懐かしきMMO①
とある日の午後、俺は自室に招いた葵ちゃんと一緒にシロさんから貰ったゲーム機で以前やっていたネットゲームができないかを試してみることにした。
なお、陽菜ちゃんはネットゲームには興味が無いとのことでスカイさんのところに遊びに行っている。
「とりあえず普通に出てくるか試してみようか……あっ、あるなゲーム名……やれそうな感じがする」
「こっちとあっちの時間の流れは違うはずですが、これでネットゲームをプレイした場合の時間経過とかどうなるんでしょうね? いえそもそも私や陽菜ちゃんが転移直後の時間に戻れてることも……う、う~ん、全能の神様のやることなので、考えたところで分からないですね」
「うん。正直その辺は深く考えない方がいい気がする……えっと、ゲームを選択して……おぉ、キーボードかコントローラーか選べるんだ。かなり高性能……あれ? でもこれ、一緒にプレイするのは無理だよね? ゲーム機は一台しかないわけだし……」
シロさんから貰った黒い箱状のゲーム機は、触れるとプレイ可能なゲームリストが出てくるし、検索機能とかジャンル分け機能もしっかりついていて、コントローラーとかもゲームに合わせたものが出現するという超高性能品だ。
だが、複数人プレイに対応しているゲームはともかく、ひとり用の……しかもネットゲームを葵ちゃんと一緒にプレイするのは無理なのでは?
(問題ありません。本体に触れて頭で思い浮かべればゲーム機本体が増えます。ただし増えたゲーム機は、一日経過で自動的に消えます)
あっ、そんな機能もあったんですね。それはありがたいです。
「……葵ちゃん、いまシロさんが教えてくれたんだけど、時間制限はあるけど本体を増やせるらしいから、一緒にプレイもできそうだよ」
「本当ですか!? それは嬉しいですね。正直、交代しながらやるのが限界かと思ってたんで、それは嬉しいですね!」
明らかに嬉しそうにはしゃぐ葵ちゃんを微笑ましく思いつつ、シロさんに教わった通りに念じてみると本体が増えたので、片方を葵ちゃんに渡す。
そういえば、このネットゲームはクライアント……ゲームを起動するためのプログラムをダウンロードしてパッチを当てる必要があったはずだけど、その辺はどうなってるんだろう?
「……これ、クライアントのインストールとかもいらないのかな?」
「ちょっと待ってください……あっ、普通にIDとパスワード入れるだけで起動しますね。パッチも最新まで当たってるみたいです」
「なるほど、それならすぐにプレイできそうだね……えっと、IDとパスワードは確か……」
さすがに久しぶりなので若干おぼろげではあったが、間違ってはいなかったようで俺のネットゲームアカウントが起動した。
「おぉ、懐かしいね。あっ、ちゃんとキャラも残ってる」
「本当に、懐かしいですね。シェルさんのキャラ……忘れてはいなかったですが、久しぶりに見ると感慨深いです。というか、当たり前ですけどまだ二次職なんですね」
「俺がプレイしてた時には、三次職は実装されてなかったしね」
「いまは、四次職までありますけどね」
「え? そうなの!? うわっ、完全に浦島太郎状態だなぁ……」
本当に懐かしいマイキャラクターを見て感慨深い気持ちになっていたが、それ以上に葵ちゃんのテンションの上がり方が凄い。
普段は結構クールなイメージのある葵ちゃんだけど、いまはニッコニコの笑顔であり、俺とまた一緒にこのゲームで遊べるのが嬉しいって気持ちが見た目からも伝わってくる。
ただ、そのテンションで行動の加減が緩くなってるのか……いまも、俺のモニターを覗き込んできた際に、テンションが上がってる葵ちゃんは気付いてなかったようだが、顔がくっつきそうなほど近かった。
「快人さん! 早く、早くプレイしましょう!」
「あはは、了解……えっと、最後にログアウトしたのは……」
「あっ、その街ですね。すぐに向かいますね!」
童心に返っているというか、満面の笑顔で笑う葵ちゃんは可愛らしく、なんというか改めて完全に引退してしまったのは申し訳なかったと感じた。
いや、あの当時は葵ちゃんがそこまで別れを惜しんでくれていたとは気付かなかったのだが、大学に入って時間的な余裕ができた際にでも復帰しておけばよかったかもと、いまさらではあるがそう思った。
まぁ、せっかくの機会なので今日は時間の許す限り葵ちゃんに付き合うとしよう。
シリアス先輩「……出番が少な目なので軽視されがちだが、葵ってまじでヒロインとしてのスペックは高いからな……貴重な年下枠、後輩属性、黒髪ロング、初恋をずっと一途に胸に秘めていた……つよい」