そして始まる生誕祭①
ひと騒動があった後の空間にて、カナーリスが口を開く。
「いや~それにしても、イレクトローネの引きの強さには驚かされますね。あの数のじゃんけんを勝ち抜いて2番を獲得するだけでも凄いのに、快人様のくじ引きで選ばれる5枠のひとつも獲得するなんて、そりゃ運命も感じるってもんですよね」
「そうだよね。思い返してみれば前から、イレクトローネはこの手の抽選みたいなのには強かったよね。私としては本当に羨ましいよ」
『……不満を出力……《穏やかに話す前に、この電脳天使の顔がギャグ漫画みたいにへこんでることに言及すべきじゃないかな!? 痛いし、無駄に戻すのに時間かかるんだけど!!》……大変遺憾である』
「あ、いや、それに関しては本当に申し訳ないというか……完全に抑えが効かなくなって……本当にごめんなさい」
不満そうなイレクトローネに対して、∇∮◆£は本当に申し訳なさそうに頭を下げる。∇∮◆£はスイッチが入ると狂戦士化するというだけで、基本的には極めて温厚で人の良い性格をしている。
一発殴った後は冷静に戻り、己の短絡的な行動を反省してイレクトローネには何度も謝罪をしていた。殴りかかる前にその結論に達することが出来ればいいのだが、狂戦士モードの∇∮◆£は基本的に思考がすべて『ぶん殴る』に帰結してしまうため、一種の暴走状態ともいえた。
『……当機にも反省すべき点はある。感情を出力……《そう素直に謝られちゃうと、あんま文句も言いにくいというか、元はと言えば私が煽るようなこと言ったせいだし、お互い反省すべき点はあった感じだよね》……当機も双極神の感情への配慮に欠けていた』
「まぁ、∇∮◆£の気持ちも分かりますよ。順番的に一番とはいえ、まだネピュラさんや快人様に会えていない状態ですし、待ち遠しくし仕方ないって時にひとつ後ろの順番のイレクトローネが快人様へプレゼントを贈る権利を獲得してれば、嫉妬もするってもんですね。たはぁ~しかし、そんな∇∮◆£に朗報がありますよ!」
「……朗報?」
実際に抽選に当選した際に煽るような発言を口にしていたイレクトローネも、自分にも反省すべき点はあると告げて、∇∮◆£と苦笑し合う。少なくともわだかまりのようなものは残っていない様子で、両者は仲直りをした様子だった。
そしてその後に告げられた言葉に∇∮◆£とイレクトローネは首を傾げる。
「それがですね。さすがというべきか、ネピュラさんは∇∮◆£がいろいろ鬱屈とした気持ちになるのも察していたみたいで、シャローヴァナルに交渉をしてくれたらしんですよ。それで、快人様に会うのは最初に決めた取り決め通りですが……快人様の誕生日パーティが行われている際は、世界樹から一定距離以上離れられないってことで不参加のネピュラさんが退屈なので、∇∮◆£に話し相手になって欲しい……って名目で、一時的に∇∮◆£がシャローヴァナルの世界に来る許可を取ってくれたみたいですよ」
「!?!?!? え? そ、そうなの!? じゃ、じゃあ、私、ネピュラ様と会えるんだね!! や、やったぁぁぁぁぁ!」
そう、ネピュラは∇∮◆£の気持ちなどにも配慮をしており、誕生日パーティに参加しない己の暇つぶしという名目で、シャローヴァナルと交渉を行った。そして、シャローヴァナルが快人にプレゼントするために作っている紅茶に関して、アドバイスをするという条件の元、快人の誕生日パーティが開催されている間のみ∇∮◆£が一時的にネピュラの元を訪れていいと許可を獲得していた。
いきなりとてつもない幸福が舞い降りてきた∇∮◆£は、心底嬉しそうに飛び跳ねて喜んでおり、それを見たカナーリスも表情こそ変わらないが微笑まし気に頷く。
しかし、そんなカナーリスの肩に静かに置かれる手があった。
『……怒りを出力……《カナーリス? ちょっと、私が冷静でいられる間に答えてほしいんだけど……それ、先に言ってたら∇∮◆£に私が殴られることなかったよね?》……早急な返答を求める』
「あっ、いや~そうですね。自分すっかり忘れてまして……たはぁ~ドジっ子で申し訳ない!」
『……怒りを追加で出力……《ワザとだよね? 前に私が殴ったの根に持ってて、ちょっとした逆襲のつもりで黙ってたんだよね? よくもやってくれたな、てめぇ》……臨戦態勢に移行する』
「…………あっ、あ~自分そろそろ帰らないと……ではでは、おふたりともまた……」
『粛清を開始する』
イレクトローネが臨戦態勢に移行すると同時に、カナーリスが逃走し……ある意味で第二ラウンドともいえる戦いが始まった。
喜びから一転して発生した喧嘩を∇∮◆£はオロオロとした様子で見る。
「ふ、ふたりとも落ち着いて、喧嘩は駄目だよ。ふたりが本気で喧嘩したら、周辺の世界とかにも大きな影響があるっていうか、このイレクトローネの世界が影響を……ほ、ほら空間も悲鳴を上げてるし……と、ともかく落ち着いて……え、えっと、どうしよう……困ったな……ま、まぁ、いざ世界に大きなダメージとかが出そうだったら、止めに入ろう」
喧嘩を止めようとする∇∮◆£だが、残念ながらカナーリスとイレクトローネの耳には届かなかった。軽く肩を落としながら、ひとまず経過を見守ることに決めた様子で、∇∮◆£はカナーリスとイレクトローネの喧嘩を眺める。
このふたりの実力は拮抗しており、しっかりと喧嘩が成立している。
……尤も、その喧嘩の結末は……カナーリス、イレクトローネ両名共に、∇∮◆£にぶん殴られるというものであったのは、言うまでもないことではある。
強さ(現時点で登場している準全能級以上の者に限る)
シャローヴァナル(論外)
ネピュラ>>>越えられない壁>>>双極神∇∮◆£>>>>>機神マキナ>流転神カナーリス=電脳神イレクトローネ>冥王クロムエイナ=シャローヴァナル(エピローグを考慮しない場合)>幻王アリス>地球神エデン>運命神フェイト>>>>>死の魔力を受け入れ徐々に権能級の力に覚醒しつつあるアイシス(※まだ準全能級ではない)