ささやかなお祝い④
陽菜ちゃんとやってきたケーキ屋にて、俺と陽菜ちゃんはショーウィンドウを見ながら悩まし気な表情を浮かべていた。
まず心配していたケーキがあまり残ってないというような状態ではなく、売り切れているのもいくつかはあるが種類や量も充実しておりより取り見取りといった感じで選ぶのには困らなそうな状態だ。
ならば、俺と陽菜ちゃんが何に悩んでいるのかというと……。
「……やっぱ見た目はホールの方がそれっぽいよね」
「ですね。お洒落で可愛いですし、ロウソクやプレートも絶対ホールケーキのほうが綺麗になりますよね」
そう、当初はカットケーキのアソートにする予定だったのだが、いざケーキ屋に来てみるとホールケーキも売っており、そのうちのひとつがフルーツをふんだんに使った見た目にもお洒落かつ葵ちゃんが好きそうな感じで、こっちのほうがいいんじゃないかと思い始めたことで悩んでいた。
バースデーケーキとして映えるのはやはりホールケーキだが、手軽さはカットケーキの方が上だ。今回は俺と陽菜ちゃんと葵ちゃんの三人だけのささやかなお祝いの予定なので、手軽かつ好きなものを選べるアソートもいい。
でもやはり、ホールケーキの特別感……誕生日っぽさは大きな強みであり、このホールケーキにプレートやロウソクを付ければ物凄くそれっぽい感じになりそうだ。
「……当初の予定とは変わるけど、俺はホールケーキの方がいいんじゃないかなぁって思うんだけど……」
「賛成です。やっぱり、このドーンて感じのボリュームは特別感がありますよ。すみませ~ん。これって、お祝いメッセージのプレートとかって付けてもらえるんですか?」
「プレートだけでしたらサービスで行えます。ケーキの上部に直接チョコレートで文字を書いたり、砂糖菓子のデコレーションを加える場合は追加料金が必要になります」
陽菜ちゃんの質問に店員さんが笑顔で答えつつ、砂糖菓子のサンプルなどを見せてくれた。
「……陽菜ちゃん、これ、ゴーレムっぽくない?」
「あっ、私もそう思いました。デフォルメされてて可愛いですし、葵先輩といえばゴーレムなので、追加してもらいましょう!」
ゴーレムっぽい雰囲気の砂糖菓子を付けて、「誕生日おめでとう」と書かれたチョコプレートを付けてもらってホールケーキを購入してマジックボックスにしまって店を出る。
「これでケーキは大丈夫だね。時間的余裕も十分だし、プレゼントを買う前に陽菜ちゃんが興味津々だったカフェに寄ろうか?」
「はい! 行きましょう!!」
俺は葵ちゃんと一緒に買い物に行ってプレゼントを買う約束をしているのだが……別に一回しかプレゼントしちゃいけないという決まりがあるわけではないので、それとは別にプレゼントを用意するつもりだ。
まぁ、あまりかさばったりしないような小物系がいいと思うので、カフェに行った後で雑貨屋とかに行ってみることにしよう。
パフェを思い浮かべてるのか目を輝かせる陽菜ちゃんを微笑ましく思いつつ、食べ歩きガイドで確認したカフェに向かった。
元々ケーキ屋に近い場所にあったこともあって、カフェへの到着は早かったのだが……ここでもちょっとした予想外の事態が発生した。
ウキウキでメニューを見る陽菜ちゃんを眺めつつ、俺はコーヒーでいいかなと思っていると……。
「か、快人先輩! これ、見てください!!」
「うん? なになに……カップル限定デラックスパフェ? え? これ食べたいの?」
「はい。だってひとりじゃ食べれないんですよ! これは絶対、この機会に食べておきたいです。ただ、カップル用のパフェって……サイズは大きめですよね? なので、一緒に食べてもらえると……」
「確かに大きそうな気はするけど、カップル用のメニューってことはデートとかで注文する場合が多いのを考えると、そこまで凄いサイズじゃない気もするけど……まぁ、陽菜ちゃんがそれが食べたいなら、一緒に食べようか」
「はい! えへへ、じゃあ、このお店にいる間は、私は快人先輩の恋人ですね」
ニコニコと眩しい笑顔を浮かべている陽菜ちゃんは非常に楽しげな様子ではある。ただ本人はあまり意識していないのかもしれないが、不意に可愛い女の子そういうことを言われると男はドキッとしてしまうものである。
まぁ、陽菜ちゃんは社交的に見えて結構人見知りなところもあるので、親しくない相手に迂闊に言ったりはしないだろうし、俺に対してガードが緩めに見えるのもそれだけ気を許してくれているということなのだろう。
シリアス先輩「気を許しているというか、恋心を抱いてるのは間違いないと思うが……陽菜の場合は、果たして本人にどこまで自覚があるのかが不明な部分があるな。全く自覚が無いわけではないんだろうけど、葵とかと比べると恋愛的なアプローチというよりは、優しい先輩に甘えている感じが強くて、自覚はまだ薄めな気がする」
???「的確な読み……随分勉強してるみたいで……まるで恋愛博士っすね」
シリアス先輩「……己に危機を及ぼしかねない要素は、嫌でも詳しくなるものさ……」