誕生日プレゼントの抽選
それは唐突と言えば唐突ではあった。少なくとも当事者である快人にとっては……。日課であるペットのブラッシングや世話を終えて、自室でのんびり本を読んでいた快人の元をカナーリスが訪ねてきた。
「快人様、急に申し訳ない。ちょっと、お時間よろしいですか?」
「え? はい、大丈夫ですけど……なにかありました?」
「いえ、トラブルとかではなく、快人様にちょっとしたお願いと言いますか……ちょっと抽選してくれません。たはぁ~こちらにガラポン抽選機を用意しておりますので、ぐるっと回しちゃってください」
「……えっと、なにを抽選するんですか?」
カナーリスが机の上に置いたビンゴゲームなどで使われるガラポンを見て、快人は不思議そうに首をかしげる。それもそのはずだろう、唐突に抽選機を出されれば「いったいなにを抽選するのか?」という疑問が湧き上がるのは当然だ。
「たはぁ~それが、現時点ではちょっと快人様にはお伝え出来ないと言いますか……後ほどお伝えしますので、いまのところは疑問は脇において抽選をお願いしていいですか?」
「……え、ええ、分かりました」
怪訝そうにしつつも、快人が了承の意を返したのは、カナーリスに対する信頼ゆえだろう。これが例えば、提案したのがアリスやシャローヴァナルといった面々であれば、なにか妙な事を考えているのでは? といった感じで警戒したかもしれないが、カナーリスなら変な悪ふざけとかではないだろうと判断するぐらいには、快人にとってカナーリスは誠実で信頼できる相手と認識されていた。
そして、快人が不思議そうにしつつもガラポンを回すと、特に何も書かれていない白色の玉が出てきた。
「……えっと……178432ですね。申し訳ないですが、あと4回ほどお願いします」
「……あの、17万とか聞こえたんですが……これ、もしかして見た目以上に中身いっぱい入ってたりします?」
「ええ、見た目はスリムなガラポンですが、中身はギッシリです。抽選とかは偏らないようにしてますけどね。ささっ、ではその調子であと4回お願いします」
「わ、分かりました」
「……えっと、次は……2ですね」
最初が178432で、次が2……「数字の落差が凄いなぁ」とそんな印象を抱きつつ、快人が三回目の抽選を行うと、やはり何も書かれていない白い玉が出てくる。
ただ、カナーリスには番号が分かってる様子で、その白い玉を持って番号を読み上げる。
「えっと……1768億とんで15と……」
「……あの、カナーリスさん? なんか、怖くなってきたんですが、これマジでいったいどれだけの数が……」
「いっぱいですね」
「そ、そうですか……」
サッパリ意味は分からなかったが、とりあえずとてつもない数の中から抽選をさせられていることに、若干戸惑いの感情を出しつつ、それでもひとまず快人は頼まれた通り5回の抽選を行った。
快人がカナーリスに促されて抽選を行ている中、いくつもの次元を隔てた別の世界に作られた空間では、電脳神ことイレクトローネが、両手を天に掲げてガッツポーズを行っていた。
『……感情を出力……《やっったぁぁぁぁ!! これで、快人様にプレゼントを贈れる!! えへへ、スタートダッシュでズルした∇∮◆£と違って、私は競い合った上で2番を獲得してるし、いまもこうして快人様の誕生日プレゼントの抽選に当選した! これはもう、私と快人様の間には快人様の世界の文化で言うところの赤い糸が繋がれてるって言っても過言じゃないよね!!》……勝利の余韻を感じる。追記するなら、当機に向けられた凄まじい殺気も感じ、同時に愉悦感も覚える』
そう、快人が行っていたのは快人の誕生日パーティのプレゼントの抽選であり、話し合いの結果希望している世界創造主たちの中から、快人が抽選で選んだ五名に誕生日プレゼントを贈る権利を与えるということが決まっていた。
そして、その権利を見事獲得して勝ち誇った様子のイレクトローネに、周囲からそれだけで次元がいくつも崩壊しそうなほどの嫉妬と殺意が向けられるが、当のイレクトローネは涼しい顔で受け流していた。
いまここに集まっているのは、世界創造主たちによって作られた複数の快人ファンクラブの内、恋愛的な意味合いでも快人を好んでいる……イレクトローネ曰くガチ恋勢が集まっているファンクアブであり、快人に誕生日プレゼントを贈る権利を獲得したイレクトローネへの嫉妬の感情はすさまじかった。
それでも事前の取り決めはしっかり行われているので、ガチバトルなどが発生することは無かったが……。
ちなみに他にも、ネピュラが主様と呼ぶ快人をネピュラと同格のように考えて信仰するファンクラブがあったり、世界創造主たちから見れば赤子のように幼い快人の成長を微笑ましく見守るファンクラブがあったりと、同じファンクラブでも様々な派閥が存在する。
そもそもネピュラ自体が、膨大な数の世界創造主たちの頂点に君臨する存在だったため、快人のファンとなった世界創造主たちの数は凄まじい。
そんな騒がしい空気の中で抽選が進み、快人が最後の5個目の抽選を終えると、周囲の神々から再び歓声が上がりそのうちのひとりが感極まった様に涙を流した。
『……驚愕を出力……《おぉぉ、凄い! ガチ恋勢ファンクラブから2枠当選するとは、やっぱりガチ恋は勝つんだよ》……続けて、警告を出力……《まぁ、皆分かってるとは思うけど……私相手はいいけど、その子は力弱いんだから殺気とかは向けちゃ駄目だよ》……ネピュラ様を敬愛するものとして、また快人様のファンとして良識のある行動を期待する』
新たに当選した世界創造主は、創造系の力が得意で世界を作ることこそできてはいるが、純然たる強さで言えばかなり弱く、それこそ準全能級どころか六王クラス相手でもボロ負けする程度の力しかないので、さきほどのイレクトローネに向けられたような圧力を受ければ、存在そのものが押しつぶされて消滅する可能性もある。
とはいえ、ここにいる世界創造主たちはネピュラを強く信仰するものであり、その教えをしっかりと継承しており、弱いものをむやみに威圧することは無い。
先程の嫉妬や殺気も、全知全能級であるイレクトローネ相手だから向けられたものであり、そのクラスの者たちにとってはじゃれ合いレベルであり、それを新しい当選者に向けたりすることは無く、純粋に皆で当選者を祝福していた。
シリアス先輩「これ、たぶんだけどイレクトローネの番号は『2』だよね? てことは、抽選の番号は……挨拶に来る予定の順番ってことか……そうだとすると、数がやばいんだけど……」