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ささやかなお祝い⑧



 葵ちゃんと陽菜ちゃんとゲームで遊び、その後夕食を終えてから改めて葵ちゃんを俺の部屋に呼ぶ。ここで幸いだったのは、少し前まで一緒にゲームしていたので「せっかくだから三人で他のゲームをしよう」という感じで、自然に誘いやすかった。

 葵ちゃんは鋭いのでサプライズがバレてしまわないかを心配していたが、それ以上に少し前のゲームで途中まで結構いい感じの接戦だったが、最終的に俺が圧勝したからか負けず嫌いな部分が顔を出して「次は負けませんよ!」という感じに意気込んでいて、気付いている様子はない。


「次はなにをしましょうか? やっぱ、すごろくゲームとかだと快人さんが強いですし、アクション要素のあるものを……」

「葵ちゃん、それもいいんだけど……ちょっとその前に見てほしいものがあるんだ」

「え? 見てほしいものですか?」

「はい! それは~……これです!!」

「ッ!?」


 俺が声をかけて葵ちゃんがこちらを向いたタイミングで、陽菜ちゃんが間髪入れずマジックボックスからケーキを取り出してテーブルの上に置く。

 マジックボックスの性質を最大限生かして、事前にロウソクに火をつけた状態で保存していたので、出した瞬間から準備は完了状態だ。

 さすがに葵ちゃんも不意を突かれたのか、明らかに驚いたような表情を浮かべていたので、その隙に俺が照明を操作して、室内を暗くする。


「まだちょっと早いけど、俺と陽菜ちゃんからのささやかなお祝いってことで……おめでとう、葵ちゃん」

「なんか年齢は持ち越すとか聞きましたけど、とりあえず葵先輩、誕生日おめでとうございます!」

「……あっ、え? あ、ありがとう、ございます……わ、わざわざケーキを用意してくれたんですか……」


 葵ちゃんは思考が追い付いていないのか戸惑い気味ではあったが、目に薄っすら涙が浮かんでおり、感応魔法で伝わってくる感情も感極まっているような印象だった。


「簡単ではあるけど、なにかお祝いしてあげようって陽菜ちゃんと考えて、用意したんだよ」

「はい! まぁ、葵先輩……とりあえずロウソク消しちゃってください」

「あ、う、うん」


 陽菜ちゃんに促されて葵ちゃんがロウソクを吹き消し、ロウソクが消えたタイミングで再び照明を明るくして、陽菜ちゃんと一緒に拍手をする。

 葵ちゃんはようやく感情が追い付いてきたのか、嬉しさと気恥ずかしさが混ざったような笑みを浮かべていた。


「それじゃあ、葵ちゃんも席に座って、切り分けて食べよう」

「あ、はい……快人さん、ありがとうございます。その、本当に凄く嬉しいです。こうやって、誕生日を祝ってもらうなんて初めてで……胸がいっぱいです」

「え? そうなんですか!? 葵先輩、実家とかでは……」

「いちおうパーティみたいなのは開かれたけど、なんか名目だけ私の生誕記念とかって感じで、実際は利権が絡んだりしたようなドロドロした感じの雰囲気だったし、あからさまなおべっかとか、下心が見え透いてるのとかばっかりだったから……こんな風に素直に嬉しいのは初めて」


 実家に対する嫌悪感をまったく隠そうともせず吐き捨てるように言う葵ちゃんは、本当に心底実家が嫌いな様子だった。

 まぁ、成人したらマキナさんの力を借りで即座に縁を切ると言っているレベルなので、ある意味では当然というか……酷い環境に居たんだろうなと想像できた。

 だからこそ、こういう機会にはそういう嫌な思い出は忘れて楽しんでもらいたいものだ。


 そう思いながらケーキを切り分け、誕生日おめでとうと文字の入ったチョコレートプレートの乗ったケーキを葵ちゃんの前に置くと、葵ちゃんは可愛らしく目を輝かせる。


「こういう、なんかいかにも誕生日のケーキですって感じのは、見ていて楽しくなりますね。食べるのがもったいないぐらいです」

「あはは、そこまで喜んでくれると準備したかいもあるよ。でもまぁ、また来年とかその次もお祝いするし、惜しんだりする必要は無いから、遠慮せずに好きなだけ食べてね。余った分はマジックボックスに保存しておけばいいし……」

「はい!」


 俺の言葉に満面の笑顔で頷いた葵ちゃんを見て、俺と陽菜ちゃんも思わず微笑む。なにせ、サプライズとして企画はしていたものの、まさかこんなにも喜んでもらえるとは思わなかった。


「ここまで喜んでもらえるとは思わなかったので、葵先輩が喜んでくれて嬉しいって気持ちと、いったいいままでどれだけ灰色の誕生日だったのかって気持ちが混ざってますよ。ウチはなんだかんだでちゃんとお祝いしてくれてましたし……」

「……私、あの家、嫌い」

「ガチのトーンですね……ま、まぁ、その辺りは忘れて楽しみましょう! ケーキ食べた後は、私と快人先輩からのプレゼントもありますからね!」

「そうなの? 楽しみ……陽菜ちゃんも、本当にいろいろありがとうね」


 予想外ではあったが思った以上の成果だったので、いまから誕生日プレゼントを渡すのが楽しみである。




シリアス先輩「陽菜の方の家は、本人が厳しい~とか言ってはいるけど、家族仲は良さそうだし……変に甘やかしすぎないってだけで、ちゃんと愛情をもって接してる家族なんだろう。葵の方の家は、マジで『代表の娘』っていう部品としか見てないような雰囲気はある」

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― 新着の感想 ―
 凄い、気づかれない配慮が完璧すぎるね。最終的に圧勝はしたけど接戦した事によってゲームを面白くしてるのは素晴らしいね。  ゲームに夢中になっていて誕生日よりも少し前だったから全く気づかれてなくてサプ…
値段いうなよ?絶対だぞ?ふりじゃないからな? 信じてるよ、カイト君!
カイト君…プレゼントの値段絶対にバレないようにねw
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