懐かしきMMO②
仕組みはよく分からないというか、神の作った品なので常識が通用しないゲーム機は、誕生日にもらった際は専用の電脳空間に繋がると聞いていたが、見る限り普通に地球のネットに繋がっている。
前にシロさんとエデンさんで契約の改定を行なったぐらいから、明らかにソシャゲっぽいゲームもドンドン追加されてきたので、その際に調整したのかもしれない。
葵ちゃんと一緒にプレイすることになったネットゲームで、最初に葵ちゃんから預かっていた装備を返却するということで、以前に俺が使っていた装備一式を返してもらった。
もちろん年数の経過とともにインフレの進んでいくネットゲームにおいて、数年前の最善性装備などというのは型落ちもいいところではあるが、だからと言って性能自体が下がっているわけではない。
久しぶりにプレイする時の繋ぎ装備としては十分過ぎる性能といっていいだろう。
「うわっ、凄いな。最近の装備って一カ所でそんなに効果が山盛りなんだ……」
「ネットゲームにインフレはつきものですからね。私の装備は装備制限も四次職以上のみの高性能装備なので、数年前に引退した快人さんから見ればとんでもない性能に見えますよね。とはいっても、別に私の装備は最上級品ってわけじゃないですけどね。中堅ぐらいのレベルですかね」
「中堅でその性能っていうと、インフレ具合を実感させられるなぁ……そうなると俺の倉庫にあるようなアイテムは、葵ちゃんにとっては懐かしい品が多そうだね」
「ですね。というか、結構いっぱい入ってますね」
「装備とかは葵ちゃんに渡したけど、それ以外のアイテムとかレア度は高いけど性能が微妙な装備とかは売るのも面倒で倉庫に入れたまま引退したからね」
「へぇ……え? あっ、快人さん! それ、そのアイテム!」
懐かしさを感じながらアイテム倉庫を見ていると、それをのぞき込んでいた葵ちゃんが急に慌てた様子で声を上げた。
葵ちゃんが指さしていたアイテムは、とあるフィールドボスのレアドロップ品ではあるが、特に使い道は無くNPC売り価格が高いだけのアイテムで、いちおうはレアドロップなのでコレクションとして倉庫に入れていただけの品だった。
「そのアイテム、いま滅茶苦茶高額で取引されてますよ!?」
「え? そうなの? 俺がプレイしてた時にはレアなだけで使い道は無かったけど……なにかいい使い道が実装されたの?」
「はい。数ヶ月前に神器っていう物凄く強い装備が実装されて、それを作るためにボスのレアドロップがたくさん必要なんですよ。中でも、快人さんが持ってるそれは、特に手に入りにくくてトップ層がこぞって高額買い取りを希望してますね」
「……序盤のフィールドボスだったから、狩るのは簡単そうだけど」
「いえ、それが2年前にドロップ調整があって、序盤のフィールドボスからはそのアイテムはドロップしなくなって、いまは高難易度ダンジョンの時間湧きボスしか落とさなくなってて、その影響もあってガンガン値上がってる感じですね」
なるほど、俺がプレイしていた当時もドロップ調整の時も特に意味が無いレアなだけの品だったが、ごく最近実装された新要素で必須のアイテムになってしまい価格が急騰したわけか……確かに使い道のないアイテムで、NPC売り価格が高くNPCに売ってしまっていたプレイヤーも多かったから、貴重なアイテムになった感じか……。
もちろん俺みたいにコレクション目的でとっていた人も居るだろうけど、そういう人たちも高く売れるなら可能な限り高く売りたいだろうし出し渋って価格は吊り上げる。
葵ちゃんが物凄く強いっていうぐらいだから、その神器は最前線組には喉から手が出るほど欲しい装備だろうし、その手のトッププレイヤーは当然資金も膨大だから高値で買い漁るわけか……。
「しかも、20個ぐらいあるじゃないですか……」
「昔はよくボス狩りとかしてたしね」
「それ売ったら、最前線級とはいかないですが、かなりの装備が揃いますね」
「ふむ、アイテム相場とかも含めて完全に浦島太郎状態だし、その辺りも含めて葵ちゃんに教えてもらいたいね」
「任せてください! いろいろ教えますよ! って……ふふ、なんだか昔と逆ですね」
「確かに……」
以前一緒にプレイしていた時は、俺が葵ちゃんにいろいろ教えていたのだが、いまは逆に葵ちゃんが俺にいろいろ教えてくれている状態だ。
それが嬉しいのか、葵ちゃんはニコニコと笑顔で浮かべており、微笑ましくも可愛らしい。
「じゃあ、さっそく市場にいって買取してるところに行きましょう。それで、ある程度の装備を整えて……快人さんは二次職だから狩場は……快人さんの画面も見た方がいろいろ教えやすいですし、椅子の配置変えて隣に座りますね!」
「……う、うん。葵ちゃんがそれがやりやすいなら……」
本当にウキウキという感じで俺の隣に椅子を移動させ、肩が触れるぐらいの距離に近づいてくる葵ちゃんからは、オレンジのようないい匂いがした。
香水だろうか? 柑橘系が好きだって言ってたし、香水もそういう感じの香りを好んで付けて……あれ? 出もいままであんまり香水とか付けてなかったような?
シリアス先輩「これ、この香水関連にも恋愛的ななにかがあったりする?」
マキナ「愛しい我が子が考えた通り葵は普段はほとんど香水はつけてないよ。冒険者として活動する時も香水はあんまりよくないって思いがあるみたいだしね。ただやっぱりそこは恋する女の子だからね、愛しい我が子と遊びに行ったり、今回みたいにふたりきりで過ごすときには香水を使ってるし、化粧とか髪のセットとかも普段以上に時間をかけてるね」