているのは申し訳ない気持ちになるので、手早く準備をしようと顔などを洗って部屋に戻る。
するとそこにはネピュラの姿があった。
「主様、お着替えをお持ちしましたよ」
「え? ネピュラが持ってきてくれたの?」
「はい。現在主様の家もリリアさんの屋敷も、人員はほぼ全員主様の誕生日パーティの会場に行って不在ですからね。妾は世界樹から一定以上離れられないこともあって、不参加なので留守を預かっている形です」
「なるほど、でもそれだとネピュラはパーティしてる間ひとりになっちゃうのか……」
ネピュラは世界樹から一定以上の距離を離れられないという制約があるため、別世界である誕生日パーティには参加できないようだった。
時間の流れが違うのでもしかしたら一瞬とかかもしれないのだが、それでもひとりで留守番をさせてしまうのは申し訳ない気持ちになる。
「ああいえ、確かに妾は留守番となりますが、以前の知り合いがひとりこちらに遊びに来る予定なので、暇を持て余したりといったことにはなりませんので、どうか主様は気にせず楽しんできてください」
「あっ、そうなんだ。以前の知り合いって言うと、カナーリスさんみたいな感じかな?」
「はい。境遇としては近しく、カナーリスさんとも仲のいい世界創造主ですね。いつか主様にも紹介しますね」
少なくともネピュラが寂しい思いをしたりってことはなさそうなので、それに関してはホッとした。そして、ネピュラが用意してくれた服を着ていくのだが……初めて見る服である。
六王祭とかに着ていったものよりもう少ししっかりした感じではあるが、正義くんの結婚式で着た礼服ほどカッチリした感じではない。
「……ネピュラ、この服は?」
「イルネス様を中心に、リリアさん宅の裁縫が得意な方々が仕立てたものです」
ネピュラにそう言われて、リリアさんの家のメイドの中で何人かが思い浮かぶ。実際そこそこの期間滞在していたこともあって、リリアさんの屋敷のメイドとか警備の人とかの大半は顔見知りであり、さきほどのネピュラの言葉通りならそういった方々も皆招待されて現地に行っているのだろう。
……ただ、頻繁に会うわけではないが名前を知っていて会えば挨拶や雑談をする間柄というのも含めるのであれば、クロの家の家族とかも含めて結構な数になりそうな気がする。
多くの人に祝ってもらえるというのはもちろん嬉しいのだが……本当にどんな規模なのか、不安がどんどん大きくなっていく気がした。
着替えを終えてネピュラに見送られつつ、アリスと共に部屋にある門型の魔法具で移動する。そういえばこれ、異世界にも移動できるって性質があるんだった。
「はい、到着です」
「……待って、アリス……広すぎない?」
「広いっすよ。世界としては小さめですが、神界ぐらいのサイズはあるらしいですし……」
「世界としては小さくても、俺の誕生日パーティの会場としてはデカすぎるんだけど!?」
たどり着いてすぐ目に入ったのは、透き通るような青空と遠方に見える雄大な山脈、そして見るからに巨大な城と都市のように見えるもの……前情報が無ければ、ここは普通に別世界でそこに生活している人たちが作った年なんだろうと思ったのだが、目的と新しく作った世界ってことを考えると……。
「……アリス、あの都市ってなに?」
「いろいろっすね。基本パーティの参加者は前日入りしてるので、宿泊施設とかもあそこにありますし……」
「あとなんか、不思議な雰囲気の都市だよな? なんか、都市に向けて道路っぽい道が続いているし、中世ヨーロッパ的な雰囲気もありつつ、近代感もあるというか……混ざってる気がする」
「いろんな連中がやりたいことやろうとした結果ですね」
「ちなみにあの滅茶苦茶大きな城って……」
「今回の誕生日パーティの会場で、名前はミヤマカイト城ですね。ちなみに、覚悟しといて欲しいんですけど、街中にカイトさんの銅像とかいっぱいありますので……」
「……俺を公開恥辱するために作られた世界かなにかか、ここは……」
もう既に回れ右して帰りたい気持ちでいっぱいになってるんだけど!? ああ、これはきっとアレだ……友好都市ヒカリに対するノインさんの感情に近いものがある。
「……じゃ、これに乗って移動しますので……」
「待ってアリス……なにこのでかい車というか……遊園地のパレードで使うみたいなやつは!?」
「ああ、言い忘れてましたけど、城までは都市の中央道をパレード形式で通っていくので、カイトさんはあの上のところに乗ってください」
「……お腹痛くなってきた」
そこにあったのは煌びやかに輝く装飾過多なパレードカーであり、どうやらこれからこれに乗って都市に向かうらしい……勘弁してくれ。
シリアス先輩「ま、まぁ、王族の誕生日とかでもパレードとかあるかもしれないし……」




