ささやかなお祝い②
葵ちゃんの誕生日祝い用のケーキを買いに行くこととなり、陽菜ちゃんとそれぞれ簡単に準備をして玄関で合流する。
「すみません、快人先輩。遅くなりました」
「いや、全然待ってないよ……って、そのパーカーは初めて見るね」
「えへへ、最近買ったんですよ……どうですか?」
「うん。ちょっとオーバーサイズでダボってしてる感じもいいし、パーカー自体のデザインも陽菜ちゃんに似合ってて可愛いよ。上着ひとつで、結構新鮮な感じになるもんだね」
陽菜ちゃんの服装は概ねいつも通りの動きやすそうな感じのものなのだが、一点だけオーバーサイズのパーカーを着ており、袖などがダボッとしてる感じがなんとも可愛らしい。
そもそも活発な陽菜ちゃんには、パーカーのようなカジュアルな服装はよく似合うので、新鮮ながら非常に可愛らしい雰囲気だった。
「前に服屋でみかけて、フード付きのパーカーは快人先輩っぽいなぁ~って衝動買いしちゃいました。似合っててよかったです」
「確かに俺はフード付きパーカーを着てることが多いね。特に拘りとかは無かったんだけど、長くそういう服を着てるうちに、フード付きパーカーじゃないと若干違和感を覚えるようになった気もするよ」
「あはは、でも確かに、着慣れた服があると他の服は違和感ありますよね。私もスカートとか履くと結構違和感が……」
陽菜ちゃんはハーフパンツ……いや、カプリパンツっていうんだったかな? 膝下ぐらいの長さのズボンを履いていることが多く、確かにスカートとかは正義くんの結婚式とかみたいな正装の場面でしか見たことが無い気がする。
「けど、そんな風にオーバーサイズの服を着こなしてるのは、お洒落な感じがするね」
陽菜ちゃんは小柄なので、オーバーサイズの服を着ると小動物感が増すというか、可愛らしさが際立つ気がする。そう思って口にすると、陽菜ちゃんはなにやら苦笑を浮かべる。
「あ~でも、今回は狙ってオーバーサイズを……というかメンズのパーカーを買いましたけど、元々普段から大きめのサイズの服は買いがちですね」
「そうなの?」
「はい。なんていうか……適性のサイズだと、胸が苦しいんですよね。なのでちょっと大きめの服を買うようにしてます」
「なるほど」
陽菜ちゃんは小柄な体格ながら胸のサイズはかなりのもので、トランジスタグラマーな雰囲気もある。身長などに合わせた服では胸元が苦しかったりするのかもしれない。
だが、たとえそこに邪な意図などが無くとも、そういった話題をあげられるとつい視線が胸に向かってしまいそうだったので、その辺りはしっかりと意志を持って視線を下げないように注意した。
せっかく懐いてくれている後輩に軽蔑されたりするのは嫌なので、強い自制心で己を律する。
なんとか視線を下げずに相槌をうてたとそう思っていると、陽菜ちゃんが不服そうに頬を膨らませた。
「……むぅ、快人先輩。そこはちょっとぐらい胸を見たりしてくれてもいいんじゃないですか?」
「えぇぇ……むしろ、無闇に見たりしない方がいいんじゃ……」
「いや、そりゃ私も意味なくジロジロ見られたりとかは嫌ですが、なんていいますかね……こういう会話をしてアピールしてる時は、ちょっと意識されてる感が欲しいというか、複雑な乙女心ってやつですね。まぁ、だからっていまから改めて見ますとか言われても困りますけどね」
「……む、難しいな」
陽菜ちゃん的には少し前の胸元が苦しい的な会話は、俺に意識させようという意図もあったため、無反応なのは若干不服ということなのだろう。乙女心とはかくも難しいものである。
まぁ、別に陽菜ちゃんは怒ったりしてるわけではなく、冗談めかした悪戯っぽい雰囲気なので、単純にこういうやりとりを楽しんでいる感じはある。
「そうなんですよ! 乙女心は難しいんです。快人先輩、2点減点ですよ。今日のお出かけの得点はいま118点です」
「……100点越えてない?」
「最初に服に気付いて褒めてくれたので120点スタートです。また褒めてくれたら120点に戻ります」
どうやら採点はかなり甘々らしい。楽し気に笑う陽菜ちゃんを見て、俺も思わず笑みをこぼす。そのまま少し雑談をした後で、出発することになり家を出て並んで道を歩く。
「……でもアレですね。小柄で胸が大きいっていうと、私よりもフェイト様の方がイメージが強いですよね」
「あ~確かに、フェイトさんは陽菜ちゃんより小柄だよね」
「アピールポイントが被ってる気がしますし、相手は神様なので分が悪すぎますね……」
「アピールポイントって……」
「私個人としては走る時とか邪魔なんですが、男の人ってやっぱり大きい胸とか好きなんじゃないですか?」
「……う、う~ん、非常に返答が難しいというか……ほ、他の話題にしよう! えっと、ケーキはどんなのがいいかな?」
「葵先輩の好みだと、レアチーズケーキとかですが……誕生日っぽくは無いですよね」
そのまま胸の話題を広げるのは、変なボロでも出しそうだし単純に気まずさもあってやや強引に話題を逸らした。陽菜ちゃんは特にそれを言及したりすることは無く、普通に新しい話題に移ってくれて、ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべていた。
シリアス先輩「快人に対して甘えているというか、なんか妹感が強いんだよなぁ陽菜……そういう意味では、結構他と被ってない枠なのでは?」