懐かしきMMO⑩
金色の宝箱からはもちろん、そのダンジョン内で手に入る最も貴重なアイテムが入手できた。俺たちが挑戦していたダンジョンは、葵ちゃんがちょっと難易度が高かったかもと発言していたように、三次職のいけるダンジョンでは最高クラスであり、当然ではあるがその激レアドロップもかなりの価値がある。
「俺や葵ちゃんが使えるアイテムじゃないし、売るのがいいよね」
「そうですね。それで耐性装備を整えたら、行ける場所も増えますね」
「そうだね。それに、やっぱ俺はタンク寄りのステータスとスキルに振りなおそうかな。火力は葵ちゃんが圧倒的だし、このダンジョンでも俺が抑えて葵ちゃんが攻撃ってのがかなりハマってたしね」
「説明文以上に天神のアクセサリーが強力でしたね。たぶんですけど、天神のアクセサリーの30%ダメージ軽減は、計算式の一番最後に適応されてるんでしょうね。装備のわりに快人さんの耐久力は、それこそ四次職並みでしたしね」
葵ちゃんの言う通り、確率で発動するダメージ無効も強いのだが、そもそもとして天神のアクセサリーを装備した状態の耐久力がかなり高かった。
ステータスオール+20にHP100%アップの時点でかなり耐久力は上がっているが、そこに一律のダメージカットなども加わると……敵の火力がかなり高い筈のダンジョンでもかなり安定して耐えられていた。
しかも俺はまだ三次職に転職してそんなにレベルが上がってないので、四次職に到達することにはもっと遥かに強固になっているだろう。そこへ、タンク向けのステータスやスキル構成に変更すれば、それこそもっと高難易度のダンジョンでも行けるかもしれない。
「……まぁ、それはそれとして結構長くプレイしてたし休憩しよっか」
「そうですね。イベントダンジョンから連続でしたし、さすがにちょっと疲れましたね」
「座りっぱなしだったし少し体を動かす意味でも、庭のテラス席でお茶でもしよっか? イルネスさんに頼んで、お茶とお菓子を用意してもらうよ」
「はい」
やはり久々のネットゲームはかなり楽しく、つい熱中してしまっていたのでここで休憩を挟むことにして、葵ちゃんと一緒にお茶をするために移動した。
快人たちが休憩に向かった頃、平行世界にある電脳空間にカナーリスが訪れていた。その理由は単純で、彼女の知り合いである電脳神に会うためだ。
最初に現れた際には電脳世界で妙な動きをしていた存在の排除だったので、そこに関しては問題はない。電脳神が現れなければカナーリスが消すつもりだった。
問題はそれを排除した後もずっと電脳神がその平行世界の電脳空間に居座ったままであり、なにをしているのだろうかと興味本位で訪れ……無表情のままで首を傾げた。
「……何してるんですか、『イレクトローネ』?」
『誤解はしないで貰いたい。ここにいる当機は、現時点において取り決めも制約も一切違えてはいない。宮間快人様のファンクラブにおける取り決めにおいてトリニィア外かつ電脳空間に近しい場面においてトラブルが発生した場合は、当機が快人様の守護をしてもいいという権利を獲得している。よってここにいる当機は、私欲ではなく権利に基づく正当な役割として来訪した……続けて、弁明を出力……《ちゃんとネピュラ様の言いつけも、ファンクラブ同士の取り決めや契約も厳守してるし、誓って快人様に接触とかはしてないし、シャローヴァナルの世界にも行ってないよ?》……よって心配は無用』
「ああ、いや、イレクトローネはその辺しっかりしてますし、心配はしてないんですよ……自分が聞きたいのは、その格好の方でして……」
あくまで自分がこの電脳空間に来たのは、世界創造の神々によって決められた協定……もとい、快人のファンクラブにおける取り決めと契約によって、トリニィア以外の世界での電脳空間においてはイレクトローネが快人を守っていいという権利を獲得しており、悪意ある存在から快人を守るために来たという返答だった。
それに関しては、カナーリスもまったく問題視はしていない。世界創造の神々たち……とりわけかつてネピュラに忠誠を誓っていた者たちの中で、快人のファンクラブができているのも知っていたし、様々な取り決めがあるのも知っている。
それはそれとして……「快人様スーパーLOVE」と書かれたピンクの法被を着て、「快人様しか勝たん」と書かれた鉢巻を巻き、両手に七色のペンライトを持っているという珍妙な恰好をしているイレクトローネに関しては、突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。
『……回答を出力……《きっかけは偶然とはいえ、推しである快人様の近くで推し活ができる好機! 相応の姿で臨まないと無作法だと思うんだよ!》……よってこの格好は、快人様推し活における正装である』
「……自分もなんというか表情筋死滅してるので、あんま人の事言えねぇっすけど……ハイテンションでペンライト振った後でスンッて無表情に戻るのは、乱高下激しすぎて驚きますね」
機械のように冷静沈着な表情かと思えば、唐突に熱量高めのファンの顔になって力説し、かと思えば直後にスイッチがオフになるかのように表情が戻るイレクトローネを見て、カナーリスは無表情のままで苦笑した。
シリアス先輩「こ、濃いな……この神のキャラ……」
マキナ「しかもこの、イレクトローネって異常進化した結果神の領域にまで到達した元AIで、最初に自分が生まれた世界は滅ぼした上で新しく世界を創造したとかって過去があるとか……」
シリアス先輩「設定も濃いな……」