懐かしきMMO⑪
イレクトローネの話を聞いたカナーリスはとりあえず事情には納得した。というか、そもそも訪れたのは単に知り合いが近くに来ていたので声をかけに来たような感覚が強く、遭遇した後は推し活全開の格好が気になった。
まぁ、その格好については納得する答えを得られたかといえば首をかしげるが、あまり深く触れるのも厄介そうなのでそれ以上は話題にあげないことにした。
「でも、電脳神と呼ばれるイレクトローネが電脳空間を担当してくれるのは、安心ですね。たはぁ、いや、快人様を守りたい勢力が多すぎて、別に誰がやっても対応はできそうですが……」
『……訂正を要求……《カナーリス! 何度も言ってるけど、私を電脳神なんて可愛くない呼び方で呼ばないで! 私を呼ぶなら、電脳天使イレクトローネちゃんって呼んでほしいな!》……以上、改善を期待する』
「テンションの落差が激しすぎて、温度差で風邪引きそうです……ところで話は変わりますけど、イレクトローネは次の次でしたっけ?」
カナーリスが口にした順番とは、ネピュラや快人に会いにトリニィアを訪れる順番であり、カナーリスがネピュラの伝言を一番初めに伝えた知り合いからが双極神と呼ばれている世界創造主が早々に動いたことで、一番早い順番を獲得した。
そしてそのあとで他の者たちもネピュラのメッセージや言いつけを受け取り……双極神の次の順番を求めて、それはもう凄まじい争奪戦が繰り広げられた。
いや、順番決め自体はルールを取り決めた上でのじゃんけんによるものだったのだが、桁外れの力を持つ世界創造主たち同士のじゃんけんであり、力が入りすぎた結果、仮に対策なしで行っていたら万を超える世界が余波で消し飛んだであろう凄まじいじゃんけんの末に、イレクトローネが双極神の次の順番を勝ち取っていた。
ネピュラを敬愛している世界創造主たちの多くは、快人のファンクラブを作り、そこで世界創造主同士様々な取り決めと契約を行い、トリニィアを訪れた際や快人に挨拶する際の制限や注意事項もしっかりと練られていた。
なので、イレクトローネも近くに来つつも快人に挨拶したりすることは無く、こうして推し活だけを行っていたわけだ。
ちなみにファンクラブ自体も嗜好や派閥で複数存在し、ファンクラブ同士が協定のすり合わせなどを行っていたりもするぐらいには大規模である。
『肯定する。当機の順番は双極神の次となっている。続けて……世間話を出力……《∇∮◆£がいまの待ち時間が、いままでで一番長く感じるって言ってたね。快人様の声帯だとあの子の名前を発音できないから、挨拶する時のために別に名前も考えたんだってさ》……それと、カナーリスに次元崩壊コンボを叩き込むつもりだと拳を振るって練習をしていたことを追記しておく』
「……ひぇ……勘弁してほしいですね。うっかり体を直し忘れたりすると、快人様が心配するですよ。たはぁ、ちょっと前にも複合世界裂断チョップ喰らって治し忘れてて、かなり心配をかけてしまいましたね。いや、自分ゴッドですし、あの程度は怪我ですらないんですが、それはそれとして快人様の優しさが染み渡るというか……いや、ワザと治し忘れたとかではないんですけど、得しちゃったなぁって感じでしたね」
『……』
「いやぁ、その時は結局体を直した後快人様とお茶する流れになっちゃったりしまして、快人様の近況を聞きつつ、ふたりっきりの時間とかを堪能しちゃったんですよね。たはぁ、アレは癖になっちゃいそうな幸福感でしたね」
表情こそ無表情のままだが、どこか楽し気な声色で告げるカナーリスの言葉をイレクトローネは最後まで静かに聞いたあとで口を開く。
『……警告を出力……《カナーリス? 快人様ガチ恋勢の私の前でそれ以上ノロケるつもりなら、相応の覚悟をしてもらっちゃったりするからね。うん、なんというか、一言でいうなら……羨ましすぎるから……ぶん殴る!!》……以上、実行する』
「ちょっ!? 警告とかいいつつ即実行に移してるんですが!? お、落ち着いてく――」
格好にこそツッコミはいれたのだが、カナーリス自身も快人のファンを自称しており、快人の話題となればもちろん引き出しは多い。
そしてその引き出しからうっかり最近あった幸せな出来事を口にしてしまった末路は考えるまでもなく……電脳空間にはカナーリスの悲鳴が響き渡った。
シリアス先輩「……そういえば、快人が抽選して創造主たちから何人か選んで誕生日プレゼントありにするんだったっけ? 快人に胃痛の気配……」