ささやかなお祝い⑨
ケーキを食べ終えたあとはいよいよプレゼントの時間である。いや、本当に思った以上に葵ちゃんが喜んでくれており、誕生日プレゼントも見るからに待ち遠しいという表情を浮かべていた。
「じゃあ、ケーキも食べ終わったし誕生日プレゼントを……俺は今度一緒に買いに行く約束もしてるけど、それとは別でプレゼントも用意したから、今回はそれを……」
「ちょ~っと、待った!! 待ってください! 快人先輩!!」
「うん? 陽菜ちゃん?」
さっそく葵ちゃんへのプレゼントを渡そうと思ったのだが、そのタイミングで陽菜ちゃんより待ったがかかった。どの意図が分からず葵ちゃんと共に首をかしげると……。
「快人先輩のを先に渡しちゃったら、私のプレゼントが滅茶苦茶ショボく見えるじゃないですか……私が、先です! 快人先輩の超高級品は、後でお願いします」
「……え? 超高級品?」
「……葵先輩、快人先輩のプレゼント半端ないぐらい高価なやつですからね。まぁ、とりあえず先に私の用意したプレゼントを渡しますね」
「う、うん。なんか、急に不安になってきたけど……」
まぁ、事実として俺が買ったプレゼントは白金貨100枚という超高級品であるのは間違いない。まぁ、俺個人としては普通に使うよりもお金が増えていくスピードの方が遥かに早く持て余し気味なので、アリスがああして定期的に大きな金額の買い物をさせてくれるのは正直ありがたい。
特に金のかかる趣味なども無いし、高級志向というわけでもないので、アリスの店が無いと白金貨単位とかでお金を使う機会はほぼ無いので助かっている。
「私は、小物入れです! 結構可愛いデザインですし、ペンとかも入れれるサイズなので机の上とかに置くと便利かなぁ~って思って買いました」
「ありがとう。本当に可愛いデザインね。自分だとこういう感じのデザインの小物を買う機会が無いから、新鮮な雰囲気で、机に置いて使うのが楽しみよ」
「えへへ、喜んでもらえたならよかったです……さて、それはそれとして、覚悟はいいですか? 次、快人先輩の番ですよ」
「……いや、覚悟するだけの時間は無かったというか、期待と不安が入り混じってるというか……」
プレゼントを渡すの順番を決めたところで、俺と陽菜ちゃんだけなので先か後かの違いしかない、というわけですぐに俺の番になったので、マジックボックスの中から手甲を取り出すと……葵ちゃんはハトが豆鉄砲を喰らったような表情になった。
まぁ、それはそうだろう。陽菜ちゃんが女子力高めな可愛い小物入れを渡したかと思ったら、続く俺が手甲を取り出せば、そりゃ思考も追いつかないとは思う。
「……え? えと、手甲……ですよね? あ、いや、実用的な感じで嬉しいんですが、どちらかというと陽菜ちゃん向きのような?」
「その感想になるのは仕方ないと思うんだけど、これはアリスの雑貨屋で買ったやつで完全に葵ちゃん向きなんだよ。まぁ、とりあえず機能を詳しく説明するね」
思いっきり後衛型である葵ちゃんは、手甲なら徒手空拳で戦う陽菜ちゃんの方がいいのではという感想を抱いたようだった。実際それは最初に見た時に俺も思ったが、機能を聞けば完全に葵ちゃん向けである。
なんとも変な空気になってしまったとそんな風に考えつつ機能の説明をしていくと……話すごとに葵ちゃんの表情が目に見えて変わり、目がキラキラと輝きだした。
「つ、つまり、その手甲を使えば、事前に作った高性能なゴーレムを持ち運べるってことですよね! す、凄いじゃないですか!! 私もクロム様の本とかで勉強して、それなりに高度なゴーレム魔法も使えるようになったんですけど、高性能なゴーレムを作るには本当に時間がかかるんで、いまの技量じゃ実戦では使えないってシンプルなゴーレムを使ってたんです。さ、サイズの限界とかあるんですか? 大型のゴーレムも保存できるんですかね? 複数体で一体になるような群体型のものはどうなんでしょうか? 一度出した後また格納もできるんですか?」
「ちょっ、葵ちゃん、落ち着いて……」
「あっ、す、すみません……つい、テンションが上がってしまって……」
最初のキョトンとした表情はどこに消えたのかというほどテンション高く、ワクワクが隠しきれてない様子の葵ちゃんに思わず苦笑する。
「えっと、いちおうアリスから取扱説明書みたいな冊子も預かってるから、さっきの質問とかはこっちを確認してもらえれば大丈夫だと思う。なにはともあれ、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます! 本当に嬉しいです!! こんなすごい魔法具があったなんて、きっと凄く高価な……高価な……高価……陽菜ちゃん? さっき、快人さんのプレゼントは超高級品って言ってたわよね? これ……いくら?」
「白金貨100枚です」
「ひゅっ……えぇぇぇぇ!? 100枚!? まま、待ってください快人さん!? さすがに誕生日に渡すような額じゃ……」
「いや、それに関しては本当に大丈夫。むしろ持て余してるお金が多かったから使う機会ができてよかったとすら思ってるし、アリスも元々葵ちゃん向けに作って、葵ちゃんが自力で購入するのは難しいだろうってしまってた物みたいだから、こういう機会に葵ちゃんの手に渡ったのはむしろ最善だと思う。だから、遠慮せずに受け取って……」
俺の言葉を聞いた葵ちゃんは申し訳なさそうにしつつも、嬉し気に……宝物を抱きしめるように手甲をギュッと胸に抱いて頷いた。
「うっ、は、はい。必ずお礼はしますから、快人さんの誕生日には、私も快人さんに喜んでもらえるものを……」
「……あれ? 快人先輩の誕生日って……もうすぐなんじゃ?」
「…………そういえばそうだった」
そういえばすっかり忘れてた。俺の誕生日は7月2日であり、葵ちゃんの誕生日から10日ほどですぐにやってくる。
いやまぁ、今日はまだ葵ちゃんの誕生日より少し前なので、半月ぐらい先ではあるが、すぐといえばすぐである。
シリアス先輩「ようやく自分の誕生日を思い出したか……でもシロやマキナが行った細工が影響して、大規模な誕生日パーティ開催の可能性には気づいてないかも? ただひとつはっきりしてるのは、まだこの時点では葵と陽菜にはパーティのことは伝達されてないってことかな?」
マキナ「ううん、もう愛しい我が子の関係者全員に通達はしてあるよ。ただ、我が子ふたりだけじゃなくて、他の子たちも『愛しい我が子と居る時にはそのことを思い出せない』ようにしてあるからね。前に愛しい我が子に、夢の中での私とのやり取りを思い出せなくしていたのの応用だね。だから、実は葵も陽菜も、もう愛しい我が子への誕生日プレゼントは買って、マジックボックスに保管してるね。愛しい我が子の部屋を出てしばらくしたら思い出すと思うよ」
シリアス先輩「徹底的にサプライズがバレないようにしてやがる……」